テラーノベル
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春。
桜がこれでもかというくらい舞っていて、校門前は写真撮影大会みたいになっていた。
俺――すちは、その光景を少し離れたところからぼんやり眺めていた。
高校二年生。
新学期初日。
クラス替えも済んで、やることもなく、
なんとなく校内をうろついているだけだ。
🍵「今年も迷子出るんだろうなぁ……」
この高校、無駄に広い。
A棟、B棟、特別棟、渡り廊下が三本。
もはや軽い迷路だ。
方向音痴にとってはダンジョンである。
そのときだった。
廊下の奥から、明らかに様子のおかしい生徒が現れた。
ネクタイの色が赤色のため新入生だろう
この学校は学年によりネクタイの色が違うため見分けがつくのだ
一年赤色
二年青色
三年黄色
きょろきょろ。
立ち止まる。
地図を見る。
天井を見る(なぜ)。
反対方向へ走る。
三歩で戻ってくる。
🍵「……あー、いるなぁ」
俺は思わず小さく笑った。
その新入生――小柄で、やわらかそうな髪を揺らしながら、
制服の袖をぎゅっと握っている。
顔は可愛い。というかかなり可愛い。
けど今は完全に迷子の顔をしていた。
🦈「えっと……A棟……講堂……え、さっきここ通った……? え? ここどこ……?」
小声がだだ漏れである。
しかも次の瞬間。
🦈「……あっ」
くるりと振り返った拍子に、掲示板に正面衝突しかけた。
俺は反射的に腕を伸ばす。
🍵「危なっ」
軽く肩を支えると、その子はびくっと跳ねた。
大きな目で俺を見上げる。
🦈「……あの……壁って急に出てくるんだね……」
🍵「いや、壁は動かないな」
思わず即答してしまった。
その子は一瞬ぽかんとして、それから小さく頬を赤くする。
🦈「こさめ、方向音痴で……」
🍵「自分で言うタイプなんだ」
🦈「うん……もう隠せないレベルだから……」
しょん、と肩を落とす様子が妙に可愛い。
🍵「新入生だよね?」
🦈「うん……入学式……たぶん……」
🍵「たぶん?」
🦈「ここが高校なのは合ってると思うんだけど……」
🍵「それは合っててほしいなぁ」
俺は笑いをこらえながら、こさめの持っている紙を覗き込んだ。
案内図をぐるぐるに丸で囲んでいる。迷いの軌跡が見えるようだ。
🍵「講堂ならA棟の奥だよ。今いるのはB棟」
🦈「B……!? Aって書いてあるのにB……!?」
🍵「アルファベットは順番守ろうね」
こさめは真剣な顔で頷いた。
🦈「すごい……先輩、頭いい……」
🍵「いやそれはハードル低すぎる」
俺は吹き出した。
改めてよく見ると、本当に可愛い顔をしている。
なのにやってることが完全にコントだ。
🍵「案内しよっか」
🦈「えっ、いいの……?」
🍵「このままだと入学式が卒業式になるでしょ」
🦈「こさめ、高校生活一日で終わる……?」
🍵「終わらせないから」
俺は歩き出し、こさめは小走りで隣に並んだ。
🦈「先輩、お名前は?」
🍵「俺? すち」
🦈「すち……」
こさめはその名前をゆっくり噛みしめるみたいに言う。
🦈「じゃあ、すち先輩?」
🍵「好きに呼んでいいよ」
🦈「じゃあ、すちくん」
なぜかちょっと得意げだ。
🦈「こさめはこさめ。こさめって呼んで」
🍵「一人称もこさめなんだね」
🦈「うん。なんかそのほうが可愛いって言われたことある」
🍵「自覚あるタイプか」
🦈「ちょっとだけ」
にこっ、と笑う。
あざとい。
でも嫌じゃない。むしろ破壊力が高い。
A棟に入ると、こさめは感動したように天井を見上げた。
🦈「うわあ……広い……」
🍵「またぶつかるよ」
🦈「あっ」
本当に柱にぶつかりかける。
俺は思わず手首をつかみ、軽く引いた。
🍵「前見てね」
🦈「……ありがと〜ございます」
こさめは少しだけ照れた顔で俺を見上げる。
その距離が、思ったより近い。
……あれ?
さっきまで完全に「面白い迷子」だったのに、急に胸の奥が変に静かになった。
講堂の前に着くと、新入生たちがざわざわ並んでいた。
🍵「ここが講堂。これで迷わない」
🦈「すちくんすごい……命の恩人……」
🍵「大げさすぎる」
🦈「こさめ、たぶん一人だったら体育館行ってた」
🍵「それはそれで入学式できるかもね」
🦈「校長先生いないけど」
俺はまた笑ってしまった。
こさめは小さく手を振る。
🦈「すちくん、ありがとう」
春の光が差し込んで、その横顔がやけにきらきらして見えた。
🍵「……また迷ったら呼んで」
🍵「二年3組だから」
🦈「うん!」
即答。
🦈「毎日迷うかも」
🍵「成長して、?」
🦈「がんばる……たぶん……」
そう言って、列に並びながら何度も振り返る。
俺は軽く手を振り返した。
🍵「……放っておけないなぁ」
気づけば、自然と笑っていた
新作
【君と笑えば、だいたい青春】
タイトル名は山感と直感で決めました
主なCP
緑水
紫赤
百黄
コメント
4件
大好きです!! リアルの水ちゃんより控え目なの可愛い
1話から好き💚🩵 続き楽しみにしてます♪