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16 ◇結婚する
交差するはずのなかったふたりの関係が近づいたのは、駅のホーム
で恵子がコンタクトを落とし、探していた時のことだった。
それは大学を卒業してから数年後のことで、たまたまそこを玄帥が通り
かかり、人混みの中を一緒に探してくれたことからだった。
しかも、なんと……彼が恵子のコンタクトを奇跡的に探し出したのだった。
探し疲れていたのと、お礼も兼ねて恵子は彼をお茶に誘った。
この時には、学生時代ほど彼のことを毛嫌いしていなかったことと
本当にコンタクトを見つけてくれて助かったからだ。
寄り添ってくれた気持ちがうれしかったのだ。
結局、見つけはしたものの、物がモノだけに使うことはなかったが。
そこから、友だち付き合いが1年ほど続きその後3年ほどの付き合いのあと
ふたりは結婚をした。
付き合っていくうちに、気さくな玄帥の人柄に触れ、この人は父親や兄とは
違うかもしれない、そんなふうに思えたからだった。
それでも恵子は結婚後しばらくの間は、子供を作ることはしなかった。
5年暮らして、玄帥に女の影が見えなければその時には子供を持つのも
いいかもしれないと考えていた。
交際していた時には、一切玄帥の浮気はなかったはず。
女性の気配を感じたことはなかったから。
だが、結婚してわずか1年足らずで夫の浮気を知る。
絶望が恵子を襲う。
『そら見ろっ、いわんこっちゃぁない。やっぱりしてやられた』
家族で男の実態というものを嫌というほど見て来た恵子だ、やっぱりと
いう気持ちとやるせなさはあるものの、どこか投げやりで諦念みたいなものも
気持ちの中にあり、どうにかなる、どうにかしてみせる、という自信も身の内
にあった。
もうここまで来たのだ、あと少しぐらい騒がず動じず自分は生きていける
そう思いながら玄帥との暮らしを生きてきた。