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「ラースウェイト。姿が人っぽくなりましたね」
「なにっ? それを早く言え」
ずっと雲みたいな霧みたいな、不定形なままかと思ってたぜ。
不安定ですぐにでも消えそうで、体が散り散りにならないようにって、緊張しっぱなしだったからな。
「今気付いてすぐ教えてあげたのに」
「そうか。わるいわるい。それで、俺はどっちの顔なんだ? 日本人の時のか、こっちの世界の時のか」
「私がよく知っている顔ですね。思い出すだけで腹立たしいあなたの顔。私に手があるなら、とりあえずはたきたい気分です」
「どんだけ俺のこと嫌いなんだよ。てか、そっちの顔で良かったぜ。なにせ金髪碧眼の甘いマスクだったからな。日本人の時のだと、平凡過ぎて嫌になるとこだ」
「調子に乗って。それより、さっきのホーリーサークルで一掃したせいで、使えるようになった魔法を教えるのでちゃんと聞いてくださいね」
「お、おぉ……」
せいで、ってのもトゲがあるし、聞いてくださいねの冷たい言い方よ。
そんなに怒んなくてもよ。
しかしまぁ、要はレベルアップしたってことだろう?
魔法なんて、特別な人間しか使えないものだったから素直に嬉しいぜ。
「一回しか言いませんから、よぉく聞いてくださいね」
「……一気にたくさんは覚えきれねぇからな」
「知りませんよ。先ずは死霊などの霊魂に効果を及ぼすもので、ソウルペインとソウルバインド。魂に痛みを与えたり、その場に縛り付けて自由に動けなくするものです。滅ぼす力は無いので、トドメはサークルでサクっとやっちゃってください」
「そのくらいなら、なんとか」
「それから、生物に効果を及ぼすもので――」
痛みを感じさせる系のシグナルペイン。ペイン・オブ・アンピュテーション。
これらは神経の痛みや、体を切断した痛みを直接与えるものらしい。
それから、命を吸い上げるドレインと、より凶悪なドレインバースト。
加減をすれば極度の疲労程度で済むが、加減しなければ即死レベルで生命機能が停止するほど、命を吸い上げるらしい。
……ペインもドレインも、どっちもえげつない魔法過ぎないか?
あと、オマケみたいに言われたのがホーリーシールドとホーリーヒールに、それの上位のホーリーリザレクション。
防御用の魔法盾と、治癒の魔法だってよ。
俺はこういう、人のために使える魔法のが好みだな。
「しっかし、何にでもホーリーって付ければいいとか思ってそうなネーミングだな」
「はぁ? これだから人間は……。いいですか? この一言、『神聖』が付くか付かないかで、威力が桁違いなんですよ? 一万桁くらい違うんですからね!」
「盛ったなぁおい……」
「盛ってません!」
おぉコワイ。
あれだな、俺の姿が人の形に戻ったせいで、口説いたのどうのって話を鮮明に思い出したんだろう。
いや……俺もあの場所のことを思い出してきたぞ。
延々と歩いた雲の道の果て。神殿のような場所。
そこに居た、絶世の美女――。いや、あれは美少女というべきか。
そう、女神セラのことだ。
単純に容姿が綺麗だとか、可愛いだとかって話じゃねぇ。内面からかもし出される美しさだった。
あんな人は見た事がない。
女神なんだから当然なのか?
そういえば、側近天使のタマゴも、人格が映し出された美人だった。
でも、女神セラを一目見たら霞んじまった。
すまねぇタマゴ。
何と言われようと、この気持ちは覆せない。
女神セラには……魂が震えたんだ。
試練があるというなら、全部乗り越えて俺を認めてもらう。
女神セラに並ぶ男に、なってやる。
一瞬でそう奮起させるほどの人だった。
だから、魔王になれってんならなってみせるし、世界を平和にしろってんなら、そうしてやるぜ。
あぁ……この気持ち、そうだった。
俺がこの姿になったのも、必ず意味があるはずだ。
「……またくだらないことでも考えてるんでしょう」
「いや、大事なことを思い出した所だ」
「へー」
この銀タマゴ、八つ当たりし尽くしたのか、少しは落ち着いた物言いに戻ってやがる。
「お前、美人でスタイルも良かったのに、なんでタマゴなんかに……」
「はぁぁ? 説明……しましたよねぇ」
「い、いや。だからよ、なんで女神セラを口説いたら、お前がタマゴにされんだよって」
「知りませんよ! 私が聞きたいです!」
「はっ! ……まさか」
「あ、言わないでください。なんかムカつくこと言われそうな気がします」
言うなと言われても、言ったほうが真実になりそうじゃねぇか。
「女神セラも、まんざらじゃなかったんじゃねぇか? だからお前のことも口説いてたって聞いて、怒ったんだ。やっぱ俺にもちょっとくらいは、希望があるんだろうよ!」
「マジで、本気で消し飛ばしてもいいです?」
「や、やめろよ……声がガチでこえぇよ」
「ほんと腹立たしい性格してますよね。それより、私の名前も思い出してくれてるんでしょうね? 女神セラ様だけ思い出して、私のことは……? まさか、ねぇ?」
あーっと、なんだったか。
あまりにもタマゴが馴染み過ぎて、すぐに出てこねぇ。
「そーですかそうですか。ラースウェイト。私はこんな姿でも、あなたの片腕くらい消し飛ばせますので、ちょっと試してみますねぇ」
「わー! まてまて! 早まるな! 冗談きついぜリグレザ。まぁあれだ、少しの間だけ忘れていたが、それは女神の名前も同じだったんだ。だから許――」
「……なんだ。覚えてくれてるんじゃないですか。ずぅーっと、タマゴタマゴって呼ぶから、ちょっと病んでしまおうかなーとか、思っちゃったじゃないですか」
「――いや、病んでしまおうって何だよ。もうそれちょっと病んでるよ。つか、大天使様がそんなことでいいのかよ」
「あなたのせいで地上に堕とされましたし、正直、恨みしかないですからねぇ。病みたくもなりますよ」
銀のタマゴが黒く見えるぜ。
「そ、そうか。悪かったな……」
「それよりも、その股間の汚らしいものを隠してくれません? イメージで何とでもなるので」
「……そういうのを早く言えってのよ! お前ワザとだろ……」
初めて足までを見ると、確かに、全裸だった。
いつも来ていた作業用の綿服しかイメージ出来ないが……せめて格好くらい、イケてるのを着たかったぜ。
動きやすいゆったりパンツにシャツという、ど定番だよ。革靴もボロだったまんましか思い出せねぇ。
「さ、それじゃあ次、悪い人を退治しに行きましょうか」
「お、おぉ。なんかゲームみたいだな」
「何言ってんですか。あなたを殺した張本人たちを倒しに行くんですよ。取り乱したりしないでくださいね?」
このタマゴ、言い方はマシになったが、言うことが唐突なのと、ちょっと内容がえげつないんだよ。
俺を殺したってことは、あの盗賊どもじゃねーか。
……俺はともかく、あの時助けてやれなかった女の子の、仇なんだよ。
取り乱すってか――今この瞬間でさえ、怒りで沸騰しそうだ。
「覚えたての魔法、全部ぶっぱなしてやるよ。あいつらは人の姿をしただけの、クズどもだからな」
「あら、頼もしいですね。ここからそう遠くないですよ。あっちに突っ切った先の、森林の最奥に隠れ住んでいます」
「てことは、この森は俺が住んでた村にも繋がってるのか」
俺は、あの村から出たことがなかった。
平和な村だった。
まさか、その平和のすぐ側に、極悪人が潜んでいたなんてな。
――手加減なんて考えなくていいのが、嬉しくさえ思う。