受験生が雄英高校の試験に向けて準備する頃。私は雄英高校に呼ばれた。あれだけ” 雄英高校目指して頑張る!! “ と言ったが、正直内定は確定しているようなものだ。個性上。もちろん確定しているからと言って何もしないでいられる訳では無いから、私は勉強してきたんだけど。
家族内では、高校生になったら私のひとり暮らしが決定している。実感の岐阜県には、両親の親…..つまり、私からしたら祖父と祖母がいるわけだ。介護や今後の経過も見る必要がある。
内向的な私の性格も加味して、良い機会だからと言っていた。少し寂しい気もするが、携帯で連絡が取れる。
この生活も、もう少しだけだな…..とぼうっとしていると、家の前に横付けした車が止まった。
「ゆう、あれじゃない?」
母さんがいつにも増してソワソワしだした。
「うん」
家のチャイムが鳴ると同時に、私は玄関を開けた。
「おはようございます」
中学校の制服に身を包み、手には中学校指定のハンドバッグ。….緊張で手汗が酷いのは内緒だ。
「おはようございます」
「お、おはようございます!」
「おはようございます」
誰が1番緊張しているかって母さんだ。父さんは営業スマイル。私は真剣な顔。
雄英高校の先生方。
お2人いらっしゃる。
1人は黒髪の、背の高い、少し疲れ気味な男の先生。もう1人は、宇宙服っぽい服装の背の高い先生。
「愛嶋さん。お顔を合わせるのは初めてになりますね。我々ヒーロー側への事情のご協力。感謝いたします」
「そ、そんな!私たちこそ、娘の安全を守って頂いて、本当に感謝しております!…最近、さらに雄英高校入学への熱が入って。これも、皆さんのおかげです」
いや。半分はオールマイトのおかげだけど。
「それでは、ゆうさんをお預かりします。もしも体調が崩れたり、何かある場合は、ご連絡の後適切な治癒を行います」
「は、はい!娘をよろしくお願いします、」
「お願いします」
それじゃあ行きましょうかぁ。とゆったり話すのは宇宙服の先生。親に軽く手を振り、私は車に乗った。
「緊張しないで、いいですからねぇ。僕は13号。雄英で先生をしていますぅ。運転しているのは僕の先輩の相澤先生。同じく雄英高校の先生ですぅ」
「今日はよろしくお願いします、」
緊張しないでいいと言っても、そうはいられない。私の悪いところだが、人見知りなのだ。大人の人なら多少マシだが、同級生となるともう。
それに、今回の先生方はいつも会議をするプロヒーローたちとは違い、雄英高校の先生方。もし粗相があっては受験やその後の生活に響くだろう。
「愛嶋さんは、好きなヒーローっていますかぁ?」
気を遣ってくださった!!!申し訳ない!
「オールマイトが好きです」
「オールマイトですかぁ。人気ですよねぇ」
「救けて頂いたことがありまして。それから」
「そうなんですねぇ」
ゆったりと話す13号先生。なんだか私の話を聞いてくれる気がして、家族には照れくさくて言えないことも話せる気がした。
「エンデヴァーさんも好きなんです。実際お会いしたことは無いんですが、頼もしい立ち姿が好きで。私、趣味で絵を描くんですけど、エンデヴァーさんのような骨格の広い人はなかなか難しくて。今練習中なんです」
「エンデヴァーは、賛否両論あるヒーローですが、自信に溢れた佇まいで、男らしさがありますよねぇ」
「はい!私、エンデヴァーさんを恋愛対象で見ているわけじゃないんですが、男らしい人がタイプなんです」
「わかりますぅ。頼もしいですよねぇ」
13号先生!!いい人だ!!
社交辞令に決まっているが、こんなにも話しやすいなんて!私雄英高校目指して良かった!!
車は私の見慣れない土地まで走って行く。
海が見えて来て、砂浜近くに1台車が止まっていた。
「見えましたよぉ。今日は愛嶋さんの個性調査の日ですからねぇ。将来の雄英学生が、どんな個性を使うか。我々も見ておきたいんですぅ」
「はい。よろしくお願いします」
幼少期から度々やってる個性調査。調査の時は、好きなだけ個性が使えて、開放感があった。……が、同時に、目眩とか、時には捲簾を起こすことがあった。その度に、誰かが傍にいてくれたり、何とかはなっている。……一応。
だから個性調査以外の日常から、水分を多く取り、ペットボトルも欠かさず持ち歩いている。今日もハンドバッグに入れてきた。
「じゃあ、行きましょうかぁ」
相澤先生にお礼を言い、車から降りた。見慣れたプロヒーローの顔もあれば、全然知らない人もいる。
「それでは愛嶋さん。このインカムをつけてくださいね」
「はい」
小さい頃は使わなくて良かったのだが、最近になってつけるよう言われた。この間のインカムとは、なんかちょっと違う気がする。
立っていて欲しいと言われたのは、波打ち際。何やらテープが貼ってある地面。プロヒーローや先生たちは少し遠くに離れている。
『愛嶋さん、お願いしまーす』
13号先生の声がインカムから聞こえる。
合図だ。
波に意識を集中させて、だんだんと高さを上げていく。横幅は砂浜のテープが目印だ。高く、高く….。
だんだん口が乾いてきた。
何となくだるい?そろそろ降ろしたい….。
波を元通りにしなきゃ。….ゆっくり、ゆっくり下ろして、っう…..クラクラする….お風呂に入ったあとの酔いみたいな…..。でも、ここで波を離してはいけない…..元通り、元通りに…..。
ぐらりと傾く視界。斜めに波が見える。落ち着いた波。これで、いい…..。
『っ愛嶋さん!』
13号先生の声がして、だんだん視界が暗くなる。もう慣れてしまいそうな感覚だが、これは、かなり、苦しいんだ…..。
目を開けると、どうやら室内のようだ。モヤがかかったように、でもだんだんはっきりしてくる。
「こんなこと、毎回やってんのかい?」
おばあさんの声がする。
「いくら把握のためとはいえ、ヒーローを志す前からなんて、可哀想じゃないか」
「そういうわけにもいきません。…..それより。前の結果より断然伸びています」
「これは…..」
「あぁ。目が覚めたかい」
どうやら医療の色々が揃った車の中だったようで、多分女医さんなんであろう人が声をかけてくださった。
「…..はい。お手間を取らせました」
ゆっくり頭を上げるが、まだ頭痛がある。
「すみません、私のカバンって……」
「あぁ。これかい」
「ありがとうございます、」
水分を補給して、相談中のヒーローたちの方を見る。バインダーやら紙やらに目を通してウンウン言っているのは、きっと私のことだろう。
何とか歩けるようになり、車から降りた。
「愛嶋さん。お疲れ様でした。体調はどうですか?」
「13号先生。….お手数お掛けしました。もう大丈夫です」
「そうですか。良かったぁ。この後、お家までお送りしますね。ゆっくり休んでください」
帰りも相澤先生が運転し、隣に13号先生が乗っている。ゆっくり休んでとは言われたが、ヒーローはきっとこんな程度で休んでいられないのだろう。
(13号視点)
愛嶋さんを送り届けたあと、早速職員会議が開かれた。愛嶋さんの個性把握のために必要な事だから。
会議室には、先輩方を始め、校長先生やオールマイトも同席している。
「では皆さん。添付された資料をご覧下さい。1枚目、2枚目は、愛嶋さんの個性が、どこまでの水を操れるかが記載されていいて、海水は少なくとも可能ということが書いてあります。
本題は、….3枚目の、図1ですね。今回行った愛嶋さんの個性把握調査の詳細が書かれています。今まで通り、横幅は10mで行いました。波の高さは、15mほどです。一般の学校のプールを想像してもらうとわかりやすいですね」
「つまり….一般の学校のプール半分ほどの波を動かせるってこと?」
ミッドナイト先輩。わかりやすい解説ありがとうございます。
「その通りです。でも、これは往復で考えなければなりません。波を元に戻すところまで、今回の愛嶋さんはやって退けました」
「ということは……」
「一般の学校のプールぐらいの波を攻撃に使えるってことだ。コイツはかなりの戦力だぜ」
水深はプールほど深くないが、マイク先輩の言う通りだ。防御にも攻撃にも使える波。しかも個性の融合型。今は我々が見ているからいいけど、これが….。
「愛嶋くんは、ヒーローを目指しだしたんだってね。これからの未来を考えると明るいものだが、最悪の想定もしていなきゃならない。
取り調べしたヴィランが、実は元々ヒーロー志望でした、なんて話はたまに聞くからね。我々も警戒を怠らないようにしなきゃいけないのさ!」
校長先生は、愛嶋さんのプロフィールに目を通した。
「入学試験。おそらく突破できるだろう。でも、彼女を特別扱いしすぎると、周りからの反感を買うのも目に見えている。
だから、新しい制度を儲けようと思うのさ!黒瀬くん」
「はい」
プロジェクターから映し出された文字。
” 特待生制度 “
「これは今年度初めて導入したのさ。つまり特例だね」
特待生は様々な環境で、申し訳ないが出場が辞退することになるという物。
例えば体育祭。
体育祭は多くの生徒の見せ場であり、PRの場。それを奪われると、苦労するのは他の生徒だ。それに、メディアにも晒されることになるのを防ぐ目的がある。
津波という大災害を起こせる個性なんて、ヴィランが手が出るほど欲しいはず。愛嶋さんや周りの安全を考慮している。
もちろん愛嶋さんが不利にならないよう、プロヒーローとの連携は密に行うし、愛嶋さんだけが有利にならないようにも配慮する。愛嶋さんには目を瞑って貰わないといけないこともあるが、これは愛嶋さんにとっても、雄英高校にとっても、我々ヒーローにとっても大切な措置なんだ。
平和の象徴・オールマイトの活動限界も近い今、ヴィランが力を持つ日は近い。それに備えて、我々も対策を麹ねば。
(愛嶋視点)
雄英高校入学試験。筆記は難無く突破した。というか、内定は決まっていたのだから受験しなくても、とは思っていたが、学力調査のような物だと言って渡された。
内定が確定していたとしても、筆記試験は緊張した。というより、周りの緊張が伝わって来た。多くの受験生。この中から何人が受かるんだろうか。倍率がすごいとは聞いていたが、なんだか申し訳無くなる。
帰り道。これから何度通ることになるであろう道を歩いていた。この高い道から見下ろす景色が日常になるのは本当に慣れない。…….いやでも慣れるんだろうけど。
「はわぁわわわ…..」
あの緑髪の子、そういえば会場にいたな。
会場でも背中丸めて緊張してる様子だった。そりゃ緊張するか…..。
あ、ハンカチ落とした。オールマイトだ。好きなのかな?
「君」
パタパタと坂を走って追いかける。
「ひぃゆあぁあああ?!?!」
びっくりさせてしまったようだ。
「驚かせてごめん。落としたよ」
「あっあぁぁありがとうございます、」
あれ?この子見た事ある気がする。ニュース?なんだっけ?
「………オールマイト好きなの?」
「えっあ、うん!そうなんだ!!このハンカチ、一見ただのオールマイトのプリントで市販に見えるけど、春しかない限定柄なんだよね!このポーズもこの会社のために取ったレア物で、無くしたら困る物だったんだ!どうもありがとう!!」
めっちゃ喋るやん。
「っはぁあっ?!ご、ごめん喋りすぎた、と、とにかくありがとう、」
「うん。….私もオールマイト好きだよ。….雄英、受験してたよね。受かるといいね」
「え、う、うん!お、お互い頑張ろうね!!」
「うん」
緑髪の子はパタパタと走って行ってしまった。また物落とさないといいけど….。あの子、受かるかな。明日の実技試験中は、昔から私の個性を見てくれるプロヒーローの付き添いで引越しをするんだよね。家族と離れるのは寂しいけど、これからの私の未来に花を持たせてくれるんだ。
私は、今まで努力とかしてこなかった。したくなくて。しなくていいことは避けて来たし、恵まれてたから楽できた。雄英の試験だってそう。だけど、これからはそうもいかない。さっきの子みたいに、緊張に押し潰されそうになることだって何度もあるだろう。それでも、努力してみたいんだ。苦しんでみたいんだ。だってそれって、最高にヒーローっぽいから。
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