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「ゆうまくん、またあそぼーね」
「うん」
お互い住んでいる所も知らず、次また会える保証はないけれど、幼い二人はそんな事を思いもしないのだろう。またねと手を振って別れ、それぞれ別方向へ歩いて行く。
「理仁さん、どうかしましたか?」
「……いや、あの二人、どこかで見た気がしたんだが……」
「莉奈ちゃんたちを知っているんですか?」
「まぁ、取り引き先の子供かもしれねぇな」
「そうですか」
駐車場へ向かって歩いている最中、莉奈たちをどこかで見た事があると言っていた理仁は思い出せない事が気になるのか、少々表情が険しくなる。
「ママ、りなちゃんといつあそべるの?」
「うーん、そうだねぇ、いつかなぁ」
「ようちえんでもあそべる?」
「莉奈ちゃんとは幼稚園違うから、それは無理かな」
「じゃあこうえんであそべる?」
「うーん、まぁ会ったのも公園だから、もしかしたら遊べるかな?」
「じゃあゆうま、またこうえんいく!」
「そうだね、また今度ね」
悠真は莉奈を気に入ったようで、次はいつ遊べるのか真彩に聞いていた。
駐車場に着いて車に乗り込み、朔太郎が運転をして立体駐車場の出口へ向かって行くと、その途中で偶然莉奈たちが車に乗り込む所を見つけた悠真。
「あ! りなちゃんだ!」
「本当だ」
声を掛けたがった悠真の為に朔太郎が後部座席の窓を開けると、大きな声で莉奈の名前を呼んだ。
「りなちゃーん!」
「あ、ゆうまくん!」
悠真の声に気付いた莉奈は笑顔を向けて呼び返すと、車は止まることなく徐行しながら進んで行くので、二人は手を振り合っていた。
そんな何気ない微笑ましい光景だったのだけど、莉奈の乗る車の中にはある人物が後部座席に乗っていて、悠真の隣に居た真彩を一目見ると言葉を失った。
「……おい莉奈、今の奴は誰だ?」
「ゆうまくんだよ。このまえこうえんであったの」
「そうか」
「おい作馬、次アイツらに会ったら名前聞いて来い。その悠真って奴の母親の名前をだ」
「は? どうして?」
「いいから、聞いて来い。ちょっと、知り合いに似てるんだよ」
「ふーん? ま、会えたら聞いとくよ。そもそも悠真って子の名前しか知らねぇし、また会える保証はないけど」
「つーかお前、危機感足らねぇぞ。よく知りもしねぇ相手を莉奈と遊ばせるなよ。子供だろうと気を許すな」
「うるさいなぁ、そんなに言うなら自分で莉奈の面倒見ろよ。俺、子供は苦手なんだって」
「俺だって苦手だよ。つーか、お前もまだ十分子供だっつーの。文句言わずにやれよ」
「はいはい」
莉奈たちの車内でそんな会話が行われていた事を真彩たちは当然知る由もなく、何やら不穏な空気が漂い始めていた。
「ママー! きょうはりなちゃんにあえたよ!」
「本当に? 良かったねぇ」
み
ショッピングモールで莉奈と会ってから数日後、幼稚園から帰宅した悠真は開口一番、真彩に莉奈に会った事を報告をした。
「姉さん、ちょっといいっスか?」
「どうかしたの、朔太郎くん」
「ここじゃあちょっと……」
「あ、金井さん、ちょっと悠真の事お願い出来ますか? 冷蔵庫にプリンが入っているので、良かったら金井さんも悠真と食べて下さい」
「はい。分かりました。ありがとうございます」
ご機嫌な悠真とは対照的にどこか浮かない、というより何か深刻な問題があるのか険しい表情の朔太郎に呼ばれた真彩は、通りがかった真琴に悠真を託して部屋を出た。
「その辺に座ってください」
「うん」
そして朔太郎の部屋へやって来た真彩が促されて座る。
「姉さん、莉奈って子と一緒に居た『作馬』って男、知り合いじゃないんスよね?」
「え? 作馬くん? うん、知らない子だけど」
「そうっスよね……」
唐突にそんな質問をした朔太郎は真彩の答えを聞くとすぐに考え込む仕草を見せてそのまま黙り込んでしまう。
「その作馬くんがどうかしたの?」
「いや、実は今日――」
何故朔太郎がそんな質問をしたのかを真彩が問うと、朔太郎は幼稚園を出てから帰宅するまでに起こった出来事を話し始めた。
朔太郎の話によると、公園で莉奈に会った悠真が少し遊びたいと言ったので自身はベンチに座ってその様子を眺めていたらしい。
すると、途中から作馬がやって来ると莉奈に近付いて一緒に遊ぶフリをしながら悠真と話をしていたのを怪しんだ朔太郎が近付くや否や、まだ遊びたがる莉奈を連れて逃げるように去って行ったというのだ。
何を話していたのか悠真に聞いたところ、母親の名前や住んでいる所などを聞かれたようなので、真彩の知り合いなのかを確かめたかったようだ。
「そんな事が……悠真には可哀想だけど、莉奈ちゃんとは会わせない方がいいのかも……」
「そうっスね。相手の意図が分からない以上、近付くのは危険っス。この事は理仁さんにも報告しますね」
「うん」
話を聞いた真彩は作馬が子供と言えど、知らない所で色々探られている事をあまりいい気はせず、悠真と莉奈をあまり会わせない方が良いように感じてしまう。
その夜、朔太郎からその話を聞いた理仁は部屋にある様々な資料を見返していた。
「…………あの子供たちは、八旗組の関係者だったか……という事は、アイツも……」
そして、どうやらある資料に作馬や莉奈の情報が載っていたようで、何時になく焦りの色を浮かべていた。