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「先輩と後輩の距離」
放課後の校舎は静かで、廊下に響く足音がやけに大きく聞こえた。
「だりぃ……」
葛葉はネクタイを緩めながら、前を歩くローレンの背中をぼんやり見ていた。
赤髪のウルフカットが揺れて、やたら目につく。
「それ今日何回目だよ、葛葉」
「数えんな。学校来てるだけで褒めろ」
ローレンは小さく笑って、振り返る。
「くっさん、ほんと三年の余裕って感じするよな」
「余裕じゃなくて諦めな」
「それ余裕って言うんだよ」
生徒会の仕事終わり。
二年のローレンが実務を回し、三年の葛葉が人当たりと要領で場をまとめる。
正直、噛み合ってるのが不思議なくらいだった。
「で、どこ行くんだよ」
「プリン食う」
「即答かよ」
「俺の生きる理由」
校門を出ると、夕焼けが二人を包む。
ローレンは横に並びながら、ちらっと葛葉を見る。
「葛葉さ」
「ん?」
「なんで生徒会入ったわけ」
葛葉は一瞬考えて、肩をすくめた。
「なんとなく。暇だったし」
「努力嫌いなくせに」
「努力してねーだろ。全部ローレン任せ」
「自覚あるのムカつくな」
そう言いながらも、ローレンの声は柔らかい。
葛葉はそれに気づいて、にやっと笑った。
「でもさ」
「なに」
「ローレンいると楽じゃん」
唐突な言葉に、ローレンの足が止まる。
「……急になんだよ」
「事実。頭いいし、話通じるし」
「それ褒めてる?」
「たぶん」
ローレンは少し黙ってから、低く言った。
「俺も、葛葉といるの嫌じゃない」
「へぇ」
「むしろ安心する」
その言葉に、葛葉の胸が一瞬ざわつく。
誤魔化すみたいに視線を逸らした。
「後輩のくせに生意気」
「三年のくせに子供」
「喧嘩売ってんの?」
「売ってない。事実」
並んで歩き出した瞬間、手が触れた。
離そうと思えば離せたのに、どちらもしなかった。
「……なあ、ローレン」
「ん」
「俺、もうすぐ卒業じゃん」
「知ってる」
指先に、少し力がこもる。
「それでもさ」
「……うん」
「俺のこと忘れんなよ」
ローレンは驚いた顔をして、それから静かに笑った。
「忘れるわけないだろ、くっさん」
「……ならいい」
夕焼けの中、二人の距離はいつもより少しだけ近かった。