テラーノベル
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空の亀裂が。
さらに広がった。
軋むような音が。
遠くから響いてくる。
巨大な影が。
ゆっくりと。
こちらへ近づいてくる。
その動きに合わせるように。
空そのものが。
歪んでいた。
桔梗は。
そんな空を見上げていた。
それから。
佐衛門を見る。
「聞いて」
「何を」
「ずっと言えなかった」
桔梗は。
少しだけ俯いた。
白い袖を。
指先で握る。
「ごめん」
佐衛門は。
黙っている。
責める言葉は。
出てこなかった。
桔梗が。
こんな顔をする理由を。
少しずつ。
思い出していたからだ。
「最初は」
桔梗が言った。
「二人だった」
「私と」
「菫」
佐衛門の目が。
揺れた。
遠い。
遠い昔。
雪の中で。
誰かと並んで歩いている。
そんな記憶が。
一瞬だけ浮かぶ。
けれど。
顔までは見えない。
「私たちは」
「ずっと昔に」
「あれを見つけた」
桔梗が。
空を見上げる。
今では。
世界を覆うほど巨大になったもの。
だが。
最初から。
あんな姿だったわけではない。
「小さかった」
「本当に」
「手のひらに乗るくらい」
旅僧が。
眉を寄せる。
「……そんなものが」
「うん」
桔梗は頷いた。
「最初は」
「人の名前を」
「一つ忘れさせる程度だった」
誰かが。
名前を忘れる。
それだけ。
名前を忘れても。
生きてはいける。
だから。
二人は。
深く考えなかった。
「おかしいとは思った」
「でも」
「それだけだった」
桔梗の声が。
少し遠くなる。
「次は」
一人。
「その次は」
また一人。
「名前が消えた」
「その人が」
「自分が誰なのか分からなくなった」
旅僧が。
息を呑む。
「そして」
「名前だけじゃなくなった」
MOMO🩲
ひな
104
けだま15号🍓🐾໊
6,356
夕鳴
128
家族を忘れる。
故郷を忘れる。
大切だった人を忘れる。
自分が。
そこにいたことさえ。
忘れていく。
「気付いた時には」
桔梗が。
苦しそうに笑った。
「もう」
「遅かった」
佐衛門の指が。
僅かに動く。
刀の柄に触れる。
無意識だった。
「私たちは」
「戦った」
「……二人で?」
鐘撞きが尋ねる。
「うん」
桔梗は頷いた。
「二人で」
その答えに。
鐘撞きが。
しばらく黙った。
そして。
「無茶だな」
小さく呟く。
「そうだね」
桔梗が笑う。
「だから」
「負けた」
空気が。
僅かに冷えた。
「勝てなかった」
「でも」
「完全には負けなかった」
桔梗が。
胸元へ手を当てる。
「私たちは」
「あれを封じた」
空の向こうで。
巨大な影が。
動く。
まるで。
その話を聞いているかのように。
「その後」
桔梗は続ける。
「一人では足りなかった」
「だから」
「欠片を持つ者たちを集めた」
鐘撞きが。
小さく呟く。
「……二十四人」
「そう」
桔梗が頷く。
「二十四の欠片」
「二十四の封印」
「二十四人」
最後の一人が。
苦笑した。
「だから」
「お前だけ特別だったのか」
桔梗が。
そちらを見る。
「……特別?」
「俺たちは」
「欠片を持ってから」
「お前のことを知った」
「けど」
「お前だけは」
「最初から」
最後の一人は。
言葉を探すように。
一度黙った。
「俺たちより」
「ずっと深いところにいた」
鐘撞きも。
頷く。
「何でお前だけ特別だったのかと思っていた」
桔梗は。
少し笑った。
「特別だったんじゃないよ」
「始まりだっただけ」
少し間を置く。
「二十四番目っていうのも」
「二十四人目って意味じゃない」
佐衛門の目が。
僅かに動いた。
「……どういう意味だ」
「最初だったから」
桔梗は。
それだけ言った。
その言葉に。
お師さんが。
鼻を鳴らす。
「当たり前だ」
佐衛門を見る。
「元締めだからな」
佐衛門は。
何も言わない。
その呼び方が。
妙に胸へ引っ掛かった。
元締め。
そんな役目を。
自分がしていた。
その事実だけは。
不思議と。
否定できなかった。
また。
頭の奥で。
何かが軋む。
木の剣。
花。
小さな手。
そして。
自分の隣で笑う。
黒い髪。
「……桔梗」
佐衛門が。
小さく呟く。
「うん」
桔梗が答える。
コメント
1件
うわあ、ここにきて桔梗の過去が…。最初は二人だけだった、しかも菫と。そして「二十四番目」が「最後」じゃなくて「最初」だったっていう逆転、すごく効いてる。佐衛門の記憶も少しずつ戻ってきて、元締めって呼び方に引っかかるのも胸に来る。この世界の根っこが見えてきて、もう先が気になって仕方ないです…!