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健彦は、自分がハンマーで砕いた輝馬の頭と、青ざめた紫音の顔を見下ろした。
そして血だらけで横たわった妻の、年齢を感じさせない美しい身体を見つめた。
自分の愛した家族。
それが今、凌空の死をもって、終わろうとしている。
のた打ち回る凌空の腕を掴み引っ張り起こす。
「……親父!?なんで!?」
凌空が右目を見開いた。
「凌空……!」
健彦は13年前のあの日以来、初めて彼を抱きしめた。
「………ごめんなぁ……!」
強張った体からだんだん力が抜けていく。
身体が健彦に素直に包まれ、
顎が健彦の肩に乗る。
こんなに細くて、
こんなに幼い末っ子に、
自分は、
自分たちは、
なんと重い責任を、
押し付けていたのだろうか。
沸き上がる涙で視界が滲む。
しかし外の光を受けて反射するソレだけは見えた。
健彦はソレにゆっくりと手を伸ばした。
「………ッ」
凌空を左腕で強く抱きしめたまま、それを彼の背中から突き刺した。
「……うッ」
凌空の身体が再び強張る。
それでも左の掌も使いながら根元まで挿し込んだ。
せめて少しでも苦しまないように。
せめて早く楽になれるように。
もし生まれ変わったらまた自分の元へなんて、
そんなあまりにも虫が良すぎる言葉は言わない。
生まれ変わったら今度は、
いや、今度こそ、
幸せな家族の元へ。
健彦はやり場のない愛をこめて、
たった17年しか打っていない心臓を目指して、
それを挿し込んだ。