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「積もる話もありますが、それはリアムと君が無事に私の城に戻られてからにしましょう。ゼノとジルから話は聞きました。私の代わりにリアムを助け出してくれるとか…よろしいのですか?」
「はい。そのために僕はここにいます。必ずリアムを牢から助け出します。そしてラシェットさんの城へ…連れて行きます」
ラシェットさんが、さらに強く僕の手を握りしめる。
「捕まれば…命を落とすかもしれませんよ?」
「大丈夫です。僕はこう見えて、剣も魔法も強いんですよ。ここにいるラズールに鍛えられましたから」
「そうかですか…。それは頼もしい」
ラシェットさんに見られて、ラズールが軽く頭を下げた。
大丈夫。必ずリアムを牢から出して解毒して、ラシェットさんの城へ送り届ける。一緒に向かうのは、僕ではないけども。
僕はラシェットさんに椅子を勧めたが、「このままで」と立ったまま話を進めた。
「ところでどうやってリアムを助ける?」
「実は…詳しくは考えてないのです。とにかくリアムを助けたい一心で来ましたから。でも優秀なラズールが考えてくれます。きっと上手くいきます。ラシェットさんは、王の不快を買う前に、早く城に戻って静かに待っててください」
「なるほど。君はリアムと一緒にいたせいで、リアムに似たんじゃないかと思う。リアムもそのような楽観的な所がある。だけど不思議と上手くいくんだ。君の場合もそうだろうね。わかりました。私は早々に城に戻り、大人しく君達が来るのを待っているよ」
「はい。勝手を言ってごめんなさい」
「いやいや。君が来てくれて嬉しいよ。リアムは本当に良い人に会えた。よかった。アリスも君のことを気に入っただろうな」
「アリス…さん?」
「リアムの母親で、私の妹だ。母親のことは聞いてるかい?」
「はい。前に話してくれました」
「そうか。リアムは本当に君に心を許してるんだね。ではリアムのこと、よろしくお願いします」
「はい。ラシェットさんも、道中お気をつけて」
「ありがとう。また我が城で会おう」
「……」
口から言葉が出なかった。行きますとは言えなかった。僕が行くことはないからだ。あの美しい湖を、もう一度リアムと見たかったけど、無理だ。
動けなくなった僕の代わりに、ラズールが返事をする。
「俺が二人を連れて行きます。その時は温かく迎え入れてください」
「もちろんだとも。ラズールだったか。君も気をつけて」
「ありがとうございます」
僕の隣でラズールが頭を下げる。
ラシェットさんが手を上げ、部屋を出て行く。
ジルが「リアム様をお願いします」と頭を下げてその後に続き、ゼノは部屋に残った。
「ラシェットさんは、今夜はここに泊まるの?」
「いえ、今すぐ出発します。動向を見張られていますから。ここに長居すると危険だ」
僕はドキリとする。
ラズールからも緊張している気配を感じる。
「ラシェットさん…僕と会って大丈夫だった?」
「長く話し込んではいないので、大丈夫です。それにラシェット様の部下であるジルとユフィとテラが、ラシェット様と共に城へ戻りますので、ここで彼らと待ち合わせていただけだと、王の元へ報告が上がるでしょう」
ゼノが柔らかく笑う。
その表情は、僕を安心させる。
僕もホッと小さく息を吐いたけど、また疑問を口にした。
「ゼノは?一緒に戻らないの?」
「戻りません。フィル様のお傍を離れません。それにご存知でしょうが、俺はリアム様の側近ですよ。フィル様と同じく、何としても助け出したいと思ってます。それに王城の中に詳しい者がいた方が効率がいい。ですので、どこまでもご一緒します」
「危険だよ?」
「承知してます。ですからフィル様をお守りします。まあラズール殿がいるので、俺の出番はないでしょうが」
「そう…ありがとう」
僕は自然と頭を下げた。
例えばリアムの配下の者達で助けに行くのと、敵国である僕と助けに行くのとでは、捕まった場合の罰が違う。前者は忠臣としての行動だとそこまでの罪にならないかもしれないけど、後者だと処刑されるかもしれない。
だから本当は、僕とラズールだけで助けに行くつもりだった。僕が命を呈して二人を逃がすつもりだった。
でも…そうだよね。ラズールが僕を想うように、ゼノにとってもリアムは大切な主だ。人に任せて待ってるなんてできないよね。
「フィル様。俺なんかに頭を下げないでください。フィル様がいなくても、俺一人で助けに行くつもりでしたから。大丈夫です。警備が手薄な場所や、利用されていない廊下や部屋など、王城内のことはよく知ってます。必ずリアム様を助け出し、ラシェット様の城へ行きましょう。皆で行きましょう」
僕は顔を上げてゼノの目を見た。
ゼノが深く頷く。
今度は隣のラズールを見上げた。
ラズールが僕の手を握りしめ、「大丈夫ですよ」と囁いた。
灯りを背にしたラズールの顔は、よく見えなかったけど、今にも泣き出しそうに見えた。