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「――そんなこと出来ません」
よくよく考えてみれば、魔王さまがどういうお考えでいるのか、私は知らない。
魔族が人間に対して、憎しみを抱いているのかどうかも。
でも、私にはそんな、争うようなつもりが一切ないからそう話していただけだった。
「ほれ見ろっ! 魔族は我々人間と、話合うようなつもりがないのだ。つまり、いつでも攻め込む用意があるということだ! そういうことだろう、聖女よ!」
――ああ。また逆戻りに。
「私の一存で、魔王さまのお時間を頂戴するようなことは出来ない。そう言ったのです。そもそも、何の権限もない私に、あれこれ言われても分からないんです」
私はずっと、私に問われているのだという想いで話をしていたけれど……。
この会長は、私を魔族の代表のように話していたのか。
「今更だろう。これほどの力を持つ者を王都に潜り込ませておいて、何もするつもりが無いなどと。私がどれだけ馬鹿であろうと、気付かぬわけがないだろう」
完全に話がこじれてしまった。
いや、そもそもが、この人の思い込みから始まっただけなのに。
「そんなに争いたいのですか? 放っておいてくれれば、こんなにややこしい話にならなかったのに」
私はただ、魔王さまの力になりたくて……。
王都の人たちにも、治癒で喜んでくれるなら治してあげたいと思っただけで……。
それをこんな、戦争のきっかけみたいに言われるなんて。
「この王都に、ぬけぬけと入り込んでくるのだから当然、その裏を読むものだろう? それが為政者としての役目だ。人々を守るために考え尽くし、最悪の結果を回避しようと奔走する」
――どこかで聞いたような言葉。
「そ、そんな風に人を疑っているから、そういう風にしか考えられないんです! 魔族が何をするっていうんですか! 今までだって、むやみに人を傷付けたりしましたか?」
レモンドは、歴史学者に教わったと言っていた。
魔族は王都に攻め込んだ時も、むやみに殺さなかったと。
それが全てだと、どうして理解できないんだろう。
「恨みは、消えぬものだよ、聖女殿。憎しみは、ずっとずっと続く。死ぬまで消える事は無い」
「それはそっちの言い分でしょう!」
いい加減腹が立って、つい声を荒げてしまった。
もうここに居る意味はなさそうに思う。
彼は、ただただこちらを疑って、勝手な妄想でこちらを責めるだけで……全く話にならない。
「――違う! こちらの言い分ではない! 聖女殿が慕うその魔王が、家族と村の仲間を殺された戦争被害者だからこそ言っている!」
彼も彼とて、椅子から立ち上がって叫ぶように言った。
「……は?」
そういえば、さっきも聞きたいと思っていたんだった。
話がややこしくて、疑われて嫌な気持ちになって、腹が立って。
そのせいで、聞きたいことも忘れてしまうような状態になっていた。
「本当に何も知らんのか……?」
私の反応を見て、会長の声のトーンが下がった。