テラーノベル
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涼ちゃんのことさえなければ仕事はとにかく順調だった。
厳しく意見を交わすことさえ、失った時間を取り戻させてくれるようなありがたい時間だった。
「涼ちゃんって本当に恋人には優しいよね」
「えぇ、皆にも優しいつもりなんだけどぉ〜」
「いや、たまにブラックなのでてるから」
若井と綾華にからかわれながらも幸せそうな涼ちゃんを見ているとなんでその相手は俺じゃないのか辛くなる。
俺と2人きりの涼ちゃんはもっと普段よりもっとのんびりしてて甘えん坊で、大好きってよく言ってくれた。
俺が疲れてる時はいい子だねって理由も聞かず慰めてくれたし、いつも笑って抱きしめてくれた。
「···涼ちゃん、ちょっといい?」
「なぁに、元貴」
俺を呼ぶ声も少し首をかしげるのも俺がよく知ってる、いつもの涼ちゃんなのに。
「今日は、忙しい?もし大丈夫なら少しうちに来てくれない?」
「珍しいね、元貴がそんな風に誘ってくれるの。いいよー、行くね」
珍しい、んだ。
この世界線ではそう感じるくらいの関係なんだ。
合鍵まで持ってて、たまに先に帰って待っててくれてたなんて今の涼ちゃんが聞いたら驚くだろうな。
夜、お邪魔しますって涼ちゃんがお土産のプリンを持ってきてくれた。
「ねぇ、何か嫌なことあった?···辛いこととか」
「なんで···?」
「なんとなく、だけど眠れてないのかなって···それに昔から元貴が僕を呼び出すのはそういう時が多かったから」
あぁ、これは俺の涼ちゃんだよ。
そうやって俺のことわかってくれて話を聞いてくれて安心させてくれる涼ちゃん。
「···うん、最近ね···確かにあんまり眠れてない」
「そっか···何があったの?」
「色々あったんだけど、不安で」
抽象的すぎる答えだけど、俺がどんなに話しても信じて貰えそうにないから仕方ない。
「···元貴はね、よく考えすぎちゃうから···きっと不安もね、いつかは過ぎ去っていくからね」
気付けば久しぶりに涼ちゃんの腕の中、抱きしめられていた。
嫌ってほど知ってるぬくもりと香りに気がついたら涙が溢れていた。
「よしよし···いい子だからね、大丈夫だから」
どのくらいそうしていたんだろう、俺の涙が止まるまで涼ちゃんは抱きしめたまま待ってくれていた。
もしかしたら、なんて淡い期待が俺には芽生えていた···それはこのあとはっきりと絶望に変わる。
「涼ちゃん···今日、泊まって行って。俺のこと抱きしめててよ」
いつもなら喜んで、と笑って2人でベッドに潜り込み愛し合っていた。
離れることなくずっと大好きだよと言いながら俺に抱かれる涼ちゃんが本当に愛おしかった。
「ごめん···それは、出来ない···」
「っ、なんで···?!」
「元貴が眠るまで側にいるよ、けど···俺、悲しませたくない人がいるから···」
悲しませたくない人···それは恋人のことだと俺にはハッキリと伝わった。
「···そうだよね、ごめん。じゃあさ、プリンだけ一緒に食べてくれない?そしたらなんだか俺···大丈夫そう···だから」
そう言ってコーヒーを入れに席を立つ俺の後ろから安心したような涼ちゃんの声が聞こえる。
「うん!もちろんだよ···このプリンきっと元貴好きだと思うんだ、甘すぎなくて固めのプリンでおいしいの」
「うん···嬉しい、なんか元気出た」
そのあとは元気なフリをして俺の知らない間を少しでも埋めようと5人での活動や最近のことを色々と涼ちゃんに怪しまれない程度に聞いた。もし、このままこの世界でいるなら、情報は少しでも多いほうがいいから。
話をたくさんしてくれて涼ちゃんはまた明日、と帰って行った。
独りベッドに寝転んで瞼を閉じる。
きっと俺の涼ちゃんも、例えば若井に一緒に眠ってくれと頼まれても同じように断るだろうと想像がついた。
だって俺が悲しむようなことはしないのが涼ちゃんだから。
そんな風に今の涼ちゃんも恋人を大切に思って愛し幸せでいるんだろう。
それなのに。
あぁ、なんて。
なんて俺は。
最低で、酷い奴だろうか。
自分はこの5人でいる状況に少なからず幸せを感じているのに。
心の底から。
涼ちゃんを取り返したくて仕方がない。
壊れろ。
壊れろ!
壊れてしまえ、そんな幸せ。
俺の涼架を返して。
顔も知らないそいつが憎くて堪らない。
選びきれない自分が卑怯で堪らない。
コメント
7件
今までしてくれてた事がもう出来ないって辛いですね🥲💦 ♥️くん、なんとか💛ちゃんを取り戻して〜❣️と応援してます🫶
ああ、苦しい…😣 5人の幸せも確かに嬉しいのに、涼ちゃんがいない悲しさがここにはあって、元貴くんの苦しみが…く、苦しいです…😢 涼ちゃん、元貴くんのところに帰ってきてぇ…🥺💛
最高です!