第1話「鬼の抱擁」
※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。
「……」
まただ。
今日も睨まれてる。
最初は気のせいだと思っていたけど、こう毎日続くと気のせいではない。
「ねぇ、結衣…。今日も鬼島(おにしま)、結衣(ゆい)の事睨んでるね」
「き、気のせいだよ……。ほら、私の席の後ろ扉だから廊下見てるだけじゃないかな……?」
「気のせいにしたいのはわかるけど、睨んでるね」
気のせいにして済ませようとする私にクラスで一番仲の良い広子ちゃんが追い打ちを掛けるようにしてそう言った。
そう。
私は鬼島君と春のクラス替えで同じクラスになってから毎日の様に睨まれている。
鬼島君といえば。
本名、 鬼島猛 オニシマ タケル。
・中学生を脅していた。
・去年の私のクラスの教室のロッカーをへこませた。
(本当にへこんでいた)
・大学生の美人な彼女がいて高校生なのに同棲までしている。
などの噂があり、身長推定180㎝超えの長身で鋭い目付きが印象的な恐い顔。
とにかく 恐い人という事で有名だ。
「はぁ……。私、何か鬼島君の気に障るような事したかな ?話した事ないし、全然身に覚えないんだけど」
「まぁ、鬼島の怒りの沸点がどこにあるかもわからないし何とも言えないけど。何か言いたい事があるんだったら直接言いに来るんじゃない?」
「……そっか。そうだよね」
直接言いに来られても怖いけど…。
「……」
あれ……?鬼島君が歩き出した?
こっちに向かって歩いて来てる……?
ううん……絶対違う。こっちに来てるわけじゃな……
バンッ!!!!!
「!?」
「……」
私の机の上に鬼島君の手がある……。
つ、机殴った!?
目の前ですごい目付きで眉間にシワを寄せて私を見下ろす鬼島君の脅威に震え上がってしまう。
「オイ、 今日の放課後。体育館裏に……来い」
「え……?」
「絶対だ、わかったな?」
いつも以上に恐い顔をしている鬼島君に……頷く事しか出来なかった。
私が頷くと、鬼島君は手を引っ込めて私の席の後ろの扉から出て行った。
「うわ……すごい迫力。机殴って威嚇して来たよ」
「どうしよう……。怖くて頷いちゃった」
「どうしようって……行くしかないでしょ。行かないともっと怖くない?」
「そうだけど……。あ、そうだ!広子ちゃんも一緒に」
「私は行かないけどね。放課後用事あるし」
「ゥッ……。そうだよね」
キッパリと断られちゃった……。
あまりの恐怖に涙目になっていると、広子ちゃんが自分の通学鞄を漁り始めた。
「いくら鬼島が怒ってるとはいえ、いきなりクラスメートの女子に危害加えたりいないでしょ。コレ貸してあげるからもし危ない事になったら使いなよ」
「え?何 コレ……?」
広子ちゃんは優しく微笑みながらスプレー缶のような物を握らされる。
それを確認すると護身用催涙スプレーと書いてある。
こんな物持ってるんだ……今のご時世何があるかわからないもんね。
体の大きい鬼島君に殴りかかられたりしたら絶対敵うわけないし何も持たないで行くよりは心強いかもしれない。
でも、撃退用だからこれで鬼島君が怪我しちゃったりしないかな……なるべく使いたくはないなぁ。
はぁ……放課後が憂鬱……。
放課後。私は体育館裏に続く道で深呼吸をしていた。
鬼島君は帰りのホームルームから既に教室にはいなかった。
と、いう事は先にいて 待ち伏せしてるという事だ。
ここに立ち止まっていても何の解決にもならない。
意を決して広子ちゃんに借りたアレを持って体育館裏を覗き込んだ。
あれ……誰もいない?よかった……
そう思って振り返ると、目の前になんと鬼島君が立っていた。
「……おい」
「わわッ……!?」
突然後ろから声を掛けられて私は驚いて躓いてしまって、その場に尻もちをついてしまった。
「痛ぁ……」
「平気か!?」
「え?う、うん?」
鬼島君は急いで私の腕を引っ張って、立ち上がらせてくれた。
わ……鬼島君の手大きい……。
「……ありがとう」
「いや……。急に声掛けて悪かった」
「ううんっ!えっと……私どうして呼び出されたのかな?」
鬼島君の印象がいつもと何だか違うような気がする……?
じっと見つめるようにすると、鬼島君はまた眉間にシワを寄せ恐い顔になった。
と思った瞬間、鬼島君の大きな手がバッと私の前に下りて来る――
嘘!?殴られるッ!?
私は 咄嗟(とっさ)にギュッと目を閉じた。
「 す、す、す、好きだッ!俺と付き合え!あ!違う!……あーっと……。付き合ってください!」
「……え?」
目を開けると、鬼島君は私の前に手を差し出していて頭を下げていた。
突然の告白に私は唖然としていた。
「嘘……。鬼島君って私の事いつも」
「あー……やっぱり気付かれてたよな。わりぃ、シーナが同じ教室にいると思うとつい目で追ってた」
「え!?ごめんなさいッ!私、いつも鬼島君に睨まれてるって思ってて」
「違う!睨んでねぇよ!? 」
「うん……睨まれてるんじゃなくてよかった……。ごめんね、私まだ鬼島君の事全然知らないからすぐに付き合うとかはまだ考えられなくて……」
「そ、そうだよな……。いきなり告白なんかして悪かった」
鬼島君はそう言って私に向かって差し出した手を引っ込めて、肩を落とした。
落ち込んでる……?絵に書いたようにわかりやすい。
恐いと思ってた鬼島君が今はなんだか……頭を掻いている鬼島君が可愛いとさえ思えてくる。
もっと鬼島君の事知りたい
そんな気持ちでいっぱいになっていた。
*続く*
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