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二泊三日目、夜。
午後11時45分。
突然ドンガラガッシャーンと玄関先で派手な音が轟いて、驚きのあまり洗っていた皿をとり落す。
一体何事だと、エプロンで手を拭き慌てて玄関へ向かえば、そこでは傘立てをなぎ倒したらしき犯人が、真っ赤な顔で満面の笑みを浮かべていた。
「あ!はやとぉ〜!ただいまぁ〜!!」
「なにやっとんねんお前は」
苦笑しながら床に倒れ込んだ仁人に駆け寄ると、仁人は俺の両手をがしりと掴んで、ぶんぶんと左右に振り回す。
「おーおー、今日はまたエラいご機嫌じゃん。おかえり、じんちゃん」
「んふふ、ただいまぁ♪」
通常では絶対に見られない、お酒が入って気が緩んだふわふわとした笑顔。
「……あの時も思ったんだけどさぁ、仁ちゃん酔っ払い方、ベタ中のベタよな」
こんなギャップ萌えにグラっとこないヤツなんかいねぇだろ。
酔っ払う度にこんな姿をさらしているのかと思うと、色んな意味で心配になってまたさらに苦笑する。
すると笑われたのが面白くなかったのか、仁人は頰を膨らませて怒り出した。
「ちゃうわっ!おれはぁ、ぜぇんぜんよっぱらってないの!まだまだのめんだかんなぁ!」
若干怪しくなりつつある呂律で、懸命に訴える仁人。
「はいはいそだわな、わかったわかった。じんとまじかわいい」
若干語尾を失言してしまったものの、本人には聞こえていないだろうからそこはまぁよしとして。このままではらちがあかない為、ぶぅぶぅと膨れる仁人の腕をひっ掴み、とりあえずリビングへと強制連行する。
思いの外細くて薄い仁人の身体をソファへ座らせてから、俺ははぁと一つため息をつく。
「いま水持ってくるから、大人しくそこ座って待ってんだぞ。」
「はぁい」
「うし、素直でよろしい」
ふらふらと挙げられた手に頷いて、俺は一度キッチンへ向かい、冷蔵庫からペットボトルの水を取りだし、再びリビングへ戻る。が、
「って、やっぱりかーい」
案の定、仁人はソファの上へごろんと横になってうとうとと船をこいでいた。
「ちょ、じんちゃ〜ん?スーツシワシワになんだろそれ。あと俺の服、お前の下敷きになってんだけど」
「ん、うぅ…」
身体を小さく丸めて、俺の声にむずがる子どもみたいにうなり声を上げる仁人は、もはや完璧におねむモードに突入している。
もうほんとしゃあねぇなぁと、無理やりスーツの上着をはぎ取るが、それでも閉じられた目は開かない。
「なぁ〜、じん?じんちゃんってば。おまえにそこで寝られたら、俺一体どこで寝たらいいんだよ」
諦め気味に声をかけると、仁人はもぞもぞと身じろぎして、ソファの上に置きっぱなしだった俺のパーカーを握りしめ、腕の中へ抱き込んだ。
「ちょっ…じんちゃん返しなさい!」
突然の行動に、なんだかこっちが恥ずかしくなって服を取り戻そうとすると、仁人は頑として手を離さないまま口を開く。
「……そふぁ、はやとのにおい する…」
そう小さく呟いてふわりと笑い、すぅすぅと安らかな吐息を立て始める仁人。
その前で、俺は雷に打たれたように立ち尽くし、ばっくんばっくんと音を立て続ける胸に手をやって、服の上から握り締める。
「…………警戒心、無さすぎじゃね?」
ソファの前に膝をついて、寝息を立てる仁人に近付こうとゆっくり、ゆっくりと体を倒す。
その拍子に、腕が床に置いてあった水のペットボトルに触れ、ぼとりと音を立てて倒れた。
「……っ!」
はっと我に返り、無意識に伸ばしかけていた手を急いで引っ込めて、なにやってんだとがしがし頭を掻きむしる。
「…やっぱ、ダメだわな、こんなん。」
ぼやくように呟いてから、俺はぱちんと自分の頰に張り手を食らわせリビングのソファから。
仁人から、逃げるようにその場を離れた。
続