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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第60話 〚放課後に残る甘い袋〛
ショッピングモールの自動ドアを抜けると、外の空気は少しひんやりしていた。
夕方の空は、オレンジ色に染まり始めている。
「なんかさ、まだ足りなくない?」
歩きながら、えまがそう言った。
手には、さっき買ったハロウィン用のお菓子の袋。
「確かに。学校で食べる用、別に欲しいかも」
みさとも頷く。
「じゃあさ、あそこ寄らない?」
しおりが指さした先には、昔ながらの小さな駄菓子屋があった。
澪は、その名前を見ただけで少し懐かしい気持ちになる。
放課後、たまに友達と寄った場所。
大人になった気分と、子どものままの楽しさが混ざる、不思議な空間。
「行こ」
海翔が自然に言って、みんなの足がそちらへ向いた。
⸻
店の中は、カラフルなお菓子でいっぱいだった。
壁一面に並ぶ駄菓子に、りあが目を輝かせる。
「え、これまだ売ってるんだ!」
「懐かしすぎるんだけど!」
女子たちは一気にテンションが上がり、次々とカゴに入れていく。
澪は、棚の前で少し立ち止まっていた。
どれも気になるのに、なぜか決めきれない。
「迷ってる?」
横から声がして、顔を上げると海翔がいた。
手には、すでにいくつかお菓子が入ったカゴ。
「うん……」
小さく頷くと、海翔は棚を見回してから一つ取った。
「これ、前に好きって言ってなかった?」
差し出されたのは、澪が昔よく食べていたラムネ菓子。
「……覚えてたの?」
驚いて聞くと、海翔は少し照れたように笑った。
「なんとなく」
澪は、そのままそれをカゴに入れた。
胸の奥が、ほんのり温かくなる。
一方、りあは大量にお菓子を選んでいて、
「これも! あ、これも欲しい!」
と楽しそうだった。
「りあ、買いすぎじゃない?」
玲央が笑う。
「いいの。今日は特別だから」
その笑顔は、もう無理をしていない、自然なものだった。
⸻
会計を終え、全員が袋を手に店を出る。
「学校で食べる用と、パーティー用と、完璧だね」
えまが満足そうに言う。
「うん。楽しみ」
澪も、小さく微笑んだ。
帰り道、並んで歩きながら、澪はふと思う。
予知は、今日は来なかった。
でも、それが不安じゃない。
今は、ちゃんと現実を見ている。
隣には海翔がいて、周りには仲間がいる。
それだけで、十分だった。
家に着く頃には、空はすっかり暗くなっていた。
手にしたお菓子の袋は、少し重い。
でもその重さは――
これからの楽しみが詰まった、優しい重さだった。
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