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「あれ、午後ないんですか」
キヨシは健太のテーブルにやってきて座った。
ないとも言えるしあるとも言える、と健太は答えた。
「また得意の自主休講ですか」と、キヨシは皮肉っぽく言った。そういう自分はどうなんだと聞くと、キヨシのクラスは先生が病気で休みになったのだという。
健太はカフェテリアの南側一杯に広がる窓に椅子を向けた。今日も高層ビル群が、排気ガスの白ばみの中に建っている。
「ところで、ドリーム・トラベルはつぶれちゃったんですか」
健太はキヨシの方を向くと、何でそんな風に思うのかと聞いた。
「だって、看板ここんところずっと、飾ってあるだけですもん」
看板とは、森さんが作った横一メートル、縦五十センチほどの木製の板で、カレンダーの白い裏紙が貼られた上に「観光案内 ドリーム・トラベル」と極太黒マジックで書いてある。森さんはその看板を持ってツヨシを引き連れ、一週間くらいは平日・休日を問わず足繁く空港の到着ロビーに通っていたらしい。最近はその看板も、健太のアパートの玄関付近の同じ位置に立て掛けられたままだ。
「やっぱ客、つかまらなかったって? ツヨシ言ってた?」
「まあ、そんな様子に見えます」
キヨシはコーヒーを買ってきましょうかと席を立った。