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#初心者なので、文章が拙いです
ぜ
48
#短編
sky
38
105
ruruha
818
「あら、また来たの?ふふ、物好きな人」
桜が舞う季節。病室で、僕はいつも通りドアに手をかける。ガラガラという音に君は視線をこちらに向けた。
お昼頃の光に照らされてベッドに座っている君は天使みたいに儚くて、僕は目を奪われてしまいそうになった
「…また来たよ。当たり前でしょ?恋人には来る権利くらいあると思うのだけれど」
「まぁ。そう?こんな恋人いても、仕方ないんじゃなくて?」
「……そんなことないよ。君自身がそんなこと言わないでくれ。僕は君を愛しているのだから」
君はクスクス笑い、肩を揺らしていた。その姿が憎らしくて、愛らしかった。僕は病室に入りながら後ろ手でドアを閉める。
カツカツという靴の擦れる音と共に僕の体は君のもとへ近づいていく。
「調子はどうだい。元気にしてる?」
丸く背もたれのない椅子に腰をかけると、ギィ、という錆びた鉄の軋む音がした。
「元気か、なんて、当然じゃないの。いつでも私は元気よ。」
「そうか、良かった。健康ならいいんだ。君が健康で居てくれるだけで僕は幸せだからね」
「ふふ、全く。あなたは、本当に物好きなのね」
そう笑う君と窓の外にある舞い落ちる桜が見惚れてしまうほど綺麗で、僕は自分の頬に熱が集まるのを自覚してしまった。
「…揶揄うのは辞めてくれ。百合、……まだ、退院出来ないのか?」
「…ふふ、そんなに私が恋しくなってしまったの?」
「まだ退院は出来ないって、お医者様に言われてしまったわ。」
「…そう、そう、だよね。あぁ、大丈夫だよ。自分のペースで治していこう」
ずきりと痛む心臓を無視し、口角を上げる。
百合が頑張っているのに、僕だけ苦しいなんて弱音は吐けない。
唾を飲みこんだ。吐き出してしまいたくなった言葉と一緒に。
「暗い顔をしているわ。どうかしたの?嫌なことがあったなら私でよければ聞くわ」
「いいや、、…なんでもないさ。心配させてしまってごめん。」
「それより今日は一段と桜が綺麗だね。君と見ているからかな」
我ながら少しキザなセリフだと思う。言ってから少し後悔の念が出てきたが、何とか押し込める。百合は穏やかに笑っていた。
あぁ、ほんとに天使みたいだ。僕にはもったいないくらい素敵な恋人だ。
目を離したらどこかへ消えてしまいそうで、僕は君の頭の上、頭上に手を持って行った。椅子が重力でまた軋む
「……君に天使の輪でもついたら、僕は一緒に天国へでもついて行ってしまいそうだ」
「まぁ、おかしな事を言う人。私が貴方を天国にお誘いなんて、冗談が上手ね」
君は片手を口元へ持っていき、肩を揺らす。なんだが、こちらが恥ずかしくなってくる。自分でもわかっていた。おかしな発言だと。でも改めて言われてしまうと、余計に恥ずかしい。自分で言っておいてなんだ、という話だが。
じわりと頬に熱が集まる。
体を少し引き、椅子に座り直した。こほん、と恥ずかしさを隠すための咳払いをする
「……おかしなことを言ってる自覚はあるさ、だから揶揄うのは辞めてくれ。恥ずかしくなってしまいそうだ」
目を閉じ、少し厳格な態度を見せてみたが、きっと耳が赤いのだろう。鈴のように軽く、聴き心地のいい笑い声が僕の鼓膜を優しく揺らした。
顔の赤みを自分でわかってしまうのがまた、どうしようもなく恥ずかしく、いたたまれなくなる
「それより、話を変えたいのだけれど!…最近は桜が綺麗だと思わない?そういえば、君はどんな花が好きだったっけ?」
「白いゼラニウムよ。…ふふ、私にピッタリだと思うのだけれど、どう?」
ふわりと微笑んでいる君の目が綺麗だ。
「あぁ、すごく似合ってるよ。白いゼラニウム、…白百合みたいに純潔な君にピッタリだ。君は白が似合うからね」
「まぁ。そんなに褒められたって何も出てこないけれど、ふふ、ありがとう」
そんな他愛もない話をして、また今日を君と過した。君と過ごす時間が全部楽しくて、幸せだ。幸せで仕方がない。最愛の人と過ごせる日々は、金平糖のように甘かった
「百合ッ!!!!!」
ある日のお昼、病院から1本の電話が入った。出てみれば、百合の命が危ないと。その言葉を聞いた瞬間、世界の音が遠のいた。行き交う人みんながスローモーションに見える。次の瞬間には、僕の足が勝手に駆け出していた
病院についてすぐ君の元へ行きたくて、病室まで駆けた。カツカツという靴の擦れる音がいつもより早く、短いテンポで聞こえてきた。
「あら、また来たの?ふふ、物好きな人」
「冗談言ってる場合じゃない!!っ、容態が悪くなったって、!!医者から聞いた!」
「そんなに息を切らして…ほら、椅子に座って?」
人工呼吸器をつけられている君も綺麗で、それがどうしようもなく心臓の奥底を握りつぶすように締めてきた。君のもとへ駆け寄り、ベッドに横たわっている君を、立ったまま見下ろす
人工呼吸器が一定の間隔で白く曇る。僕を見る君の目は、いつもと同じで、穏やかな瞳をしていた
「……………残り、少ないって」
「ええ、そうね。…そんなに悲しそうな顔をしないで欲しいわ。最期くらい明るい顔をしてちょうだい」
「っ、、………できない、出来ないよ。」
声が上擦って掠れる。喉が痛い。視界が少しぼやけて見えた。
あぁ、こんな顔、君には見せられないな。
僕は俯いた。俯くと、もっと目頭が熱くなってきて、視界が先程よりもぼやける。今、君はどんな顔をしているのか、見たいようで見たくない。
矛盾が生じる感情を抱えた。その感情は、すぐ抱え切れるものではなくて、胸がはち切れそうな程だった
「…顔を上げてくれない?……せっかく来てくれたのなら、話したいわ。それくらいしか、私にはできることが無いんだから。」
君の声が酷く優しくて、その優しい声が鼓膜に馴染んだ。心の痛みが揺らいでいき、また締め付けられた。
「あぁ、そう、だね。沢山話そう。僕はまだ君に話したいことが沢山あるからね」
「まぁ。じゃあ聞かせてもらえる?あなたの話を沢山聞きたいの」
君がそういうから、僕ははち切れそうな心から目を逸らして、口を開く。いつもより饒舌で回る口に、自分でも驚いた。
「〜でさ、そういうことがあったのだけれど、全く困ったよ。僕は得意じゃないっていってるのに、全く聞いてくれなくて──」
「ねぇ」
「ん?どうかした?あぁ、気に入らなかった?別の話にしようか」
「いいえ、違うわ。その話はすごく面白いけれど、少し、話したいことがあって。…一つだけ、お願いを聞いてくれない?」
僕は百合の言葉に目を見開いた。だって、百合が自分で何かをお願いすることはとても少なかったから。
僕は少し嬉しくなった。あぁ、頼られてるのだと。そう実感できる。それに、きっとこれは、最期の願いだ。だってわかる。僕が話していた時、どんどん相槌の頻度が少なくなっていっていたから。
もうダメなのだと、悟ってしまった。悟ってしまったから、また、あの感覚に襲われた。胸が締め付けられて、言葉を出そうにも喉が焼けたように痛む、声が出なくなる、あの感覚。
唾を飲み込むのと同時に、色々言いたい言葉も飲んだ。慣れている。大丈夫だ。
「…あぁ、なんでも言ってくれていいよ。僕にできることなら何でもする」
自分にできる最大の笑みを浮かべ、自分にできる最大の優しい声を出す。すると君は、ふ、と悲しいのか嬉しいのか分からない顔をした
「まぁ、良かった。…それじゃあ、一つだけ。」
焦らすように、少し百合が黙る。百合の視線が病室の天井に移り、そのあと目を閉じた。
「名前を、呼んで欲しいの」
「…名前?」
「ええ、そう。名前よ」
僕は鳩が豆鉄砲食ったような顔をした。正確には自分の表情は分からないが、きっとあほ面だ。
名前?名前だって。名前呼ぶのがお願い。そんなのいくらだって呼んであげるのに、なんで。
そんな思考が頭を過ぎるが、すぐに振り払った。今は百合のお願いを聞く方が先だ
「…百合。」
優しい声で君の名を呼んだ。
そうすると、君は笑っているのに、笑っていないような、悲しそうな顔をした。
その顔をした理由が僕には分からなかった。なにか間違えただろうか?違った?ならどうすれば良かったのか。名前を呼べと言われたから呼んだ。すると君は傷ついた顔をする。
僕には、君がわからなかった。
「………もう1つ、最期に聞いて欲しいことがあるの。」
僕は君の言葉を聞き、ハッとした。少し俯き気味になっていた顔をあげる。
──呼吸が、浅くなっていっている。
声に覇気がない。
あぁ、もう近いのだ。死神が僕の天使を狩りに来る時が近づいている。
だから僕は、精一杯深呼吸をし、君をしっかり見つめた
「…うん、どうしたの?」
君は、天井に視線を少し寄越したあと、また僕を見た。
数秒の沈黙の後、君は小さく口を開いた
「もう一度、私の名前、呼んでみてちょうだい」
「…百合」
「…ええ、そうね。百合。……そう。あなたの恋人の名前よ。」
君は笑いながらもまた傷ついた顔をした。言い方に妙な違和感を覚えた。まるで、他人事みたいな言い方をする。だが、僕はその言葉を飲み込んで百合の言葉を待った
「私の名前はね、葵、って言うの。…百合じゃない。……百合は、3年前亡くなった──」
「──私の妹」
「そしてあなたの、恋人の名前。」
「…ごめんね、ずっと言えなくて。百合が愛していたあなたを傷つけることが、私にはできなかった。」
何を言っているんだ。何を、そんなはず、だって百合は
ぷつ、と何かが切れた音と同時に、頭が冷水を浴びたように冷えて行った。
──思い出してしまった。
あぁ、そうだ。百合はもう居ないのだ。だって交通事故で三年前に亡くなってしまったから。
車にはねられ、頭から血を流して力が抜けたように横たわった百合と、周りの騒音。あの時の光景が、脳裏に刻まれて、閉じていた扉を開けたように浮かび上がってきた。
思い出したくない記憶がどんどんと溢れてきた。
僕は、ずっと百合に似た姉を付き合わせていたのか。僕の、
──僕のままごとに。
現実を受け入れられず、似た君を百合に見立てて、恋人のフリしていたのか。
君のために買ってきた白いゼラニウムが花瓶に飾ってある。白く、小さい花びらが1枚だけひらりと舞い落ちた。
急に目が覚めたように、頭がスッキリした。
あぁ、そうか、全部、僕のせいだったんだ。
あの時、あの時の交通事故だって、僕が前を見てなくて、そのせいで庇った百合が。
今も、百合じゃない君を、百合に見立てて恋人気分で。
全部僕のせいだったのに。それに僕は気付けなかった。
違う、気付きたくなかっただけだ。
───あぁ、なんだ。ずっと、ずっと悪いのは、僕だけだったじゃないか。
『ごめんなさい』
コメント
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ぜさん、読み終わりました…。もう、最後の展開に衝撃が走りました。「百合」だと思っていた彼女が、実は亡き恋人の妹で、ずっと名乗れずにいたなんて。主人公も読者も現実を見たくなくて、二人で作り上げた優しいままごとだったんだなって思うと胸がぎゅっとなる。白いゼラニウムの花びらが一枚落ちるあの描写が、あまりにも美しくて苦しい…。素敵なのに抱えきれないほど切ないお話をありがとうございます。