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一学期もあっという間に終わり、夏休みに入ろうとしていた
7月20日 月曜日
教室の窓から差し込む陽光は、すでに夏の力強さを感じさせる。
アスファルトを照り返す日差しは
まるで蜃気楼のように揺らめき
教室の中では、扇風機が唸りを上げ、微かな涼風を運んでくる。
窓の外
空を見上げると、夏の太陽が容赦なく照りつけ
白い雲はまるで綿菓子のように浮かんでいる。
その光景は、まさに真夏の到来を告げていた。
「では、明日から夏休みに入りますが───」
長期休みということで、保健だよりが配られて
10分ほどで長ったらしい説明と共に
朝のSHRが終わり、体育館に行って終業式を終えて再び教室に戻ると
『やっと夏休みじゃーん!!』
『近所で花火大会あるし
浴衣新調しちゃおっかな』
なんて喋る女子もチラホラいれば
その穏やかな空気を壊すように
『お前彼女と行かねーの?花火大会』
『いや、アイツもう振った』
『は?!もったいな、顔可愛かったし胸もデカかったじゃん』
『電話しつけーし、おかんみてぇで冷めた』
『はははっ、まあたしかに?ルックス以前に重い女は論外か』
『だろ?あれは捨てて正解』
『えーーー、俺にくれればよかったのに』
なんて下品な会話がクラス全体に聞こえるぐらい堂々しい声量で繰り広げられていた。
「……」
その空気が嫌で、トイレに行こうと席を立ち
廊下に出ると
「あっ、奥村くん!丁度いいところに…!」
教室を出たすぐの所で、携帯を両手に握りしめた茜が僕を呼び止めた。
「あ、茜ちゃん…僕になにか……?」
聞くと「今、朔っている?」
と沼塚のことを聞いてきて
ああ沼塚ね、と言うと
「居たら呼んできてくれないかな?」
とお願いされたので、未だぎこちない返事をして
教室を見渡すと女の子と話している沼塚を見つけたので、彼女に待っててと告げてから
沼塚の元まで駆け寄って、声をかけた。
「沼塚っ、茜ちゃん呼んでるんだけど」
「あ、まじ?今行く」
そう言うと足早に茜の元へ行き何か話し込んでるようだった。
しかしすぐに『奥村~奥村も来て』と沼塚が手招きしてきて、なんだろ、と思いつつ再び茜たちのところへ駆け寄ると
「実は今、朔にも話したんだけど、みんなで今月の27の花火大会に行かない?」と茜が話してきた。
「花火大会?みんなでって……僕も?」
「もちろん!私と朔も行くし、れなと新谷くんも来るよ」
「…えと、れなさん?ってのは…」
「れなは私の親友で、分かりやすく言えば新谷くんの彼女!」
「あ、そうなんだ…?」
(でも、今のところ僕以外は沼塚と茜ちゃん、しかも樹くんも彼女だけ…僕がぼっちになる可能性大すぎるし…行くならそれは避けたい)
「僕は別に構わないけど……そ、そうだ、なずくんは行かないのかな?」
聞くと
「あー…なずなくんにも聞いたけど、なんか用事があるって言ってたんだよね。多分バイト」
そう茜が答えた。
「そっか……」
「どしたの奥村?」
そんな僕の様子を見て、沼塚が顔覗き込むようにして聞いてくるので
「な、なんでも!」
そう言うと、茜は顎に手を置いて首を傾げる。
「でも薺くんって確か…体育祭のときの借人競走で好きな人ってお題で奥村くんのこと連れてたよね…?まさか本当にそういう関係とか?」
「えっ?!ちち違うよ…!」
やば、なんか変な誤解生んだ、と思って
否定すると、彼女はそれを面白がるようにニヤニヤと口角に笑みを浮かべて
「あれー?なんか焦ってるー?」
なんてからかってくる彼女の額を指で軽く弾いて
「こら、やめなさい」と釘を打つ沼塚。
「へへっ、つい気になっちゃって」
「ったく……あ、それで奥村、花火大会来れそう?」
「え?うん、僕も行ってもいいなら」
僕がそう言うと沼塚は茜ちゃんと息を合わせたように「「奥村(くん)も行こ!」」と言ってきた。
「う、うん……!」
そんな圧に押されて頷くと、二人は嬉しそうに
「よかった~、じゃまた詳しいこと決まったら連絡するから!」
「ん、グルチャ作っといてー」
なんて会話をして茜は自分の教室へと戻っていき、僕も沼塚と一緒に自席に戻った。
帰宅後
自室のベッドに寝転がって
LINEを開くと僕を含めた今朝言っていたメンバーがグループチャットに追加されていて
茜から『27日の花火大会、会場の入口に6時に集合でいい?』
とメッセージが送られていた。
それにれなや沼塚が了解という
メッセージを送っていて
新谷も了解と書かれたスタンプを送っており
それに便乗するように僕も『OK!』と書かれたゆるっとしたキャラのスタンブを送信した。
スマホを枕元に放り投げて、天井を見つめる。
(……花火大会かぁ…人の多いとこは苦手だけど、祭りは楽しそう、浴衣…思い切って着ていこうかな)
そんな期待を胸に抱いていると
「光ー!ご飯よー」
下の階から母さんの呼ぶ声がして、僕は
「今行くー」と返事をしてリビングへと降りていった。
それから数日後の花火大会当日────…
午後6時。
待ち合わせの夏祭り会場の入口に到着すると
既に新谷れなカップルと茜が着いていて、女子陣は浴衣に身を固めており、普段見ない姿につい見惚れてしまった。
「おーい、奥村ー」
僕に気づいた新谷に声をかけられて
僕は慌てて我に返って三人のもとに駆け寄った。
「ご、ごめん!ちょっと遅くなっちゃって」
そう言って謝ると、アップスタイルに髪をまとめ小さな花飾りを挿している茜が開口一番
『えっ、奥村くんも浴衣なんだ!』と驚いたように言ってきた。
「う、うん。みんなも浴衣かと思って…変じゃ、ないかな」
「えっ全然いいと思うよ、なんか新鮮!」
「そ、そっか……あ、そ、そうだ!沼塚って、まだ来てないの?」
話題を帰るようにそう聞くと
新谷が『あいつなんか妹が友達と花火大会行くらしくて、浴衣の着付け手伝ってて一緒に遅れてくるらしいぜ』と。
『あっそうなんだ、妹さんも来るんだ』
そんな会話をしていると
「ごめんごめん!遅れたー!」
そんな声と共に、こちらに走ってくる人影が二つ。
一人は
しじら織りの藍染の浴衣を着こなした沼塚で
もう一人の人影は
黒を基調としピンクや黄色の花柄が描かれた浴衣を身に纏い
帯には猫の柄が入った可愛らしいものを身に着けている中学生ぐらいの黒髪ロングの女の子で
その子は沼塚に手を引かれるようにしてこちらに向かってきていた。
「妹の準備してたら手間取っちゃって、待たせたてごめん!」
そう言って謝る沼塚に
新谷が『まだ花火始まってねぇしそんぐらい大丈夫だ』とフォローをいれてから続けて茜も
『そうだよ!それに私たちだってさっき集まったとこだし!』
と言うので僕も『うん』と言って頷いた。
それを聞いて沼塚は安堵の表情を浮かべ
沼塚の妹は『送ってくれてありがと、もうここからは分かるから大丈夫!』とあどけない笑顔を沼塚に向ける。
そんな彼女の頭をポンポンっと撫でて
『わかった、変な奴に付いていっちゃだめだからな?』
「もーそれ聞くの今日で3回目だし分かったって!それじゃ!」
そんなやり取りを交わした後沼塚兄妹は別れて
『うわぁ、朔ってば本当に過保護って感じ』
なんて茜が茶化し始めて
いつものように『うっさい』と返す沼塚。
その光景を傍観するように眺めて北叟笑んでいると、沼塚がこっちをちらっと見たかと思えば
目を見開いて僕の名前を呼んで近づいてきて
「奥村、浴衣なんだ…?」
なんて言ってきて
「あ、うん。せっかくだしと思って」
「めっちゃ似合ってる、可愛いよ」
「なんでそこで可愛いが出るのか
わかんないんだけど…沼塚の方が着こなしてるよ」
なんて戸惑いつつ返すと
『奥村全肯定botがまたなんか言ってら』と突っ込む新谷に場にいた全員でクスッと笑みを零してしまった。
そうして僕たちは花火までの時間を潰すために
屋台の中を歩き始めた。
先頭を新谷れなカップルが歩いていて
その後ろを沼塚と茜が歩いており、ぼくはそんな二人の後ろについて行くだけだった。
人が行き交っているため横に広がると邪魔だし
なんだか場違いな気がして
自然と後ろで四人の会話を傍観する形となった。
道中、りんご飴や焼き鳥を買って食べ歩きするが
「ねー樹、今日の私どっか違うと思わない?」
「あ?…浴衣以外あんのか」
「あるでしょ!どう見ても!」
「なに、ちょっと太ったとかか?」
「殴るぞおい」
そんな新谷れなカップルの会話に
「新谷くんってほんと鈍感、いつもと髪型違うよねー」と声をかける茜に向かって
「よくぞ言った!」と指をさすれなに対し
さりげなく新谷が「ちょっと髪巻いていつもよりポニーテールの位置高くなってるってだけだろ」と返すものだから
「き、気づいてるなら早く言ってよ、もう…!」
と頬を膨らます彼女。
「それで…どうなの?感想は」
「別に、いいんじゃねぇの?」
「もう、いつも曖昧っ!!やっぱもっと別の髪型にしてくれば…」
そんな言葉を遮るように
新谷がいつの間にやら屋台で買ったりんご飴を彼女の口におしゃぶりでも付けるように咥えさせて
「そういう意味じゃねぇし、それ以上可愛くなんな」
なんてちょっとだけ顔を赤くしながら言うもんだから
「……ば、ばか」と言って黙り込む彼女。
そんなカップルのやり取りを遠目で眺め
(ほんと、お似合いだなぁ…沼塚と茜ちゃんもいい感じだし)
なんて考え事をしていたら
前を歩く茜と沼塚に声をかけられて
「奥村くんも前来よ?」
「え?あ、う、うん。」
そう返すと、沼塚が
「そだよ、ほら奥村俺の隣おいで」
なんて言って腕を引っ張ってきて
空いている沼塚の右隣に立つと
茜が沼塚に向かって
「ねえ朔、私の浴衣…どう?」
「え?なに急に」
「フツーに聞いてんの!…変じゃない?」
「普通に可愛いと思うけど」
「ほ、本当に…?!」
「ふっ、嘘言わないでしょ」
にこやかに笑う沼塚に対して
「本当に…そういうとこ、ずるい…」
とフェードアウトしていく彼女。
(待て、どうしよう…ここの4人がカップルの会話しすぎてて僕の場違い感カンストしてない……?)
なんて考えが頭に過りながらも、そんな二人を傍目に見ていると
「うん…まあいいや!ねー朔、それより私にもその綿菓子ちょうだい」
「ん?これ?はいよ」
茜の言葉に沼塚が綿菓子の入った袋を茜に向けると、彼女は中の綿菓子を一掴みして
「あ、思ったより取れちゃった」
笑ってぱくりと口に入れる茜に対して
「ちょ…茜取りすぎ!俺の半分なったんだけど」
と可笑しそうに笑う沼塚とごめんってと笑う茜
そんな二人を眺めていたら沼塚が急に振り向いて「あ、奥村も食べる?」なんて言ってくるから
「い、いや沼塚の分無くなるし僕はいいよ」
と断るも
タイミング悪くお腹がぐううっと鳴って、沼塚がそれにクスッと笑い
「いいよ。ほら、お腹すいてるんでしょ?」
先程と同様に綿菓子を差し出してくる。
「え、あ……じゃぁ……」と言ってそれを一掴みして
マスクを口元まで下ろして一口食べると
口の中に甘い味が広がり
なんだか不思議な気分にさせられる。
「ど?甘いでしょ」
「す、すごいとろける…おいしい」
わたあめって
祭りのわたあめってこんな、美味しいの?とすら考える。
が、それよりは、みんなでシェアして食べてるというので美味しさが増しているだけかもしれない。
「でしょ?あ、りんご飴も食べる?」
そう言ってまた一口掬って僕に差し出してくる沼塚。
「じ、自分で買うよ?」
「俺奥村が食べてるとこ見たいから」
「いや…絶対マスク外させたいだけでしょ」
「それもある!」
「いや素直に認めないで」
「いいからほらー、美味しいよ?」
(なんかめちゃくちゃ餌付けされてる気分……!)
と思いつつも口を開けると口中に綿菓子が放り込まれ
口内に広がる甘さと幸せでついマスクの下で頬が緩んでしまう。
「あ、ありがとう」
「奥村はブレないね、どういたしまして。」
「それはこっちのセリフなんだけど…」
そんな僕と沼塚のやり取りを隣で眺めていた茜はクスッと笑ってから
沼塚の腕を引いて「ね、私にもちょーだい」
なんて言っていて、上目遣いは完璧だった。
沼塚がりんご飴を差し出せば、沼塚の手ごと掴んでパクリ。
茜はりんご飴を一口かじり
「ん~っおいしい」なんて頬を綻ばせる
隣の沼塚に「ほら朔も!」とと笑顔で言って
沼塚が何かを言う前に茜は彼の口にりんご飴を押し込む。
『んぐ』っと驚いた声を出してからもぐもぐと口を動かす沼塚に
「どう?おいしいでしょ?」
と言い首を傾げる茜。
それに対して「急にいれるなっての、美味いけど」と笑って答える沼塚に
彼女は満足げにニカッと笑う。
そんなやりとりを見て思わず疎外感を感じてしまったが
(これもきっと仲がいいからできるやり取りなんだろうな)
なんて少しだけ羨ましく思うのと同時に、なんだか胸が締め付けられた。
(なんだろ…この感覚)
最近沼塚といると、なんか変だ…
久々に友達ができて
色々心境が変化しすぎてるせいなのかもだけど…
ただ単に
リア充の中にいるぼっち特有の孤立感な気もした。
そんなことを考えつつも、歩を進めていると
「……あ」
ふと僕の視界に見知った顔が入ったので
思わず足を止め
「あれって、なずくん?」
と、横の2人に向かって呟けば
前の新谷たちも久保に気付いたのか
四人とも立ち止まり
目の先には一人ラフな格好でフランクフルト片手に歩いている久保がいて。
「あれ?みんな?!」
こちらに気付くとすぐに駆け寄ってきて、六人で輪になるように立ち話をし始めた。
「お前バイトじゃなかったのかよ」
新谷が言うと
「それがさ~思ったより早く上がれたからせっかくだし、ちょっと遊んで帰ろうと思って」
と答える久保。
その言葉に、僕はチャンスだと思った。
「な、なずくんも一緒に回らない?ほら、今ちょうど6人だし」
(このままこのダブルカップルに挟まれているのはキツすぎるし…)
(場違いすぎて死にたくなってくるし、なずくんが加われば僕の違和感は払拭される…っ)
内心そんなことを思って
なずくんに正面切ってそう言うと
彼は「いいの?」と一言。
「俺らも花火始まったらこいつと二人で見たいし、ちょうどいんじゃね?」
新谷の言葉に僕は内心ガッツポーズを決めると、
続くようにれなも茜に対して
「茜と沼塚くんも幼馴染同士、水入らずがいいよね~?」
なんて気を利かせて
茜は照れたように「うん」と返した。
そして、僕は久保の目を見つめながら
(頼むからこっち来て、僕を救って…!)
なんて大袈裟にもそんなことを願っていると
僕の顔を見て何かを察したのか
「そゆことならおっけー!んじゃもうすぐ花火始まる1時間前だしここらでペアに別れよっか」
と久保が提案してきたので
僕は「うんっ」と言って首を縦に動かして返事をする。
「じゃ、俺ら先に行くわ」
新谷とれなカップルが一足先に人混みに消えていくと
「ほら、茜ちゃんたちも行っといで」
と久保が茜と沼塚の背中を押す。
二人はそんな久保と僕に戸惑いつつも
「う、うん……二人ともありがと…!じゃあね」
茜は僕らに一言かけて沼塚の腕を引きその場を後にした。
そうして残されたのが僕と久保の2人だけとなり
「ふぅ……」
思わず安堵からため息をこぼすと
「…リア充してんねぇ」
なんて声をかけてきて
「ほんとにね……」なんて返した。
「あの二人の横にいる僕の場違い感半端なかったから…本当になずくんいてくれてよかったよ」
「はははっ、まーくんすごい必死な顔してたもんね」
「そ、そんなに……?」
「あ…ていうか、なずくんならバイト終わりと言えど女子に囲まれてそうなのに、一人とか珍しいね」
「あーそれね。なんかみんな彼氏と回るらしくて、いつも気兼ねに遊べる俺は用無しなんですって~」
頭の後ろで手を組んで不貞腐れたようにそう言うので
「え、そ……そうなんだ。それはなんというか……ご愁傷さまです」
変な敬語になりつつそう返すと
クスッと笑ったあとに久保は聞いてきた。
「まーくんこそ、沼ちゃんと回らなくてよかったの?」
「え?なんで?」
「まーくんって沼ちゃんとよく一緒にいるし、今日も一緒にいんのかなぁって」
「兄弟でもないんだからそんなに一緒にいないよ」
「沼ちゃんから寄ってきそうだけどなぁ」
「そう?今日は茜ちゃんもいるし、沼塚も寄って来ないと思うよ」
「それに僕のことからかって面白がってるだけだし…まあ、悪意が無いのはすごく伝わってくるけど…」
「でもまーくんって、沼ちゃんといるときが1番笑ってるって気づいてる?」
そんな彼の何気ない言葉に僕は一瞬ドキリとする。
「そ、そう……?全然意識したことないけど」
そう返してみるが内心はかなり動揺していた。
(沼塚の前で…僕ってそんなに笑ってるの……?)
なんて考えていると彼は続けて言う。
「二人って特別な関係だったりすんの?」
「へ…っ、なにそれ?」
あまりにも突拍子もない発言に聞き返すと
久保はそんな僕の反応を見て『冗談冗談』と笑いつつ言った。
「でもまーくんはさ、沼ちゃんのことどう思ってるの?」
「え?ど、どうって……友達だと思ってるよ」
そう返す僕に、彼は続ける。
「なんか二人っていつも距離感バグってるからさ」
そんな一言に
「いやいや、それは沼塚が近いだけだし、全然ないよ。」
それに沼塚が引っ付いてこようとすれば僕は拒否ってるし。
まあ、甘い言葉を言われると流されてしまうときも多々あるけど…拒否ってはいるはず。
「えーそうなんだ。つまんないの~」
「いや面白がるとこじゃないし…!ただの友達だし、第一男同士だよ?」
パズルのピースを当てはめるように当たり前のことを口に出すと
「んまぁそれもそっか」
納得したような表情の後、久保は付け足すように
「じゃあ俺らでいっちょ沼ちゃんたちくっつちゃおー!」と拳を空に掲げて宣言した。
「く、くっつけるって言ってももう距離は近くない?」
前方を歩く沼塚たちを見れば
目の前では、沼塚の袖口をくいっと引っ張って
茜がチョコバナナを差し出すと
それを沼塚が、僕には向けないような弾ける笑顔で受け取っていて。
なぜだか、そんな二人の後ろ姿に妙にモヤついてしまい、ぼーっとしていると、久保が言った。
「茜ちゃん、今日沼ちゃんに告白するってい意気込んでたんだよ」
「えっ、そうなの?」
「そそ、だから少し協力してあげない?」
「う、うん、それは全然いいけど」
大切な友人に彼女ができる
恋する乙女の背中を押せる
それは、一友達としたら応援すべきことで
喜ばしいことだ
なのに、目の前で彼女が沼塚の袖口を引っ張って、仲良さげに話すだけで
どうしてこんなに胸がチクチクするんだろう
(どうして、あの二人を見ているとこんなに胸が苦しくなるんだろう)
そんなことを考えながら
二人を後ろから見守るように花火のよく見える場所まで歩いた。
花火が始まって
ものの5分で僕は後悔の念に駆られていた。
会場から少し離れた河川敷で花火を見ている二人。
こんな絶景スポットで花火が打ち上がっているというのに
僕と久保はそんな二人を遠くから眺めていて
「やっぱお似合いだね~あの二人」
なんて言う久保に「だね」と笑えるのに
お似合いのふたりになんだか複雑な気持ちの自分がいて。
そんな嗄れた心を隠すように
「ごめん、ちょっと僕、トイレ」
と隣の久保に告げてその場から離れた。
花火の音に紛れて聞こえる
「えっまーくん!もうそろ今日の目玉の花火上がるよ、いいのー!?」という久保の声を背に
僕は走って走って
河川敷から少し離れた場所の人気のない茂みにしゃがみ込んだ。
心臓っていうか、胸が痛い
なんだか、苦しい
心臓を抑えるように真ん中の襟をぎゅっと握り締めて
(なんでだろう……なんであの二人を見てこんな気持ちになるの…?)
なんて考えてしまう。
初めての感情で、よく分からなくて
なんであの場から逃げ出してしまったんだろうと思うと
(もしかして僕…まさかだけど、沼塚に…)
(沼塚に…独占欲でも抱いてる?)
行き着いた答えはそれだけで、でもこのモヤモヤとした気持ちがなにかは心の中で言語化することもできなくて。
ふとネットで調べてみるか、という考えが脳裏に浮かび
クラッチバッグからスマホを取り出して、Googleを開いた。
〝友達 独占欲 なぜ 〟
と単語の間にスペースを入れて検索すると
すぐ上にYahoo!知恵袋が出てきて
その1番上の質問と回答が目につく。
ライトブルーで表記された
《友達に独占欲を抱いてしまいます。僕は男ですが男友達に対…》という見切りの質問をタップする。
上に表示された質問者の全文を見ると
今の僕と全く同じ状況下で
《あるとき、その男友達を前にすると以前のように上手く喋れなかったり、女の子と親しげに話しているところを見ると胸が苦しくなるようになりましたし、嫉妬?みたいな感情が出てきて、今まで同性に独占欲なんて湧いたことも無く、戸惑っています。自分が知らなかっただけで自分はゲイなのか、とも思いましたが、僕はどこかおかしいんでしょうか?この気持ちがなんなのか知りたいです。》
と書かれていて
気づくと画面に張り付くように文章を追って、読めば読むほど自分と重なってしまう。
(ゲイ……意識したことすらなかったけど、僕も、もしかしたらそうなの……?)
少しの不安を抱きつつ、下のベストアンサーを見てみる。
そこには、冒頭にハッキリと
《自論ですが、相手の笑顔を見てドキッとするなら恋をしているんだと思います。》
と書かれていた。
(正直、思い当たる節はある…かも)
そんなことを考えながら
続きの文を黙読していく。
《同じく高校生男ですが、僕も全く同じような関係の男友達がいて、女の影を感じたときや、他の男友達と距離が近かったりするとモヤモヤしてしまいます。》
《なんならその人の顔を思い浮かべて一人で致してしまったこともあります。キモイですね。》
《最初は自己嫌悪に支配されましたが、恋だと自覚してからは少し気にならないようになりました。》
《質問者さんがゲイなのかは分かりませんが
恋心を抱いてしまっているだけかと。》
全文を読み終えて
思わずスマホを二度見した。
(沼塚が僕以外と仲良くしてるとモヤモヤするのって……そういうことなの?)
「……他の回答も、見てみよう」
独り言を呟きながら
スクロールして回答を見ていくが
どれも似たり寄ったりな答えしか書いてなくて。
中には〝学生ならいいんじゃないですか?社会人とかなら気色悪いのでやめてほしいですけど〟
なんて棘のある回答もちらほらあったり
ただ、男友達に独占欲を抱いてしまう理由として書かれているものの多くが
《その友達が好きだから》という回答で。
(好き…僕が、沼塚を……?)
ふと頭に浮かんだ考えを慌てて打ち消す。
前のページに戻って、他の記事にも目を通すが
《独占欲……友達に感じるのは、その人が自分以外の人と仲良くしていると嫉妬してしまうから。》
《また、友達に対して自分の方を見て欲しいという気持ちや、友達を独り占めしたい気持ちも独占欲の一種です》
などというものが多く、これ以上漁っても答えは一緒かと思ってホーム画面に戻る。
(……っ)
「沼塚に恋とか、そんなわけ……ないよね」
そう自分に言い聞かせるように呟くと
僕はスマホの画面を落として、バッグにしまい込んだ。
幾ら、沼塚が綺麗で
太陽みたいに眩しい陽キャで
僕みたいな陰キャとも友達になってくれて
春の嵐みたいに颯爽と僕を助けてくれるからって
そんなことあるか、なんて思うけど
それ以外に説明がつかない。
───暫くして…
花火の後の静けさで少し冷静になった頭で
結論の出ない気持ちを落ち着かせてから久保のところまで戻ると
ちょうどスターマインが夜空を彩っていて
「もうっ!まーくん急に走ってどこ行ってたの?」
と少し怒ったような口調でそう言った久保を宥め
僕はさっき思ったことをもう一度頭の中に巡らせた。
(……最近本当におかしいな僕)
(沼塚が僕以外の誰かと仲良くしているだけでこんな気持ちになるとか…)
(沼塚は僕のものでもなんでもないのに)
そんなことを考えながら最後の花火を見ようと空を見上げる
するとちょうど最後のスターマインが終わり、辺りが暗闇に包まれた。
暫くして、6人で集合し直して談笑をし始めた。
「はぁ、楽しかった!今日が終わらないで欲しいぐらい」
「まあ分からなくもねーな」
新谷れなカップルはそんな会話を交わして
その横では沼塚と茜が
「花火綺麗だったね」
「それな、ってそうだ。花火の上がってるときになんか茜言ってなかった?あんまよく聞こえなかったんだけどさ」
「?!あー…いや、なんでもないの!綺麗だねって…言っただけ、だから」
そんな会話をしている。
その会話を聞いて、彼女の苦笑いを見る限り
告白は失敗に終わったのだと察して、なぜかホッとしてしまっている自分がいて
それに対しても僕はまた胸がチクチクと痛んでしまい、俯いてしまう。
そんなとき、沼塚が「奥村、大丈夫?」と
声をかけてきて
「え?」
「いや、花火終わってからなんか元気ないっていうか」
そんなことを言って
僕の顔を覗き込む沼塚に僕は動揺を隠せず
「き、気の所為だよ」
そう一言だけ返す僕に彼は
「具合悪かったりする?」と更に聞いてくるから
「大丈夫だって」と返すと
「そっか、ならいいんだけど」
優しい顔の沼塚に、内心悶々として
四人で来た道を戻っていると
目の前にはさっきのように、当たり前のように
沼塚と茜が二人並んで歩いて、カップルにしか見えない光景が広がっていて
気付くと、沼塚のひらひらと風に吹かれる袖に手を伸ばしたい気持ちが湧き出して、咄嗟に足を止める。
(…っ、さっきからなに考えて……今日、本当におかしい)
(祭り気分に浮かれてるだけ、だよね)
「ん、まーくんどしたの?」
僕が止まったことに気付き、久保が振り返ってそう聞いてくるから
「あ、ごめん」と返してまた一歩踏み出すと、足の指の付け根に熱い痛みが走って
ズキッと踵に痛みを感じ、つい「うっ」と鈍い声を上げてしまった。
それには久保だけでなく前を歩いていた沼塚たちも僕の異変に振り向いて
「今すごい声したけど、もしかして奥村くん?」
「なになにどうしたの」
片足を引きずったような体勢の僕を見て
そう声をかけてくる二人。
それに僕は苦笑いして
なんでもないよと言うけれど
沼塚だけがなにか気付いたようで
僕に歩み寄って来ては
「……足痛い?」と聞いてきて。
その一言にドキッとして、僕が咄嗟に
「へ、平気だから」なんて嘘をつくと
「嘘、明らかに痛そうな声出してたでしょ、足引きずってるし」
と言って、痛みが走った方の右足を指さしてそう指摘してきて。
感が鋭すぎる。
「ちょっと、踵擦れただけ…そんな赤くは…」
言いながら、足の甲を確認すれば下駄の硬い木材と擦れ、赤く腫れ上がっていて
自分でも驚いていると
「あー、もう、完全に腫れてるじゃん」
僕の前で片足を立ててしゃがみ込んだ沼塚に足を見られて呆れたように言われる。
沼塚の隣にいた茜も「え、奥村くん大丈夫?」と心配そうに首を傾げてきて
それを皮切りに久保が
「ねえ、さっき花火の途中で急にトイレって言って走ってったけど、もしかしてそんときの?」
と図星を突いてくるので「…そうかも」と素直に頷くしかなくて。
「とりあえず手当しよう」
沼塚の言葉に、大袈裟だと思いつつ
「いや、だから平気だって…」と言い訳するが
「平気な人は足引きずって歩かないの」
そう言って沼塚は立ち上がったかと思えば
茜と久保に向かって
「ちょっと奥村の足手当してくる、二人ともバスの時間あるし、先行ってて?」
「やば、ほんとじゃん!」
「んじゃまーくんのことは沼ちゃんに任せるね?」
二人は面倒臭そうな顔ひとつ見せず笑顔でそう言ってくれるので
「二人ともごめん」と顔の前で両手を合わせて謝ると
茜は「気にしないで」と言ってくれて、二人は駆け足で暗闇へと消えていった。
それを見送ると
沼塚は「近くに神社あるからそこ行こっか」と絆創膏を手にしながら真剣な顔で僕の手を引いて
それに流されるようについて行くが、道中なにも会話はなくて。
(鈍臭い、って思われたかも…)
そんなことを考えていると
「本当に奥村って危なっかしいよね」
会場から少し離れ、歩いていたときに
振り向かれることもなくそう言われ
僕はムッとしてしまう。
「う、うるさいな……僕のこと気にしないで
絆創膏だけ渡して帰ってくれればよかったのに」
ムキになってそう言い返せば
「今の状態の奥村のこと放って帰るのって、なんか足怪我してる野良猫見捨てるみたいな気持ちなったから」
なんて言って笑ってくるから
つい「の、野良猫って……」と言葉に詰まる。
少しして着いたのは
屋台の立ち並んだ通りから少し外れた道にある
小さな神社。
周りは街頭もなく暗くて、提灯もひとつしかない。
そのまま沼塚に連れられて神社の鳥居をくぐり
階段を上っていくと本殿に続く石階段に二人で腰を下ろす。
すると突然、横に座っていた沼塚が
僕の目の前に無言でしゃがみ込んできて
そのまま突然足首に手を回されたからびくりと身体を跳ねさせてしまう。
するとそのまま手際よく僕の下駄の脱げた左足を下にして、足の裏を指で持ち上げてきて。
「一応応急処置だから家帰ったら消毒して欲しいんだけど、貼るのここで大丈夫?」
と擦れて赤くなっている部分に絆創膏を合わせて聞いてきて
「じっ自分で出来るから……」
そう言って足を引っ込めようとするけど沼塚の力が強くびくともしなくて。
(力強っ……!)
「自分じゃ貼りずらいでしょ」
「……っ、それは……そうだけど…人の足、触りたくないじゃん」
「怪我してるし、奥村は特別だから」
「えっ…」
誰にでも言ってそうな言葉なのに
特別なんていう二文字に気をとられ、気付いた時には頬にまた熱を帯び始めてしまって
顔を見られないよう俯いて
「っ……なにそれ」と声を漏らしていた。
「嫌だった?」
「いや、別に……」
そう素っ気なく返すけど内心はすごく動揺してて。
だって特別って、それはどういう意味で言ってるのか分からなくて。
(でも、なんでだろ、嬉しい…沼塚に特別って言われるの…)
そんな会話を交わして、僕は観念したように大人しくなる。
すると「じゃあ貼るよ」と声をかけてくれたあと
ペタっと絆創膏を傷口にクロスして貼ってくれて。
それを見つめていると、沼塚が
「ねえ、奥村、ひとつ聞きたいんだけど」
と口を開いた。
それに「なに?」と返すと、彼は少し躊躇うような表情を見せたあとに口を開く。
「今日さ、薺となに話してたの?」
「……へ?」
突然そんなことを言われて、僕は間抜けな声を出す。
なんでそんなこと今聞くんだろうなんて疑問が頭に浮かぶけど
僕はとりあえず正直に答えることにする。
「…なにって、普通の会話?あと、沼塚たちがお似合いって話をしてたぐらいで」
「え……お似合いって?」
「そりゃ茜ちゃんと沼塚のことだよ、今日、凄くカップルみたいだったし」
「そっか、それさ、奥村はどう思ったの?」
「……え、どうって?」
「だから、俺と茜がお似合いだって言われてどう思ったのかってこと」
「お似合いだと、思うけど。」
(本当は、そんな二人を見ていられなくて途中で逃げ出しちゃったけど)
(…なんでそんなこと聞くんだろ)
そんなことを考えていると沼が「ふーん……」なんて少し不機嫌そうな声で呟く。
(……奥村って、やっぱり茜ちゃんのこと好きなのかな、そんなこと聞いてくるってことは)
「あとさ、奥村って…俺といるときと薺といるとき、対応全然違わない?」
「……そんなことないけど」
「花火誘ったときもだけど、途中で薺と会ったとき、すごい嬉しそうな顔してたよね」
「そ、それはカップル四人に挟まれてるのが場違い感凄くて…なずくん見つけたから、ちょっと一緒に回って欲しかっただけだし」
「ふっ、カップルって、茜と俺は違うじゃん」
「いやもうあれはカップルでしょ」
「それを言うなら奥村こそ後ろで楽しそうに話してたじゃん?」
「なずくんのこと…?」
「ん、俺以外にはあんなに柔らかく話すんだと思って」
「えっ、いや、別に沼塚にだって柔らかく話すときはあるでしょ…多分」
「基本ツン9割の猫じゃない?俺の前だと」
「そ、それは沼塚がいつも調子良いこと言うからだし」
「ぼ、僕の素はこっちなの。仲良くなると…なんか、気許して、ズバッと言っちゃって」
素直にそう言うと
「…てことは、少なくとも俺のこと信用してくれてるってこと?」
とニヤつきながら聞いてくるので
目を逸らせば「あ、図星?」とからかってきて
「あんな助けられたら、そりゃ」と短く返せば
「俺はうれしーよ、素の奥村が見れる方が特別感あるし」
「へ?あっ……」
そんなことを言われてつい気を抜いてしまい、変な声を出してしまった。
すると、手当がちょうど終わったのか
「これでよし」と言って沼塚は立ち上がり、僕も下駄を履いて立ち上がる。
「あとでちゃんと消毒するんだよ」
「う、うん……ありがと……」
顔を逸らしながらそう返し
立ち上がると、沈黙が始まってしまって
さっきまでの盛り上がりが嘘かのように静まり返る神社の境内に
なんだか変に緊張してきてしまう。
すると「じゃ、行こっか」と言って背を向ける沼塚。
僕は気がつけばそんな彼の袖口に手を伸ばしていた。
「っ、あのさ……」
僕のその一言に沼塚はこっちを振り向いてくれて。
「…どした?」
「えっと……」
「……?」
そんな沼塚に僕は顔から火が吹き出しそうなほど顔を赤くして
袖口から手を離せないまま言葉を紡いだ。
「……その、今日…みたいに、みんなで遊ぶときとかあったら、また誘って欲しいなって……いうか、ぬ、沼塚ともっと遊びたいなって……思って……」
「…………」
そんな僕の言葉に沼塚は目を大きく見開いて、こっちを見てきた。
「えっ、それ、ガチで言ってる…?」
それに僕は居た堪れなくなって
「ぼ、僕なんかと遊んでも楽しくないと思うけど…最近、沼塚と喋ってると、もっと仲良くしたいって、思ってきてて…」
(独り占めしたいと思ってしまうぐらいには、沼塚ともっと仲良くなりたいと思っている自分がいるのは事実だ)
なんて、もう自分でもなにが言いたいのかわからずに思っていることをそのまま口に出してしまう。
「沼塚と喋ってるときがなんだかんだ1番楽しくて」
「え、俺も楽しいよ?奥村もそうなんだ…?」
「うん…それはいつも沼塚が僕のこと気遣って優しくしてくれるおかげなんだろうけど…さっきも僕の下駄擦れたの見兼ねて絆創膏貼ってくれたし」
「沼塚って、他人のことよく見てるなって…」
(だから、もっと僕のこと見て欲しくなるのかな)
「そう?そんな、友達として当たり前のことしただけだって」
「そっか…だから…かな、なんか最近、沼塚のこともっと知りたい、て思ってるのって……あっ」
そこまで言って僕は自分のとんでもない発言に気付いた。
(…今、沼塚こと知りたいって、言った…?)
それには沼塚も驚いたのか目をぱちぱちさせていて。
「え、っと……今のはその、ちがくて、変なこと言った、かも」
途端に沼塚の袖口から手を離して目を逸らせば
そんな僕の言葉に沼塚は暫くの間黙っていて
そんな沈黙に耐えられなくてなにか言わなきゃと口を開こうとした時
先に口を開いたのは彼の方で。
「奥村って急にデレるよね…すげー嬉しいけど」
なんて少し笑って言ってきて。
それに僕は「デレてない」と返して、沼塚と目を合わせると
「じゃあさ、夏休み中に一緒にどっか行かない?」
「え?」
「せっかくだし男同士水入らずでさ、色々見て周れるショッピングモール回りでもしない?」
そんな提案をしてくる沼塚に僕は少し間を置いてから小さく頷いた。
「…え、行きたい」
「ほんと?じゃ、決まりね」
そんな約束を交わして、その日は別れ。
沼塚に誘われて、二人で遊びに行けると聞いて、内心舞い上がりながら帰路に着いた。
家に着くと、時刻はすでに22時で
手を洗って部屋に戻るなり
浴衣を脱いで部屋着に着替え、お風呂に入るのは明日にして、ベッドに体を沈ませた。
「はぁ〜……」
枕に顔を埋めてため息を吐く。
色々歩き回ったせいかもうクタクタだというのに
沼塚に恋をしているかもしれない現状に
未だ頭の処理が追いつかなくて。
沼塚のことをもっと知りたいと
思ってしまっている
その時点で、もう…恋なのかな
いや、分からない…断定は出来ないけど