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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第61話 〚10月4日、仮装の中の笑顔〛
10月4日、土曜日。
少し早いけれど、今日は待ちに待ったハロウィンパーティーの日だった。
澪はインターホンを押す前に、一度深呼吸をする。
隣では、えまがそわそわしながら靴先を揺らしていた。
「緊張してる?」
しおりがくすっと笑う。
「ちょっとだけ……」
澪は正直に答えた。
海翔の家でのパーティー。
しかも、みんな仮装付き。
ドアが開く。
「いらっしゃい!」
明るい声と同時に現れたのは――
全身包帯ぐるぐるの“ミイラ”。
「……え?」
一瞬、全員が固まった。
「ちょ、待って、誰!?」
みさとが思わず後ずさる。
「俺の父さん」
海翔が苦笑いしながら言った。
「全力すぎない!?」
玲央が吹き出す。
海翔の父は親指を立てて、
「今日は本気だからな!」
と、なぜか誇らしげだった。
その瞬間、緊張は一気にほどけ、玄関は笑い声でいっぱいになった。
⸻
リビングに入ると、ハロウィン仕様の飾り付けがされていた。
オレンジと黒の風船、テーブルにはお菓子の山。
それぞれの仮装も揃う。
澪はナース、
えまはかぼちゃ、
しおりは少し不思議な宗教風衣装、
みさとは狼、
りあは魔女、
玲央はフランケンシュタイン。
「……なんか、すごいメンバーだね」
澪が小さく言うと、
「全員バラバラなのが逆にいい」
海翔が笑った。
澪はその言葉に、胸が少しあたたかくなる。
⸻
お菓子を広げて、ゲームをして、写真を撮って。
時間はあっという間に過ぎていった。
りあは、最初少し遠慮がちだったけれど、
「このお菓子、めっちゃ美味しい」
と自然に輪の中に入っていた。
その姿を見て、澪はそっと安心する。
(ちゃんと、ここに居られてる)
予知は、来なかった。
頭も、心臓も、静かなまま。
ただ笑って、ただ楽しい時間が流れる。
海翔の父は途中でミイラの包帯がほどけてきて、
「取れた! 取れた!」
と騒ぎ、また笑いが起きた。
⸻
夕方、窓の外が少し暗くなり始めた頃。
澪はふと、リビングの真ん中を見渡す。
笑う仲間たち。
楽しそうな海翔。
少し照れたように話すりあ。
(この時間、忘れたくない)
澪はそう思った。
ハロウィンはまだ先。
でも、この日の記憶は、きっと特別になる。
仮装の中に隠れていたのは――
確かに、あたたかい“居場所”だった。