テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
暗闇に、乾いた銃声が響き渡った。
鼓膜がキィィィンと鳴り、硝煙の匂いが鼻を突く。
私はクローゼットの隠し通路に踏み込んだ姿勢のまま、動けなくなった。
(誰が……撃たれたの?)
振り返る勇気さえない。
だが、通路の奥から漏れる微かな光が、壁に貼られた「祭壇」を照らし出していた。
そこに並んでいたのは、10年前の私の日記、メモ
そして……一枚の音声データ。
「……お願い、私をいじめるのは止めて。代わりに、あの子の秘密を教えるから」
スピーカーも無いのに、その声が頭の中で再生される。
10年前、美波たちに喉を焼かれる直前。
私は極限の恐怖の中で、クラスにいた別の大人しい女子――
「結衣」を次のターゲットとして差し出そうとしていた。
私が被害者でいられたのは、その直後に喉を焼かれ
「告発する権利」すら奪われたからに過ぎない。
もしあのとき、喉を焼かれなければ、私は彼女を売って生き延びていた。
「……気づいた?栞」
隠し通路の奥から、結衣の声がした。
「あなたは聖女じゃない。ただの、順番待ちをしていた加害者なのよ」
ガタガタと膝が震える。
私が「パンドラ」に選ばれたのは、私が清廉潔白だったからではない。
私の中に眠る「醜い自己防衛本能」を、結衣は10年前から見抜いていたのだ。
その時、クローゼットの向こう側から、重いものが倒れる音がした。
「…っ、あ……」
奈緒の声。
私は弾かれたように部屋に戻った。
スマホの光が照らし出したのは、肩を撃ち抜かれ、壁にずり落ちた奈緒の姿。
そして、銃を構えたまま、自分の腕の傷から流れる血で顔を汚した九条の姿だった。
「……正当防衛だ。彼女が、ナイフで僕の喉を狙ってきたからだ」
九条の声は震えていた。
エリートのプライドが、人を撃ったという事実によって、致命的にひび割れている。
奈緒は血を吐きながら、不気味に笑った。
「あは……あはは! 撃ったわね、九条さん。……今、ライブ配信の視聴者数は1000万人を越えたわ。あなたの『正義の銃弾』、世界中が拍手してるわよ」
奈緒がスマホを掲げる。
画面には、逆上した刑事が丸腰の女性を撃つ瞬間が、完璧なアングルで記録されていた。
パンドラが、カメラの制御を奪って、最も九条が悪く見えるように配信していたのだ。
「……はめられた」
九条が銃を落とした。
その時、アパート全体の封鎖が、音を立てて解除された。
外で待機していた野次馬たちが、獲物を見つけた獣のような歓声を上げて、階段を駆け上がってくる音が聞こえる。
結衣のメッセージが、私のスマホに届く。
「さあ、栞。復讐の舞台は整ったわ。10年前に私を売ろうとしたあなたに、最後のチャンスをあげる。……この二人のうち、どちらを『真犯人』として群衆に差し出す?」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
深冬芽以