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うわぁ……第12話、すごく甘くて切なかったです🥀💕 知佳の“初めて”が潤で良かったって気持ちと、“契約結婚”だから本音を言えないもどかしさ、両方ひしひし伝わってきました。「好き」って呟くシーン、胸がぎゅってなりました…。 潤のクールだけど優しいギャップも最高でした!でも「好き」って言えない知佳の気持ち、分かるようで切ないです。続きが気になります🌙
ベッドサイドの時計を見ると、十二時を過ぎていた。一度、朝に起きたけれど……いろいろあったので二度寝してしまったのだ。
ぼんやりとしながらも、むくりと体を起こそうとすると、「無理しないで」と後ろから抱き寄せられ、私は潤の腕の中に収まった。
「まだ寝ていて。昨日……いや、今日の朝まで無理をさせてしまったから」
「ごめん」と頬にキスをされる。
私はその感触で、ハッと思い出した。
そうだ。
昨日、私は潤と結ばれたのだ。
初めてのことだったけれど、潤が丁寧に体を解してくれたおかげで、破瓜の痛みはほんの最初だけで、あとは全くなかった。
私自身が潤と結ばれたいと強く願っていたこともあるかもしれない。それでも、初めてのセックスは潤のおかげで……とても素晴らしいものになった。
人に触れることで得られる快感、羞恥心。それを包み込む潤の包容力。
魅力的な男性に求められるという、女性としての誇らしさ。
何よりも、好きな人に触れるという歓喜。
そんな気持ちが渾然一体となり、ベッドの上で乱れた記憶が私を襲ってくる。
……けれど、三回目くらいで私は逝き果てて、気を失ってしまった。
その後の記憶はあやふやだ。
それでも、潤が私の体を清めてくれたり、気遣ってくれていたのはなんとなく覚えている。
そこから深い眠りに落ちたはずなのに、いつもの習慣で朝になると目が覚めてしまった。
すると、潤が「一緒にお風呂に入ろう」と言って、ぼんやりとした頭のまま……お風呂場でも朝から──
朝と夜の記憶が交差して、私はたまらず「ううっ」と恥ずかしくなり、潤の胸に額を擦り付けた。
ふと見れば、私はいつの間にか白いガウンを身に着けていたが、その隙間から覗く胸元には赤い跡が残っていた。
夢ではない現実的な証拠に、また恥ずかしさが込み上げて、私は潤に縋りついてしまった。
「知佳、大丈夫?」
「大丈夫だけども……恥ずかしすぎて、大丈夫じゃないです。もう、潤の顔が見れない……」
だって、あんなことや、こんなことまでっ。
私の体は夜も朝も、隅々まで潤に暴かれて、エッチなことを散々したし、された。自分でも信じられないような、淫らな言葉も吐いた。
熱に浮かされて口にした言葉や感情を、潤はどう思ったのだろう。
思案しようとすると、ふいに生々しい潤の指先の感触が蘇る。
羞恥心から、また気絶しそうだと布団に潜り込んでしまいそうになると、さらりと頭を撫でられた。
「俺は、もっと知佳を見たい。知佳ともっと恥ずかしいことがしたい。全然──足りてない」
「っ……」
「知佳はすごく可愛くて綺麗だった。俺だけがこんなに可愛い知佳を見られて、幸せだったよ」
「潤──」
潤の言葉に、ふと意識が落ちる寸前に言われた言葉が蘇った。
それは『愛してる』『ずっと好きだった』『絶対に離婚しない』という、いつものクールな潤のイメージからは程遠い、情熱的な言葉。
それなのに、冷静にしっかりと避妊具を装着する潤に、愛しさが募った。
私も始終『ずっと好きだった』と潤に揺さぶられながら気持ちを吐き出したけれど……所詮はベッドの上での睦み合い。
違う。そうじゃなくて、私の意識も朦朧としていたから……と、色んな感情と記憶がうまく整理できないでいると、ポンポンと優しく頭を撫でられた。
「今日はゆっくりしたらいい。俺が食事とか全部用意するから」
「……はい」
「何か食べたいものがあったら言って。あぁ、それと……」
「それと?」
「知佳が俺をお気に召してくれたら、いつでも俺の部屋に来てくれ。俺は毎日でも待ってるから」
潤がいつものように余裕たっぷりに微笑むと、私の頬がまた熱を帯びた。
「毎日だなんて、私の体が持ちませんっ!」
ばっと顔を上げた勢いでガウンがはだけ、胸元が露わになった。
潤が一瞬、目を丸くしてクスクスと笑い出した。私は慌てて自分の体を抱きしめる。
「知佳は本当にかわいい女の子だね。また抱きたくなる」
「ま、またっ……」
自分を抱きしめる手に力がこもる。
「けれども今は我慢しよう。喉が渇いてるだろう。飲み物を持ってくるから、ゆっくりしてて」
「う、うん」
女の子。
二十八歳の成人女性にはかけ離れた言葉だと思うけれど、潤に言われると嬉しい。
また額に優しいキスを落とされる。潤はガウンをさっと羽織り、眼鏡をかけて部屋を後にした。
私は部屋に一人になり、ばふっと枕に顔を埋める。
潤に触れられ、「かわいい」と言われた余韻が、お腹の奥にキュンと甘く残っている。もぞりと身をよじった。
「んっ……潤が女の子とか言うから……」
手を下腹部にそっと伸ばす。体の内も外も潤に愛された感触を思い出せば、口元は自然に緩む。
情交の記憶を思いすと、自然に心臓が早鐘を打ち、ベッドに残る潤の残り香が切なさを刺激する。
昨日から朝にかけて、私は潤の前でありとあらゆる感情を曝け出したに違いない。
恥ずかしさと同時に、やっと大人になれたという充実感もあった。
けれど、潤と私は『偽りの夫婦』なのだ。
もし本当の夫婦だったなら、これ以上の幸せがあるのだろうか。それとも、もっと凄い夜が……
「凄い夜が、って……私のエッチ……!」
思わず顔に枕を押し付ける。
多幸感で浮かれていると自覚しつつも、今日くらいは冷静さを捨てて、甘えたい、甘やかされていたい。貪欲な気持ちが溢れ出す。
「あぁ……でも、初めてが潤で良かった」
この十年、仕事を選んだことに後悔はなかったけれど、寂しさを全く感じなかったわけではない。
街行くカップルを羨ましいと思うことは何度もあった。
けれど潤と結ばれて、そんな十年分の寂寥感を埋めて余りある陶酔感に、熱いため息がこぼれる。
こんな気持ちになれるのは、潤以外考えられなかった。
「今すぐにでも、好きって言いたいな……」
潤が寝ていた場所に手を伸ばすと、まだ微かに温かくて、シーツをぎゅっと握った。
けれど、その温もりもすぐに手のひらから消えてしまう。
「いきなり好きなんて言っても、潤からすれば、計算高い女に見えてしまうかも……」
現状、私は「お金」で契約結婚をした身だ。
高価な指輪を買ってもらい、彼の家がとんでもなく裕福だと知った直後に関係を結び、翌日に「好きです」なんて……
「お金と潤の体に目が眩んだみたいに思われたくない。潤には、そんなふうに思ってほしくない……な」
ベッドの上での「好き」や「愛してる」は、大人の嗜みとして流されてしまうかもしれない。
潤にとってはこのセックスは契約結婚を円滑に進めるための──儀式かもしれない。
本当の気持ちの前に、「契約」という言葉が立ちはだかる。
感情が浮き足立っているのに、理性が現実を見つめ、冷静になろうとするもう一人の自分に唇を噛む。
これが──契約結婚を結んだ代償なのだと悟った。
それでも、私は潤を諦めたくない。
十年前に蓋をした感情が、彼に抱かれたことで大輪の花を咲かせてしまった。
もう二度と、朽ち果てさせるようなことはしたくない。
「潤……好き」
唇から、花弁の一片のような儚い言葉が漏れた。
潤が戻ってくるまで、シーツを強く握り締め続けたのだった。