もう何度目になるんだろうか。
揺さぶられ続けた脳は、思考を停止してしまった。
自分の上に覆い被さり、雁字搦めにする彼の、体温、吐息、汗の匂い、そして‥
部屋中に充満するこの匂い‥
最初は、彼の香水だと思った。
ほのかに香る程度。それが、徐々に部屋を埋め尽くすほどの匂いへと変化している事に気が付く。
息を吸う度に、クラッと意識を持っていかれそうになるのをなんとか踏み留めた。
薔薇のような豊潤なその香りは、吸い込む度に鼻腔をくすぐり、息苦しさも感じさせるのに‥
何故か、酷く安心するような気がする。
脳内まで痺れさせるような強烈な匂いなのに、もっと嗅いでいたいと深呼吸しようと吸い込んでしまいたくなる。
だが、本能が察知する。
これ以上、嗅いではならないと。
抗うように、顔をシーツに押しつけた。ピンと張られた真っ白いシーツを口で噛む。
こうすれば、匂いにも耐えられるし、自分の醜い声を聞かれなくてすむ。
「藍?‥ああ、シーツ噛んでるの?可愛い声もっと、聞きたかったのにな。俺で感じる藍の声」
不満を滲ませた声色。ほんの少し滲んだ程度の彼の声に、それだけなのに、何故か言いようのない不安が押し寄せる。心を覆い尽くす。
何やろ、この感情は。今まで感じた事なんて、無かったのに。
しかし、その疑問もすぐに掻き消された。
「んっ!?‥」
うつ伏せでシーツを噛む俺の項に、ぬりゅっと、生暖かいモノを感じた。熱い舌が、執拗にソコだけを何度も往復し、時々甘く歯を立て、吸い付き、感触を楽しむかのような行為。
「はぁ‥いい匂い‥」
「い゛っっ、やぁ‥」
噛まれるとは思わなかった。項に鋭い痛みが走る。必死で首を振る。噛んでいたシーツを口から離し、彼に叫んだ。
「嫌や、やめて!噛まないで。そんな事したって、意味な‥」
「今はね、」
「っっ!?」
被された言葉に悪寒が走る。肌が粟立つ。
何を言ってるんやろか。だって、俺を噛んだって意味ないのは明確なのに。
ズキズキする項。噛み跡の辺りをまた何度も舐められた。まるで自分の所有物であるのを確認するかのように。
痛い。痛い。感じるのは確かに痛みだけなのに。僅かに、ほんの僅かに感じる、腹の奥を抉るような刺激に‥俺は何とか抗った。そんな場所が疼くはずはないんだと。
「今は、噛んでも意味はないけど。でも、段々とお前の身体は変化してるよ。俺の体液をたくさん注げば。本当は分かってるんだろ?俺の匂いに‥」
「そんなん‥知らん‥」
「嘘だね。俺に嘘つけると思ってんの?俺が近づく度に顔が安心してたよ。匂うんだろ?俺の匂いを感じてる。この間、抱いた時はそんな仕草してなかったもんな。後少し‥後少しで‥お前は‥」
「オメガになるんだ」
聞きたくなかった言葉に瞳をギュッと瞑った。
そんなはずないだろと強く言い返せば良かった。
だが、それも叶わない。深く内部に挿し込まれていた、熱い肉欲が抽挿を激しくしたからだ。臀部に叩きつけられる彼の腰の音と、結合部分の水音、そして‥俺の啜り泣くような喘ぎ声が、部屋中に響き渡った。
激しい動きにベッドのスプリングも揺れる。はっ、はっ、と彼の息づかいも荒くなる。
何とか、逃げようとシーツを掴み腰を引こうと試みるが、彼の力強い腕によってそれすらも抑え込まれる。
力が入らない。以前よりも遥かに弱々しくなった自分の身体に絶望した。
俺は前と変わってしまったんだろうか。もう、前の自分ではないのか。
シーツを握りしめる手を、上から熱い手に、覆い被され握り締められる。
「俺のオメガ。俺だけの‥」
髪の毛に顔を埋め、ひたすらその言葉を呟く彼の言葉を拒絶したくて、頭を振った。
そんなはずはない。
俺がオメガになんてなるはずないんだ。
だって、
俺は、
俺は、
アルファなんだから‥。
必死で自制を保とうと唇を強く噛み締めた。
俺の後ろで苛む‥
彼‥祐希さんの言葉を受け入れないようにと。
どうして、こうなってしまったのか。
あの日までは平穏だったのに‥
いつも、こんな拙い文章の私の作品をお読みくださり、有難う御座います。
何の知識もなく始めた訳ですが‥今回のストーリーを持ちまして、この14×12を扱うストーリーは最後にしたいと思います。
大好きなCPでした。
更新は不規則になりますし、完結までいくのか‥不安ばかりですが、自分の妄想を思う存分最後に入れ込みたいと思っています。
なので、苦手な方、地雷がある方には、申し訳ありませんが、その時はそっと閉じてくださるよう、よろしくお願い致します。
コメント
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今年の7月に14×12にハマったばかりの私ですが、ゆうらんさんの作品に出会えて本当に幸せでした。 何度も何度も作品を読み返し、ゆうらんさんの書く14×12の世界に浸っています。 今回のお話もとても好みの設定でどんな展開になるのかワクワクドキドキしていますが、このシリーズが最後と思うと何だか寂しいです…😭 これからもゆうらんさんのペースで投稿していってください。 最後まで応援させて頂きます!

本当に本当に大好きなのでとても寂しいです😭どのお話も本当に大好きで何回も読み返しています。今回のお話も好きな予感しかしなくて本当に楽しみです…! nmmnは気をつけることも多いと言う気持ちも分かりながらもうゆうらんさんのお話が読めないのもとても悲しくて😢

ゆうらん♡さんの作品と出会えて幸せでした。このCPが私も本当に大好きです。そして、ゆうらん♡さんの1412がさらに大好きです。 正直に言いますと…ショックで…何てコメントしたらいいか悩みました😢 願わくば、続けてほしい…。 …気持ちを言葉にするのはとても難しいですね。無理はしてほしくないという気持ちがありつつ、ずっと見ていたいと言う相反する気持ちでいっぱいです。 今、虚無感と戦っています。