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Side 桃
「大丈夫だよ高地、落ち着いて。大丈夫」
こんな言葉を掛けるのも、もう何回目だろう。落ち着いて、とは言いながらも、こっちだって落ち着いていられないのも現状だ。
高地はこの間、心臓に問題が見つかり、狭心症と診断された。でも本人が言うには軽いほうらしい。
メンバーも高地がグループから離れてしまうのを不安がってか、誰も辞めさせようとはしなかった。
だからこそ、活動には配慮がいる。
しかし、今もダンスの練習中だけど、恐れていたことが起きてしまった。咳も出ているし呼吸はあまり良くならない。
「ちょっとどうしよう…」
あたりを見回しても、ほかのメンバーはみんな固まっている。全然慣れていない様子だ。
ジェシーなんかはオロオロしているし、北斗も一緒に声を掛けてくれているが顔が青ざめている。一番しっかりしているはずの樹も、直立不動だ。慎太郎に至っては泣き出しそうだし。
「水飲んだほうがいいかな」
北斗が言う。俺は高地の名前が書かれたペットボトルを取って、「飲める?」と差し出す。
震える手で受け取り、口に運ぶ。冷たい水が体に行き渡ったようで、深呼吸をして息を整える。胸をきつく掴んでいた手の力も緩む。
「大丈夫?」
「うん…ありがとう」
ふう、と安堵の息を漏らす。毎回、僕らもけっこう大変だ。でもきっと、一番大変なのは高地なはず。
「俺らだけで練習するから、待ってて」
ダンスはやはり心臓に悪いから、こまめに休憩しないといけない。でも高地は不服そうだ。
「でも…ただでさえ苦手なのに、遅れちゃう…」
「そんなこと気にしない。健康第一」
ズバッと言い切る北斗。高地も口をつぐんだ。
「じゃあ俺ちゃんと見てるからさ。誰かサボってねーか」
「えー普通にやだ」
「あはは笑」
その笑い声を聞くと、もうすっかり普段の高地に戻っていて、俺はほっと胸をなでおろした。
曲が終わり、一旦休憩に入る。
「ちゃんと見てた?」
ジェシーが声を掛ける。
「もちろん。よかったよ」
各々椅子に座り、飲み物を飲む。
ふと高地のリュックを見ると、ファスナーの持ち手の部分に何やら赤いタグのようなものが付いている。赤地には白の十字のマークとハートマークがある。
「ねえ、これ何?」
指をさして訊くと、「ああそれね、ヘルプマーク。こないだつけた」
みんなも振り返る。
「何それ?」
「あ、聞いたことある。内部障がいとかわかりにくい病気の人が付けられるってやつ…え、高地が?」
北斗はびっくりしたような顔だ。
「んまあ、街とか俺一人しかいないところで発作起こったときのため。ほら、裏に薬の場所とかかかりつけの病院とか書いてるから、何かあってもこれを見つけてくれれば大丈夫。みんなにも言っとけばよかったね」
「まあ俺らは知ってるけど。病気のこと」と慎太郎。
「でもほんと念のためくらいだから。今のところ外で起こったことはない。家でしか」
「ならよかった。うん、ちょっと落ち着いてる感じだから一緒に踊りやろうか」
樹が言った。
途端に笑顔になる高地。
北斗が釘をさした。「無理すんなよ?」
「大丈夫だって、緩くやるし」
部屋には音楽と足音、歌声が響く。
俺は時々高地をちらちら見ていたが、特に異変はなかった。ラフに踊っている。
「大丈夫だった?」
練習が終わって帰る準備をしている途中、高地にそっと耳打ちする。
「うん。あれからは何ともなかった」
「そっか」
「でも…」
高地の口からふいに2文字がこぼれ出る。
「でも、なに?」
「……俺、このままでいいのかなって。もともとダンスみんなよりできないのに、さらに制限かけられてもうどうしようもできなくなって。このままじゃダメなのはわかってる。だけどみんながどんどん先に行っちゃう気がして——」
突然高地の声が消えたのは、俺が肩をつかんで身体ごとこっちに向けたからだ。
「違う。それは思い違い。このままでダメなんて誰がいった? 俺らは置いてったりなんかしないから。ちゃんとみんなで、6人で前向いて、歩調合わせて行こう。な、ダディ」
高地の目に笑いかける。その目も細くなった。
「俺らが支えるから、心配いらないよ」
我ながらいいことを言えたと思う。高地はにっこりと笑い、「大我~!」
腕を伸ばして抱きついてくる。
「ちょっと何だよお前」
逃げようとするが、「いいこと言うなーお前ー!」と離れない。
「俺はお前のことを思って言っただけだよっ」
聞いていたみんなも爆笑してる。
やっぱりこうやって思いっきり笑い合ってるほうがいい。心配して、自分たちまでドキドキするのは嫌だ。
だから高地。
これからは、ゆっくりと一歩ずつ。
俺らのペースで音楽や、いろんなことやっていこうな。
焦る必要なんてない。
だって、俺らだから。
終わり