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この世界には、天から落ちてきた者がいる。それを人は「堕天使」と呼んだ。
羽を失い、人の形に縛られ、それでもなお——
神に戻れないまま、感情だけが異常に濃く残った存在。
その中に、二人いた。
ひとりは tg。
かつては天界で「愛の観測者」と呼ばれていた存在だったという噂がある。
けれど今はただの人間として、村のはずれで生きている。
やたら人に懐く。
誰かがいないと不安で、すぐに誰かの袖をつかむ。
「ねえ、どこ行くの?」「一緒にいて」「置いていかないで」
その言葉は、祈りみたいに繰り返される。
羽はもうないはずなのに、時々背中が疼く。
失ったはずの“誰かを求める感覚”だけが、異常に強く残っていた。
もうひとりは pr。
元は天界の「秩序の監視者」。
感情を持つことを許されない役割だった。
だから彼は、常に冷静で、常に距離を取るように設計されていた。
——はずだった。
けれど地上に堕ちてから、妙な“バグ”が出る。
「別にお前のためじゃない」「効率が悪いから助けただけだ」
そう言いながら、必ずtgを助けてしまう。
自分でも理解できない行動。
そのたびに胸の奥がざわつく。
これは“秩序”では説明できない。
二人が出会ったのは、堕天の直後だった。
崩れた教会の前。
羽を失ったばかりのtgは、泣いていた。
「ねえ、どこにも行けない」
その声を聞いた瞬間、prは足を止めた。
理由はわからない。
ただ——見過ごせなかった。
「……うるさい。泣くな」
そう言いながら、手を差し伸べたのが始まりだった。
それから、二人は一緒にいた。
tgはいつもくっついてくる。
「prちゃん、今日も一緒?」
「当たり前みたいに言うな」
「だっていないと困るもん」
prは突き放す。
けれど、離れない。
離れようとすると、なぜか自分の方が落ち着かなくなる。
ある夜。
月の光の下で、tgがぽつりと言った。
「ねえprちゃん」
「なんだ」
「ぼくたちさ、堕天使なんだって」
prは一瞬黙る。
「だから?」
tgは笑った。
「だから、ずっと一緒にいなきゃいけない気がする」
その言葉に、prの胸が変にざわつく。
「意味がわからない」
「でもね」
tgは一歩近づく。
「prちゃんがいないと、羽が痛いんだ」
その瞬間、prの中で“何か”が反応した。
ありえないはずの感覚。
守らなければいけない、という衝動。
それは命令でも規則でもない。
ただの——執着に近いものだった。
数日後。
天界からの追放者狩りが始まった。
「堕天使は回収対象」として、無感情の天使たちが地上に降りてくる。
彼らは迷わない。
感情を持たないから。
ただ、正しい処理をするだけ。
その夜。
村が燃えた。
「見つけた。堕天体、二体」
無機質な声。
その中心で、tgは震えていた。
「ねえprちゃん……どうしよう」
「動くな」
prの声は低い。
いつもより、冷たい。
けれどその手は、tgの腕を離さなかった。
「処理対象を確認」
天使たちが近づく。
その瞬間だった。
prの中で、何かが切れた。
「——うるさい」
初めて、感情のある声。
「それ以上近づくな」
空気が歪む。
秩序が崩れる音がする。
tgはその横顔を見ていた。
ああ、と小さく思う。
この人は、もう“天界のルール”には戻れない。
自分と同じだ。
戦いは短かった。
正しさだけの存在は、壊れやすい。
感情というバグを持った堕天使には勝てない。
すべてが終わったあと。
焼け跡の中で、prは息を吐いた。
「……お前のせいだ」
tgは笑う。
「うん」
「否定しろ」
「でも、嬉しいよ」
prは少しだけ黙る。
そして、ぼそっと言った。
「離れるな」
tgは目を見開く。
それは命令みたいで、でも祈りみたいだった。
「うん。ずっといる」
tgがそう答えた瞬間。
見えないはずの羽が、二人の背中でかすかに痛んだ。
それは堕天ではなく、
“誰かを選んだ罰”だったのかもしれない。
そして二人は知る。
堕天使は空に戻れない。
けれど——
地上で、誰かに執着することはできる。
それが救いか、呪いかは、まだ誰も知らない。
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「「「堕天使」」」