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「なぁネエチャン。それはいったい……」


再び後ろから声をかけられ、驚いて振り返るミューゼ。


「あ~……えっと、ちょっと変わった魔法です。悪魔は光を怖がるようなので」


正直に説明すると後々面倒という事で、とりあえず魔法と言っておく事にした。もっとも、一緒にいるアリエッタは否定など出来ない。

なんかよく分からない事は、とりあえず魔法と言っておけばなんとなく理解されるという雑な思考で、この場を乗り切る事にしたのだった。そしてその目論見は、何事もなく成功する。


「そっか、魔法か。ネエチャンはファナリアの人だったのか」

「ねえ! その光の中にいれば悪魔が来ないの!?」

「う~ん、タブン?」


太った女性が血相を変えて聞きに来たが、ミューゼはそもそも悪魔を見たのが初めてで、夜の中で光に驚いて逃げた姿を見ただけである。自身を持って肯定できるほどの材料は無かった。


「たぶんって何よ! はっきりしなさいよ!」

「そんな事言われても……」

「魔法使えるんだったら、遠くに移動する魔法とか無いの!?」

「そんな無茶な……」


急にヒステリックになった女性に、周囲の男達は引いている。ミューゼも突然の事に、まともに対応できなかった。


(言ってる事は分からないけど、ヒステリックおばさんかな? ミューゼの顔も困ってるし、ここは僕がしっかりしないと!)


何かを決心したアリエッタがとった行動は……


「みゅーぜ、みゅーぜ……」


手を引っ張って名前を呼び首を傾げる、ただそれだけだった。むしろそれ以外に出来る事が無いとも言うが。


「あ、アリエッタ。大丈夫よ、なんでも無いからねー」


ミューゼは助かったとばかりにアリエッタに微笑みかける。

すると、周りの男達が動き出した。


「おいキリセラ。子供もいるんだから、少しは落ち着け」

「そうだぞ。逃げたい気持ちは分かるが、みっともないぞ」

「う……あぅ……いや…だって……」


アリエッタの目論見通り、キリセラと呼ばれた女性はたじろぎ、ひとまずの落ち着きを取り戻したのだった。


(あ、あれ? まだ何もしてないのに……?)


目論見通りではあるが予想外だった様子。


(えっと、まぁいっか。ここからが本番だし!)

「アリエッタ、もしかしてまだ絵を描くのかな?」

「にゅふー」

「楽しそうだからいいか。この光の中なら悪魔も見えるかもしれないし、あたしは悪魔でも警戒しておこう」


ミューゼは気づいていなかった。光が出現したことにより、悪魔達が周囲で警戒を始めている事に。

そして……『正体不明の日光』を恐れて離れた場所で二の足を踏んでいる事に。




山の表面付近をゆっくり飛んで移動するピアーニャ一行は、山の上部に差し掛かっていた。ゆっくりとはいえ、山を歩いて昇るのと比べればかなり速い。

そんな移動中の『雲塊シルキークレイ』の上で、ロンデルがあるものを発見した。


「もうすぐアクマのすみかにつくぞ。きをつけておけ」

「分かったのよ……きっとあの明るい場所がそうなのよ?」

「ん? あかるい? アクマはひかりをこわがるのだぞ?」


夜の中でひときわ目立つ白色光が見える。

昼間の太陽の絵と違い、夜を晴らす事が出来ていないが、普通の光のように遠くからでも見えている。アリエッタ自身も気づいてはいないが、『リアルな太陽』と『記号的な太陽』の認識の差が、その違いを生み出していた。


「もしかしてアリエッタなのよ!?」

「そうなのか? しかしカミはミューゼオラのつえに、はいっているのだろう?」

「そういえばそうなのよ……?」


紙以外にも描ける事を知らない3人は、少しの間ミューゼの杖を見ながら首を傾げて唸る。今まで紙に絵を描いてきた事で、先入観と固定観念という弊害が生まれていた。

しかしパフィが、分からない事は悩んでいても仕方ないと割り切ったお陰で、人事に慣れて警戒をしていた2人も思い切って接近してみる事にした。そもそも夜を明るく照らすのは悪魔には出来ないという事もあり、普通に考えたらファナリア出身の魔法使いであるミューゼか、不思議な力を使うアリエッタしか原因が考えられない。

冷静なロンデルも、アリエッタの正体不明な力以外に警戒する要因が無いと判断し、接近を提案したのだった。


「むー?」


接近して光が大きく見えてくるにつれ、寝そべりながら前を見ているピアーニャが唸りだす。


「どうしたのよ?」

「いやな? チラチラとくろいモノがヒカリのほうこうにみえるんだ。あれアクマだな」

「えっ、どうすればいいのよ? 光が無いと見えないのよ」


ここに来る道中で、ピアーニャは『悪魔は夜に同化して、光が無いと見えない』と断言している。そしてパフィに光を生み出す術は、焚火しかない。もちろん狭い足場でそんな事は出来ないが。


「ロンデルがいるだろ。こいつもファナリア人だからな」

「あぁ」

「私の存在を忘れていました?」

「そ、そんな事はないのよ……そういえば出身聞いてなかったのよ」


パフィを追求するロンデルの掌には、明るく小さな光の球が浮いていた。それを制御し、『雲塊シルキークレイ』の周囲に数個浮かせる。


「ミューゼの光より明るくなるのよ」

「さすがに新人シーカーには負けませんよ。副総長の肩書も飾りではありません」

「なるほどなのよ」


そういえば森でも深い場所で単独行動していたなぁと、なんとなく納得したパフィ。何気なく横の光に目をやった。


「………………」


思わず沈黙。

目の前には光に照らされた黒い悪魔がいる。パフィと目が合った。


「あ、こ、コンバンワなのよ?」

「キ?」


悪魔とパフィはお互いに見つめ合う。そして、


ボシュッ

「おぴゃっ!?」


突然悪魔の体がはじけ飛び、思わず面白い叫びをあげるパフィ。


「パフィさん、悪魔が出ました。さぁ戦いましょうね」


何故か引率のお兄さんのように声をかけるロンデル。

慌ててパフィもナイフと共に担いでいた巨大フォークを構える。足場が少ない為、下手に振り回しては間違えて味方に当たるかもしれないという事で、突くのを選んだのだ。

フォークを構えて改めて見ると、周囲は明かりでうっすらと見える悪魔に囲まれていた。


「こーゆーちいさいアクマは、スガタさえみえればこわくないぞ。たたきおとしてしまえ」


ピアーニャの言う通りに戦ってみる2人。魔法を使うロンデルは勿論の事、パフィもフォークで悪魔を突き落とす。

小さな悪魔はただ突っ込んでくるだけで、うっすらでも見えていれば戦闘慣れしている2人には造作もなく倒せる程度でしかなかった。


「本当に大したことないのよ…っと。悪魔は怖い存在だったんじゃないのよ?」

「それはスガタがみえないからだな。こいつらはただ、ヒトをさらいリョウリするだけのシタッパだ」


数体倒された悪魔は、怯えるように距離を取り始める。2人は警戒を緩めず、うっすら見える悪魔達を睨みつけていた。


「下っ端? では上位の存在も?」

「うむ。ソイツらはアタマがよくてやっかいだぞ」


その説明を待っていたかのように、突然ロンデルの明かりが1つ消える。


「どうしたのよ!?」

「ふん、どうやらアカリをけすサクセンできたようだな」


相変わらず偉そうに寝そべりながら、不愉快そうな顔をするピアーニャ。力尽きているといえば聞こえは良いが、幼女が寝ながらブツブツ言ってるようにしか見えない光景である。


「ロンデルよ。アカリをそうさして、つかまらないようにしろ」

「はい」


すぐに光をあやつり、不規則な動きで周囲を漂わせ始めた。


「パフィは、とおくにあてるシュダンはもっているか?」

「ないのよ。このフォークが最長なのよ」

「ならばしかたがないな。わちがやるか」

「だ、大丈夫なのよ?」

「まだダルいがダイジョウブだ。コウゲキにセンネンするから、パフィはわちとロンデルをまもってくれ」

「了解なのよ!」


丁度ピアーニャに掴みかかろうとしていた悪魔を突きながら、与えられた役割をこなすために気合を入れるパフィ。


「あまりこのテはつかいたくなかったがな……ロンデル! ガッタイだ!」


ロンデルは命令のままにピアーニャを片手で抱える。そしてパフィは驚愕した。その姿はまさに……


「どっ……」(どこからどう見ても仲の言い親子なのよ!? 子供を抱っこする父親にしか見えないのよ!?)


パフィは危うく口から洩れそうになったツッコミを、ギリギリのところで心の中だけに押しとどめる事に成功した。

その和やかな見た目とは裏腹に、2人の表情は真剣そのものである。その表情を見てなんとか我に返ったパフィは、周囲の警戒を続けた。


「アカリのそくどをゆるめろ」

「了解」


少ない言葉でやりとりをしながら、周囲を睨みつける2人。

光の球の速度を遅くすると、すぐに変化が訪れた。


「光が──」

「ふん」


消える光を見てパフィが反応し終える前に、ピアーニャの『雲塊シルキークレイ』が足元から一部伸びて針となり、光のあった場所を貫いた。


「ギヒッ……?」


何者かの声がし、すぐさまロンデルが別の光をその場所へと移動させる。

そこにいたのは、異常なまでに長い腕を持つ、黒い人のような生き物だった。『雲塊シルキークレイ』の針は、その生き物の身を守ろうとした腕ごと、肩を貫いている。


「あれは?」

「まわりのちいさいアクマのリーダーってところだろう。チカラはつよいが、スガタさえみえればこんなもんだ」


貫いた『雲塊シルキークレイ』を変形させ、そのまま内部から切り裂きとどめを刺すと、再び警戒を強める。


「しっかし、なんかいっぱいいるカンジだな……」


ピアーニャは周囲からいくつもの気配を感じていた。

どうしたものかと悩んだその時、暗闇の中から何かが飛び出してきた。


「総長!!」


すんでのところでだけで持ったフォークを突き刺し、食い止めるパフィ。それは丸太程の黒い物体だった。

すぐさまパフィは右手にナイフを持ち、フォークで突き刺したそれを切断する。


「たすかったぞパフィ」

「よかったのよ」


軽く言葉を交わし、気を取り直して周囲を警戒する3人。


「こんな狭い中で、夜がバケモノになって襲ってくる感覚なのよ……もしかしてピンチなのよ?」

「うーむ……」


その後も2度3度と、闇夜の中から何かが伸びてきては、弾き飛ばし、斬り落とす。

相手の姿も見えなければ逃げる事も出来ない中で、3人は焦り始める。


「これはマズイな……」

「せめて相手の場所が分かればいいのですが……」

「しつこい…のよっ!」


気合一発パフィが渾身の突きで黒い何かを突き刺した時だった。

突然強烈な光が辺りを覆う。


「んなっ!? なんだぁぁぁぁ!?」

『ギィアアァァァァ!?』


ピアーニャと悪魔達の叫び声が、空にこだました。

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