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吐いた息が白く濁るほど寒い日
冷たいベンチに一人で春人(はるひと)は
腰をかけていた
時刻は朝の5時すぎ
朝日が少し心配そうに顔を覗きだしている
軽いカバンの中には財布とスマホ、お菓子。
教科書や塾の宿題は一つも入ってない。
でも春人の心は重かった。
あの家にはもう戻らない
学校にももう行かない
あの教室であんな顔されて居るなら
裸で廊下を歩いた方がマシだ
そんなことを考えながら、春人は
ポケットに入っているスマホを取り出して電源を切った。通知も電話ももういらない。
僕は決めたんだ
「こんな時間に家出か?俺もよくやったなぁ」
男性の声だろうか
ふと気になり、後ろに振り返る
反射的に上を見上げると
30代半ばくらいの男性が立っていた
黒いジャンバーに上下セットのジャージ
手にはコンビニの袋を持っていた
「…誰ですか?」
春人は出来るだけ平静を装った
こんな時間にまたしては、学生である自分に話しかけてくる人なんて、危ないと思ったからだ。
男はそこの自販機で飲み物を選びながら
春人の質問に答える
「こんな時間に一人なんて話しかけたくも なるさ」
そう言いながら取り出し口に手をやる
どうやら缶コーヒーにしたらしい。
春人の隣に腰を掛け、コーヒーを渡してくる
いつもなら、受け取らない春人だが、今は男の親切心に浸りたかった。
男は無言でコーヒーを受け取り、蓋を開け1口飲む
にがっ…
朝のホームで男の声だけが響く
男は照れくさそうに笑った
「やっぱ、コーヒーは微糖に限るな」
春人は意味がわからなかった
なぜ飲めもしないものを買ったのだろうか
「…何で買ったの」
「お前コーヒー好きだろ。なのに俺だけ、微糖とか
かっこわりぃじゃん」
「あの…」
春人が喋ろうとした時、口を挟んで男が続けて話す
「あと、家出でも行先は、考えておいた方がいいぜ」
「冬の夜は寒いから」
ビニール袋からおにぎりを出し食べ始める
春人は今だと思い口を開いた
「…なんでコーヒー好きって、分かったんですか
あと家出ってことも…」
「カバンだよカバン」
「え?」
「そのカバン、抽選の奴だろコーヒーの」
確かに春人のカバンは去年抽選でたまたま当たった
ものだった。
「だからかな?あと家出の事は、男の感ってやつ?」
春人は眉をひそめた。
「…あの、そもそも、誰なんですかあなた。」
最初に聞くべきだったことを後悔した
「ただの旅人だよ。名前は…そうだな。秋吉
(あきち)とでも呼んでくれ」
「秋吉?」
「そうだ、お前の名前は?」
「……僕の、名前は…」
一瞬自分の名前を言うのを躊躇った。
「言いたくないなら、言わなくてもいいが…」
「春人だよ」
「春人…いい名前だな。」
秋吉は小さくうなずきながらそう言った。
「春人、行先決まってないなら、俺と一緒に来るか?」
「…」
さっきで会ったばかりの人について行くなんて
馬鹿らしい。
「…なんてな!ただの冗談だよ」
「行く」
「え?」
馬鹿らしい…けど…何故だろう。
彼なら、秋吉なら、僕を分かってくれる気がする。
「まあ元々どっか行って死のうと思ってたし」
「…春人」
「だからさ!秋吉!僕に」
「最高の走馬灯を見せてよ」
「…てあはは…冗談だよ…」
……まんまと大人の冗談に乗せられた
いや、それに頼るしかなかった。
「任せろ」
「え?」
「お前がおじいちゃんになってヨボヨボに
なっても 死にたくないって思える走馬灯を作って
やるよ」
…これはただの無職の男と男子高校生が
旅をするお話。見知らぬ男と見知らぬ土地へ
そしてこの先自分の知らなかった過去と向き合うことになるとを彼はまだ知らない。
最後まで閲覧ありがとうございました。
2章は既に出来ておりますが、
この章が伸びたら出す予定です。
皆様の応援を心待ちにしております。