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最新の注意を払っていたというのに……引っ越す前にたまたまマンションの
出入り口で淳子と遭遇してしまった。
「こんにちは」と挨拶したものの同じエレベーターに乗るのが嫌でそのまま
郵便ポストを覗きに行ったのだが、何とご丁寧に淳子はエレベーターには乗らず、
共用ラウンジのある場所に立って待っていた。
自分のことをわざわざ待っているのだと思うと胸がざわつき嫌悪感に苛まれた。
しかし、そこを通らずしてエレベーターに乗ること叶わず、千々に乱される心を
持て余しながら仕方なく淳子のいる方に向かい歩を進めた。
なるべく淳子の顔を見ないようにエレベーターを目指す。
そのようにして、圭子は淳子をスルーしたかったのに彼女はそれを許さなかった。
「圭子、急いでるの?」
そう淳子が自分に声を掛けてきたのだ。
「買い物してきてるので、できれば早く冷蔵庫に収納したくて……」
美紗はバギーの中で眠そうにしている。
疲れているし、買い物した肉や野菜も気になるし、娘を連れているし、それに
何より淳子とは一秒たりとも接触したくないというのが本音。
彼女に足止めされてイライラが止まらない。
「そっか、呼び止めてごめんね。ちょっと話したかったのよ」
そう言いながら彼女の方が私が立っているところまで歩いてきた。
「ねっ、先々月のことだけど……匠平くんが家に来た日のこと、何か彼から
話聞いてる?」
何を言い出すのかと思えば、この人は何が言いたいのだろう。
今の私にとってこの人は気持ち悪い人間でしかなく、嫌悪感でいっぱいだ。
「はい、電球を替えたと聞いてますけど……」
何か? と訊いてやるのも汚らわしい。
「他に何か話してな~い?」
私は考え込む振りをして言った。
「そうですね、何か言ってたかもしれませんが私余り気にしてなかったので……」
何かあったのですか? も訊いてやらないー。