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もしもゲームの内容と大幅に変わってしまったら、ラファエルとヒロインは巡り合わないのではないか。そして、イアン……俺がどう立ち回りをすべきなのかも分からなくなってしまう。
ラファエルの頬に手を伸ばして、そっと撫でた。
「にいさん?」
「ん?どうした?」
優しく微笑むと、ラファエルは安心したように息を吐いた。
「良かった……上の空だったから。」
こんないい子をゲーム内のイアンは虐めていたんだ。何故か、自分がやった事でもないのに、胸がズキズキと傷んだ。
「ほら、もう遅いから寝よう。」
「うん…。」
また頭を撫でてやり、横に寝転がった。大丈夫。ゲームのようにはならないはずだ。ラファエルはこのまま育てば、道を踏み外さず、ヒロインと楽しく過ごす。だから、俺だけはラファエルを見捨ててはならない……。
ラファエルの寝顔を見ながら、考えているうちに意識が薄れていく。
―――俺が守らなきゃ―――
その頃、雷の音は弱く途切れていき、雨が止んでいた。
あれから4年、16歳になったイアンは屋敷での学習もそろそろ終わりを告げ、学園に進学する時期が狭まってきた。
「兄さん!」
後ろから呼び止められ、振り返る。そこには、綺麗に衣装をまとったラファエルがいた。
(本当に美しく育ったな……。)
ラファエルの白髪は風になびき、太陽がきらきら反射している。その姿に惚れ込む使用人もいるほどだ。
「どうしたんだよ、ラファエル。」
みっともない顔を見せたくなくて、さりげなく微笑んだ。
「どこに行ってたんですか!朝起きたら兄さんがどこにもいないから、心配したんですよ!」
そう言ってガバッと抱きついてきた。俺はポンポンと背中を叩いて、なだめた。
朝起きたらというのも、あの日以来、ラファエルは俺に甘えていいということを知り、3日に1回は一緒に寝るようになってしまった。少々甘えさせすぎたのではないかと思ったが、これ程だとは……。
「ごめんな、久しぶりに散歩したくて。起こすのも気が引けてさ。」
言い訳を言いつつ、ラファエルを引き剥がす。
「でもラファエルもそろそろ自立する頃じゃないか。今日を機に少しずつ1人で眠れるようにしていこうな。」
そう言うと、ラファエルはエメラルドグリーンの目を見開いて俺の目を見つめた。
「何故ですか?誰にも迷惑をかけていないじゃないですか。」
「うーん…でもあと少ししたら学園に通うことになるんだぞ。俺はラファエルよりも1年早く通うことになるから、今のうちに慣れておいた方が良いんじゃないか?」
ラファエルは小さい子のように頬を膨らませて、俺の肩に額を擦り付けた。
「……あとちょっとだからこうして長い時間一緒にいたいんですよ。」
「…ああ、分かった分かった。しょうがないな。」
最近はラファエルが俺に対して過保護になってきており、酷い時は一時も1人にさせて貰えなかった。
(早めに了承しておけば、後から面倒くさいことにならないしな。)
イアンは2年ほど前に、1人で街へ出かけたことがあった。ラファエルや親にも伝えず、たった1人で荷物を準備して出て行ったのだ。
帰ったらラファエルにお菓子やらをあげてやるつもりだった。しかし、ラファエルがイアンがいないことに気がつくと、大暴れしたのだ。わざと父上にイアンが消えたと大事にして、イアンがこっそり帰ってきた時には大激怒の嵐であった。
その後、イアンは自分の部屋から出ることを禁じられ、1ヶ月もの間外に出ることは許されなかった。
「兄さん、どうして俺に言ってくれなかったんですか?」
イアンの部屋に自由に出入りできるラファエルは問いかけた。ラファエルが父上に伝えたことを知っていたから、俺は拗ねて素直に答えなかった。すると、ラファエルは俺の顎を掴み、強制的に目を合わせてきた。
「俺のことが嫌いになりましたか?」
顎をはなしてもらおうと抵抗すると、今度は押し倒され、
「もし今度、俺に報告しないことがあったら、父上に兄さんを監禁してもらいますよ。」
と言われた。前までは弱々しく、イアンに頼ることで育っていた子が、ついに脅迫までするようになってしまった。
(これがゲームの強制力か?)
心拍数が上がり、部屋にはイアンの心臓音が静かになっていた。
ラファエルは長い間イアンを見つめていたが、ふうっと息を吐いてイアンの上に倒れた。
「…兄さんがいないことに気づいた時、どれだけ焦ったか分かりますか?もう二度としないでください。」
急に静かに呟かれ、何故だか罪悪感で押しつぶされそうになった。
「…うん、約束するよ。」