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そんな無駄な思考を巡らせていると、また、革靴の音が聞こえる。
《炎露、起きてるか…?》
毎度の如く、兄貴が昼飯を届けに来たのだ。
返事をする気は起きない。声も出ない。食欲なんて物は消え失せてる。なんなら、この場所から動く気力すら無い。
外からドアにそっと触れる音が微かに聞こえる。
きっと、兄貴がドアにまた手をかざしているのだろう。
《炎露。昼飯、ここの机に置いてるからな。腹が減ったら食ってくれ》
いつものように兄貴は少し寂しそうな声を出す。きっと今兄貴は、取り繕ったような笑顔をこちらに向けているに違いない。
そんな、兄貴の声に俺は今日も何一言応える事はできなかった。
声が出なかった。どんな言葉を出せば良いのか分からなかった。
いや、こんなのはきっとただの言い訳に過ぎない。
本当は、話すのが怖いだけなんだ。ずっと黙ったまま返事もしていない。そんな弟を本当に兄貴は愛してくれているのだろうか?
……なんて、兄貴を疑う俺はどうかしている。
何度も何度も押し寄せてくる自己嫌悪に、そろそろ反吐が出そうだ。
《炎露、また来るからな…》
重い足音をたてながら兄貴の音は離れてゆく。
そんな毎日がずっと続くと思った。