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僕は手を伸ばして、ラズールの頬をさわる。

ラズールの肩がピクリと揺れて、眩しそうに目を細めた。

「なに…」

「ほら、目の下にクマができてる。眠れてないんだろ?ゼノが言ってたように、これからが大変なんだから、寝れる時に寝ようよ」

「しかし」

「おまえは本当に頑固だね。来て」

「フィル様っ」

僕はラズールの腕を掴んで、強く引っ張った。

いきなり引っ張っられて、ラズールが僕の上に倒れる。でも僕を潰さないように、ラズールが腕を突っ張ってくれたから大丈夫だ。

「ここ。ここに来て」

「え…はい」

僕の隣を叩くと、ラズールが素直に横になった。僕は笑って、もう一度天井を見る。

「リアムの叔父上って、どんな方だろうね。緊張しちゃうね」

「どんな方であろうと、フィル様に失礼な態度は取らせません」

「ラズールこそ、怒ったりしないでよ」

「その方のフィル様への接し方によります」

「ホントにおまえは僕のことばかり。…でも、ありがとう」

「あなたは俺の生きる理由ですから」

「…また言ってる。もう眠くなってきたから寝るよ」

「はい。おやすみなさい」

「ん、おやすみ…」

僕は目を閉じた。

本当はまだ眠くない。でもこれ以上ラズールと話していたら、泣きそうだったから寝たフリをした。

僕を生きる理由にしてはダメだよ。そんなの、僕がいなくなったら死ぬってことだろ?ラズールは生きて。僕が消えても生きてほしい。

込み上げてくるものを抑えて、僕は目を固くつむる。

ラズールの視線を感じる。僕を見ている。銀髪を撫でている。僕の髪を撫でるラズールの優しい手は、幼い頃から大好きだ。安心する。だからか、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。

ふと胸が苦しくて、目を覚ました。部屋の中が暗い。日が落ちたのか。どれくらい眠っていたのか。ラズールは?と隣を見ると、珍しくラズールが熟睡している。僕を大事そうに抱きしめて。だから胸が苦しかったのかと思わず笑った。

僕に危険が及ばないように、常に周囲に注意を払って、神経を研ぎ澄ませていたラズールが、このように深く眠るのは珍しい。よほど疲れていたのだろう。

僕はそっとラズールの背中に手を回した。そして硬い胸に鼻を押し当てて匂いを嗅ぐ。生まれた時から傍にある、安心する匂いだ。

「いつも守ってくれてありがとう。ラズールがいたから、僕は生きてこれた。これからは、自分のために生きてね」

とても小さく掠れた声で呟く。面と向かって言いたいけど、ラズールは絶対に納得しないから。だから眠ってる間にしか言えないけど。本当に心から感謝してるんだ。

「ラズール、大好きだよ」

そう呟いて再び目を閉じた僕の頭上で、ラズールの息が震えた気がした。


ベッドから降りる動作で、ラズールが起きた。いや、もっと前から起きてたかもしれない。だってスッキリとした顔をしているから。

「ラズール、おはよう」

「…不覚にも寝てしまいました。もう暗くなりかけてますね」

「よく眠ってたね。疲れ取れた?」

「はい。フィル様は?」

「うん、元気になったよ」

「それはよかった。それに、待ち人が来られたようですね。隣が騒がしいような」

「えっ、ほんとに?身なりを整えなきゃ!」

「大丈夫ですよ。あなたはそのままで十分です」

「なに言ってんの!ほら、ラズールもちゃんとしてっ」

僕は急いで椅子にかけていた上着を取った。上着をはおり、ボタンを止めていると、素早く上着を着終えたラズールが、僕の髪をといてくれた。

「ありがとう」

「いえ、完璧ですよ」

「ふふっ、おまえは僕を褒めることしかしないから、アテにならない」

「それは心外です」

二人で笑いあい、ラズールが「様子を見てきます」と扉に手をかけたタイミングで、声がかかった。

「入ってもよろしいですか?」

「うん、とうぞ」

ラズールが僕を見て頷き、扉をゆっくりと引く。

廊下にゼノと、その後ろに並んでジルと栗毛の壮年の男の人が立っている。ゼノを先頭に順番に入ってきて、全員が入るとラズールが扉を閉めて結界を張った。

「フィル様、十分に休まれましたか?」

「うん、かなり寝てしまって。変な顔をしているかもしれない…」

「大丈夫です。相変わらずお美しいです」

「美しくはないと思うけど…でも、ありがとう」

「本心ですよ。フィル様、こちらがリアム様の叔父上、ラシェット様です。ラシェット様、リアム様の恋人のフィル様です」

ゼノの言葉に、僕の胸が熱くなる。

そんなふうに紹介してくれるなんて、思いもしなかった。嬉しい…すごく嬉しい。

僕は前に出て挨拶をする。

「初めてお目にかかります。フィル・ルナ・イヴァルといいます」

「初めてまして。お会いできて光栄です。リアムから話は聞いておりました。リアムの叔父のラシェットです」

ラシェットさんが膝を折り頭を下げた。

僕は慌ててラシェットさんの肩に触れる。

「顔を上げて立ってください!僕はもう、イヴァルの王ではありません」

「それは…どういう?」

「詳しくは言えませんが、玉座を後継者に譲ってここに来ました。だから、僕は普通の人です」

少し首を傾けてニコリと笑う僕を見て、ラシェットさんも笑ってくれた。

「リアムから聞いた通りの可愛らしい方ですね。あなたにお会いするのを楽しみにしてましたよ」

「…え?リアムってば、どんな話をしたんだろう…」

ラシェットさんが差し出した手を握りながら、僕は反対の手で熱くなる頬を触った。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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