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魔王は初代皇帝に、指輪に人の負の感情を食わせるよう約束させ、絶大な力を与えた。
だから代々の皇帝は、人間の怒りや悲しみ、憎しみや妬み嫉みなどを指輪に食わせなければいけない。
『指輪の力を使わなければ、負のエネルギーを必要としなくなるのでは?』と考える者はいたが、黙っていても指輪は負の感情を欲する。
昔の皇帝は犯罪者を捕らえて惨い処刑をし、その感情を指輪に吸わせていたそうだ。
だが今はそんな残酷な事はできない。
しかし放置すれば指輪は持ち主の心を蝕んでしまう。
指輪や魔石の破壊を試みた事もあるが、それも無駄に終わった。
父はどんどん高圧的で懐疑的な人になり、俺が十六歳の時に母クラウディアが病死した事も、それに拍車をかけた。
昔からの忠臣は、次第に横暴になっていく父を見て『おいたわしい』と嘆いていた。
そして父を呪縛から解放するため、俺が次の皇帝となる事が決定されたのだが――。
『私を皇帝の座から引きずり下ろそうと言うのか!』
反発した父の抵抗は凄まじく、あわや内乱となりかけたほどだ。
忠臣たちが時間をかけて父を説得し、半分宥めるような形で退位を認めさせたのが、俺が二十六歳になった年だ。
指輪を外した父は少しずつ落ち着いていったが、いまだ気難しい一面を見せる。
指輪を外したからといって、精神の深いところまで巣くった魔素が抜ける訳ではないのだ。
そのゴタゴタに囚われている間、俺はろくにフェリに会えずにいた。
彼女を思うと『つらい目に遭っていないだろうか』と心配になる。
変わらず手紙は受け取っているが、彼女はつらい目に遭っても我慢してしまう悪癖がある。
フェリが五歳の時に出会い、最初は可哀想な子を助けられたらと思って文通を始めた。
だがフェリと交流するようになり、何があってもくじけず前を向き、善くあろうとする彼女の姿勢に、俺のほうが感銘を受けるようになった。
父から疎ましがられ、公務に忙殺されて心が折れそうになった時も、『小さなフェリが頑張っているのだから』と自分に言い聞かせて立ち向かった。
たまにフェリに会うと、彼女がどんどん利発で魅力的に成長しているのを感じ、嬉しく思ったものだ。
(この子は将来、どんな女性になるんだろう)
俺は聖女として完璧さを求められているレティシアより、悪路を進みつつ自分の可能性を模索しているフェリを魅力的に感じるようになっていた。
フェリに『立派な大人になってほしい』と願っている訳ではない。
ただ、道化にからかわれて傷付いていたあの子が、民の期待に応えられる王女に成長しているのを見て、とても嬉しくなった。
まっすぐで誠実、頑張り屋な性格の彼女は、たまに愚痴を零す事はあれど、常に善くあろうと心がけていた。
それを褒めると『アルフォンス様のお陰です』と言うが、俺はただ第三者として励ましたに過ぎない。
実際に行動し、くじけそうになっても歯を食いしばり、前に進んだのはフェリの力だ。
だから俺は年齢関係なくフェリを尊敬しているし、いつしか自分の隣に彼女がいてくれたら……と望むようになっていた。
**
現在、十八歳になった私――フェリシテは、自室でジョゼとチェスをしながらお喋りをしていた。
貴族の令嬢たちがデビュタントとして大人の仲間入りするのは十六歳だけれど、シャレット聖王国での成人は十八歳だ。
社交界デビューしたあとの二年間は準大人という扱いになり、夜会に出席してもお酒は飲めず、早めに帰る事が義務づけられている。
その二年間を経てようやく大人になれた私に、アルフォンス様はお祝いをしてくれると言った。
勿論、シャレット聖王国では双子の王女が成人したお祝いが華々しく行われ、パーティーの賓客の中にはアルフォンス様もいた。
でも彼はそれとは別に、個人的にお祝いをしたいと言ってくれ、私は後日、単身で帝国に向かう事になった。
「帝国を訪れるのは久しぶりではありませんか? 楽しみですね」
「ええ! 何を着ていこうかしら。アルフォンス様にドレスの好みがあれば、それに合わせたいのだけれど」
「殿方の好みに合わせるなんて、つまらない事をしてはいけません。姫様の髪や目、肌の色を本当に引き立てる色を纏えばいいのです。ご自分を最大限に美しく見せる装いを熟知してこそ、真の姫君です」
ジョゼにそう言われ、私は深く納得した。
「あなたの言う通りだわ。相手に気に入られようとするより、一番自分が魅力的に見える色を選ぶべきだわ。さすがジョゼね」
「お褒めにあずかり光栄です」
彼女は胸に手を当ててうやうやしくお辞儀をしたあと、提案してきた。
「それでは、帝国に持って行くドレスを選びましょうか」
「ええ!」
私たちは和気藹々と話しながら、衣装室へ向かったのだった。