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53 ◇追及
余りのことに松尾も両親も絶句するしか術がなかった。
その沈黙を強烈に破ったのは匠平だった。
「淳子さん、誰が誰にレイプされたって?
あなたが僕をレイプしたのでしょ?」
「なに変なこと言ってるの。誰もそんなこと信じないわよ、馬鹿々々しい」
********
淳子がそのようにしらばっくれたと同時に、予め打合せをして近くに隠れて
スタンバイしていた弁護士の丸山隆司と被害者の妻である工藤めぐみそして
菊池貴子の3人が現れた。
まずは、工藤が口火を切った。
「小泉さんの言ってることは真っ赤な嘘ですよ。
ここにいる菊池さんや私の夫もマッサージと称して密室で彼女のいいように
手玉に取られて、脅されて、そのせいで私たちは夫婦の危機に見舞われ
とんでもないことになってます。
この人は身体を使い商売をしている淫売です。
今日こちらには来てませんがまだ他にも被害に遭われてる夫婦がいます」
続けて菊池が松尾やその両親に向けて証言をする。
「信じられないようでしたら、夫たちを連れて来て証言させてもいいですよ。
今工藤さんが話したように小泉さんから脅されて私たちの夫はお金も取られて
いるので今後3組で、いえ、マンション内でもっと被害者がいるかもしれない
ので、その人たちを見つけ次第集団訴訟を起こすつもりです。
そのために、今日は弁護士の丸山先生にも来ていただいています」
「丸山です。小泉さん、いずれ訴状が届くと思いますよ」
ガタンと音が部屋に響いたかと思うと、淳子が立ち上がり
「嘘つきばかり! 圭子、あんた許さないから」
そう言うや否や立っている3人とその場で固まっている3人を尻目に
スタコラとその場から居なくなってしまった。
まぁ、彼女は絶対しおらしく謝ったりしないと思っていたため、想像していた通りで
笑うしかない。
54 ◇魔女は墓穴を掘った
私は以前のマンションから駆け付けくれたふたりと弁護士の丸山氏に
礼を述べた。
「お忙しい中、ありがとうございました。
手ごわい相手なので、ほんとに助かりました」
「こちらこそ、ここで仇を果たせて留飲が下がりました」
「訴訟を起こされるとか?」
「ええ、あんな品性の欠片もないような人とこの先も同じマンションで
暮らすなんて子供たちもいることだし、追い出したいんです」
そうだよね、誰しも考えることは同じよね。
私たちだってすぐに逃げ出したもの。
わざわざ遠方から来てくれた人たちに別れを告げて
私は松尾さんたちとの会話に臨んだ。
「いやぁ~、年の功で親は偉大だと再認識しました。しみじみ……。
私は危うく不良物件を喜んで掴むところでした。
渚ちゃん、ご主人、本当にありがとうございました。
また後日改めてお礼させていただきたいと思います。
今日のところはこの辺で失礼します」
礼を告げて松尾家族もまた、帰って行った。
匠平とふたりきりになった部屋で改めてお互い見つめ合うのだった。
「なんか、やっと終わったっていう感じ」
「うん……そうだな」
「淳子さんがくだらないことを私に言って来なければ、私は松尾さんには
悪いけど何も言うつもりはなかったのにね」
「魔女は墓穴を掘ったってわけだ」
「魔女か……」
「いや、悪魔だな」
「どうしてあんなになっちゃったんだろう。
お金が原因だとしたら、お金って怖いよね」
「そうだな」
私は今回のことを計画するにあたり、言わないで秘密にしておきたかったことを……
そうクラブで働いていることを、匠平さんに打ち明けていた。
今回のことで俺は圭子からホステスしていることを打ち明けられた。
少し前から知っていたが知らない体で聞いた。
********
『圭子、今の仕事……まだ続けるのかい?』
この時、匠平はよほど聞きたかったがグっと堪えた。
彼女が以前のように心も身体も全て自分のことを受け入れられる日が来れば
止めるのかもしれないと考えたからだ。
そんな日が来ればいいのにと、願わずにはいられない匠平だった。
55 ◇愛してる……とても
聞くところによると、工藤家はほぼほぼ匠平のところと似たり寄ったりの状況ゆえ
再構築を目指していたようだが、今回加納家が同じような目に遭っていたことを
知るにつけ、更に夫の主張を信じることができるようになり、夫婦仲は元に戻り
つつあるそうだ。
そしてもう一組の菊池家では、淳子に嵌められたのは同じだったのだが
そのあと2回、最初の1回と併せて計3回、誘惑に負けて淳子と致してしまい、
こちらは妻から三行半を突き付けられているらしい。
********
三行半を夫に突き付けている菊池貴子は先ほど留飲を下げる前に、ちゃっかりと
結婚する気で座っている小泉を目にした時、よくもまぁ、よその家庭を壊して
おきながらいけしゃあしゃあと、高学歴、高身長のイケメンと結婚しようとして
いるのかと思うと発狂しそうになっていた。
側に誰もいなければ、そして小泉のした悪事と相殺されるなら自分は彼女に
気硫酸をぶっかけてやりたかった。
それくらい自分には彼女への憎しみがまだ消えていない。
冷静に話せた自分を褒めてやりたかった。
そして、自分は被害者であると、堂々と妻たちに話していた夫を持つ
工藤や加納の妻たちが羨ましくて堪らなかった。
『私の夫は最低だ』
悲しくも零れ落ちた言葉ひとつ。
これから自分の心と同じように季節も寒い季節に向かうけれど、暖かい季節を迎える
頃には元気になっていると信じて進んで行こう、そんなふうに帰り道、貴子は思うの
だった。