テラーノベル
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夜の戦いに備えて、その日はゆっくり起きてくることになった。
阿部は着替えて準備を整えると、寝ている佐久間を起こさないようにそーっと部屋から出て行った。一階のリビングルームへ降りるとそこには、すでに岩本と宮舘がいて、トレーニング終わりらしき岩本が汗を拭き、宮舘は朝食を作っていた。
💚「おはよう、舘様、照」
❤️「おはよ」
💛「おう、おはよ……って、阿部、それ」
💚「これね。八分咲きになったからかな、見えるようになってた」
阿部の胸元には、服の上からうっすらと白い月下美人の花が見えている。満開までもう少しという状態で、確かに八分咲きくらいだろう。
❤️「大丈夫なの?」
💚「うん、今のところは。見えると気になっちゃうよね」
💛「いや、それはいいんだけど。なんか異変があったらすぐ言えよ」
💚「うん。ありがと」
❤️「阿部も食べるでしょ」
💚「あ、いいの?」
❤️「早起き組の分は用意してるよ」
💚「さすが舘様! うれしー」
ベーコンエッグとサラダとフレンチトーストが出てきて、目をキラキラと輝かせている阿部と岩本に、宮舘がふふっと笑う。
決戦の日とは思えない、自由な朝。
いつも通りに起きて朝ごはんを食べる者もいれば、ゆっくりたっぷり寝て昼頃に起きてくる者も。
前者は、岩本、宮舘、阿部の三人。中間が、ラウールと向井の二人。後者が、目黒、渡辺、佐久間、深澤の四人。
全員が起きて昼食を食べ終えた頃、阿部から、昨日の夜に佐久間と話した内容が告げられた。
佐久間への頼み事の部分だけを伏せて。
💛「なるほどな」
🖤「言われてみれば、確かに。あの時会った芙蓉は、影が薄いというか、違和感があったように思う」
💜「で、俺のふーちゃんもこの通り」
カナリアサイズのふーちゃんを腕に乗せると、その足は二本ではなく三本になっている。
🤍「八咫烏で間違いないね。阿部ちゃんの見立ては合ってると、僕も思う」
💛「ラウと阿部の見解が一緒ってことは、間違いなさそうだな」
💚「あと、芙蓉は恐らくもう一つ、異能を持ってる」
❤️「もう一つ?」
🩷「でもそれって、手がかりがないと分かんなくない?」
💚「そう。だから、やることは三つ。ふーちゃんを守る事と、ふっかを守る事。ふーちゃんはふっかの鋼の力で成り立ってるから、ふっかがやられてもアウトだと思う。それと、芙蓉のもう一つの異能を探る事。そして、俺の願いを成就させない事」
🧡「それって、阿部ちゃんとふーちゃんを一緒に別んとこに行かせたらええんちゃうの?」
向井の質問に、阿部は首を横に振る。
💚「多分、できない。この痣がGPSのような役割になってるとしたら、俺とふーちゃんだけのところに現れて全てが終わる。どうやっても、迎え撃つ以外の方法がないんだよ」
💛「じゃあ、役割を分担するしかないな。俺がふっかに付く。ふーちゃんはふっかと一緒の方がいい?」
💚「俺とふーちゃんは同じところにいた方が、芙蓉の動きが読みやすいかも」
💛「じゃあ、阿部とふーちゃんと、なんかあったら離脱しやすい佐久間が一緒だな。で、他が芙蓉の相手」
💙「俺らは、特に指令はないわけだ」
❤️「相手がどう出るか分からないからね。基本は足止めかな」
💚「とりあえず、夜の間を凌げればいいと思うんだけど……あとは、この痣が開花した時にどうなるか分からないから、それによっては状況が変わるかも」
💜「阿部ちゃん、まだ体調とかには出てない?」
💚「うん。まだ大丈夫」
💛「作戦は決まった。でも、みんな油断はしないこと。阿部の推測がどこまで正しいかもわからないし、もっと他の目的があるかもしれない。だから、その場その場でみんなが考えて行動すること」
想定は大事だが、確定ではない。
だから各々が考えながら対応しなければならない。これまで、阿部の作戦や情報に頼り切っていたのとは違う。
それからは、夜に備えて17時頃に早めの夕食を食べ、その時を待つ。
19時の日没。
阿部の目が、白くキラキラと仄かに輝く。
💙「っ?! 阿部ちゃん、その目……!」
💚「……呼ばれてる……」
💛「呼ばれてる? どこに?」
💚「おっきい蕾がある……多分、ここからそう遠くない。滝の奥の洞窟」
🤍「滝なんてあるの?」
❤️「あるね。《来香の滝-らいこうのたき-》っていう大きな滝」
💚「来香……そういうことか」
🧡「何が?」
💚「月が満ちれば完成するでしょ。《月来香-げつらいこう-》―――月下美人の別名だよ」
🤍「その蕾が、芙蓉の願いを叶える為に必要なものだとしたら……」
💛「燃やすか」
🩷「過激だねぇ」
💛「呼ばれてるってことは、阿部のその胸の花にも関係あんだろ。潰しとくに越した事ねえな」
💜「じゃあ、行こう」
決戦場所は別荘の近くにある月見の丘。広い丘に大きな木が一本生えており、そこから夜空が見える。
雲が月を隠し、次にその姿を現したのと同時に、丘に一つの影が落ちる。
「あら、ごきげんよう。皆さんでお出迎えしていただけるなんて、光栄ですわ」
夜空に星が鏤められているようなネイビーのドレスに身を包んだ芙蓉が、木の横に立っている。つい先ほどまで誰もいなかったというのに。
「さあ、亮平様。あなた様の願いを叶えてあげますわ」
💚「お断りします。自分の願いは自分で叶える!」
💜「ふーちゃん!」
突風が吹き荒れ、風がやむと阿部・佐久間・深澤・岩本の姿がなくなり、上空にいるふーちゃんの背中に乗っていた。
「あらあら」
💜「じゃあ、みんな頼んだよ!」
ふーちゃんは全速力で滝の方に向かって飛んで行った。
「行ってしまいましたわね」
💙「そんなに阿部ちゃんがいいわけ? 嫉妬しちゃうね」
🧡「しょっぴーのそれ、結構ガチやん」
💙「うっせ」
❤️「翔太は美人に弱いからね」
🤍「阿部ちゃんにもねー」
💙「俺のことはいいっつーの!」
「あなた達のお相手は、わたくしは致しませんわよ。皆さん、お願い致しますね」
パンパンッと芙蓉が手を叩くと、周囲に動物や鳥たちが集まって来た。キツネ、タヌキ、鹿、リス、モモンガ、タカ、ワシ、オオカミ、イノシシ、クマ、フクロウ、コウモリなどなど。動物園かと思えるほどの多種多様の動物たちが数十匹。
🧡「なんやの、これ……!」
💙「式神かなんか、か?」
「いいえ。この子たちは、この辺りにいた野生の動物よ。何の罪もない動物たちを、殺せるかしら?」
みんなに、戸惑いが生まれる。
その隙をつくように芙蓉が手を前に出すと、一気に動物たちが目黒たちに向かって来た。野生の動物たちに攻撃するわけにもいかず、宮舘の異能で凍らせられない。向井の岩にぶつかって死なせても困るし、重力は向井に負担がかかる上にこんなに大量の動物たちをピンポイントで狙う事もできない。
現状、道具がなくて止める術をもたないラウールは問題外。
渡辺の花びらで視界を奪い、目黒の蔓で足止めをするくらいしかできず、その間に芙蓉はその場から消えてしまった。
💙「くそっ! どうする!?」
🖤「止めても止めてもキリがない……! このままじゃジリ貧になる……!」
🤍「ちょっと待ってね、えっと、こういう時は……しょっぴー! 眠り薬の花、出して! えーっと、あれ、バレリアン!」
💙「お、おう!」
🤍「舘さん、地面を凍らせて! 滑って移動しにくくなると思うから!」
❤️「わかった」
🤍「康二くんは合図したら、重力操作で僕たちを上空に!」
🧡「了解や!」
🤍「めめ、ギリギリまで耐えてね!」
🖤「わかってる!」
こうして、阿部が不在の時にはラウールが司令塔になる。阿部の次に頭がよく、阿部にはないずる賢さや、違うベクトルの頭の回転の速さがあるから。それはSnowManのメンバー全員が認めているものだ。
宮舘の氷によって地上の動物たちの足が止まり、飛んでいる鳥たちのことは目黒の蔓で網を作って捕らえている。
渡辺が花を生成して、花から睡眠成分を抽出する。
💙「ラウ、いけるぞ!」
🤍「康二くん、今だよ!」
🧡「おっしゃ!」
向井の体が浮き上がり、他の四人も同じように体が上空へと浮き上がる。
🤍「しょっぴー!」
💙「任せろ」
無数の花びらと一緒に睡眠成分を散らして動物たちに向かわせる。渦を巻いた花びらが動物たちを覆うと、次第にその動きが弱まっていくのがわかる。
すべての動物の動きが止まったのは、睡眠成分を流し始めてからおよそ5分後のことだった。
🤍「……もう、大丈夫、かな……? 康二くん、少し離れたところに降ろしてくれる?」
🧡「わかった」
動物たちから一定の距離をとって地面に降り立つも、動物たちが襲ってくる様子はない。
🤍「大丈夫、だね」
すぐにラウールが耳のピアスに触れて通信をする。
🤍「阿部ちゃんたち、気を付けて。芙蓉がそっちに行った。ごめん、僕らが足止めされちゃって」
💜『わかった。ラウたちは無事?』
🤍「うん。これからそっちに向かうよ。それと、芙蓉の異能なんだけど、動物を操ってたから、それ系のものなんだと思う」
💛『こっちも鳥に襲われてたから、同じか』
💚『意外と時間がかかってて、まだ滝には近づけてない。作戦通り、このまま滝を目指すね』
ラウールとの通信を切る。鳥たちは、佐久間の瞬間移動で全く別のところに移動させたから、もう追っては来ない筈。
🩷「滝ってさ、どっちが行く?」
💜「呼ばれてるなら、阿部ちゃんは近づかない方がいいんじゃない?」
💚「そうだね。俺と佐久間で芙蓉を止める。ふっか、照、そっちは頼んだよ」
💛「おう」
🩷「蕾を消すのが優先、だよね?」
💚「うん。あれが多分、芙蓉の願いを叶える為に必要なんだと思う。まだ蕾だから集めてる最中なのか、俺の願いで咲くのか……どっちにしろ、阻止はしないと」
「あらあら。そこまで気付いていますの? さすがですわ」
突如、聞こえてきた声にハッとして振り返ると、ふーちゃんの上に芙蓉が立っている。
🩷「えっ?! なんで!?」
「ウフフッ。どうしてでしょうね?」
💜「いくよ、ふーちゃん!」
声をかけるとふーちゃんが旋回して、掴まっていなかった芙蓉がふーちゃんから落ちていく。だが、すぐにふわりと風に乗るように浮かび上がっていて、佐久間も阿部も驚きを隠せないでいる。
🩷「え、浮いて、えっ!?」
💛「異能、二つじゃないのか?!」
💚「そんな……まさか、いやでも……」
「あらあら。また考え事ですか? その癖、よくありませんわよ」
パンパンッと芙蓉が手を鳴らすと、周囲の木から細い枝が伸びてきたかと思うと、ふーちゃんの体を絡めとった。
「ピイィィイ!」
💜「ふーちゃん!」
💚「今度は、枝?! めめと同じ、植物の能力……」
「さあ、捕らえましたわよ。亮平様、行きましょう?」
ゆっくりと近づいて来る芙蓉。
どうする。どうしたらいい? 考えを巡らせるけれど、やるのは今ではない。ここで、見られるわけにはいかない。
すると岩本が立ち上がって周囲の枝を燃やして切り、解放されたふーちゃんが更に上空へと飛び上がる。
💜「助かったー」
🩷「芙蓉は?」
💛「……多分、大丈夫だ。来た」
下の方にいる芙蓉を覗き込むと、その四肢が蔓に絡めとられているのが見えた。
あれは、目黒の蔓だ。
💜「今の内に行こう!」
再び滝に向かって飛び始めた。
「あらあら。もういらしたの? ダメですわよ、動物さん達を傷つけては」
🤍「ちゃーんと、傷つけずに来たよ」
💙「あんたの思い通りにはさせねえ」
捕らえられた状態だというのに、焦った様子のない芙蓉。この状況でもまだ、余裕が消えないのはどうしてだろうか。
芙蓉が手首に巻き付いている蔓にキスをすると、途端に蔓が芙蓉を解放した。
🖤「えっ?」
「お返ししますね」
ニコッと芙蓉が美麗な笑みを浮かべると、芙蓉を捕らえていた筈の蔓が目黒たちの方に向かって来た。
❤️「目黒!」
みんなの前に出た宮舘が氷の柱を出現させ、蔓が凍ったことで攻撃を防ぐ。
🧡「なんや、今の。何でめめの蔓がこっちに攻撃してくるん?!」
🖤「わかんない……俺の言葉が、届かなかった」
💙「あいつ、動物を操る異能じゃないのか?」
🤍「とにかく、行かせないようにしよう! 芙蓉の異能が何であれ、ここから通しちゃダメだ!」
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