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「えっ?旅行?行ってたんじゃなかったの?」
遂に全てを揃えた俺は、最後のピースである聖奈を誘うために王城へ訪れていた。
「い、行ってたよ?」
「なんで疑問系なの…」
「いや、いつも聖奈にはお世話になってばかりだし、よくよく考えると誘うのも聖奈ばかりで俺から提案したこともなかったしな…旅も一人だったし、地球でぐらい偶には二人での旅行もいいかなって…」
喋れば喋るほど、なんで俺はフラれないんだ?と、不思議に思えてきた。
良かった…最低限、これで誘ったという事実が出来たな……
「うん。初めてだね…ありがとう!本当に嬉しいよ」
「おっ。じゃあ…」
「でも、ごめんね。その日は忙しいんだ」
いやそれ脈なしの奴が言われるやーつ。
「…どうにか行けないか?転移で行くから半日でいいんだけど」
その日じゃないと貸切りちゃうんや……
「ごめんね。その日は日本の本社に取引先の役員の人が来て、夜は異世界で報告を聞かなきゃいけない日なの。パリだと時差があるから尚更無理だね。残念だけど」
…あれ?おかしいな。
いつもどうしていたっけ?
ああそうか。
いつもは聖奈が予定を決めるから、俺はそれに頷いていただけか。
聖奈が忙しいのは俺の為だし仕方ないな。
バタンッ
side聖奈
「えっ?旅行?行ってたんじゃなかったの?」
どういうことかな?
まさか地球でも何かトラブル?
異世界の旅だとトラブルばかりに遭遇して本当に楽しめているのかわからなかったから、異世界より断然安全な地球でトラブルなく楽しんでもらいたくて提案したのに。
初めてのデートのお誘いに心が揺れたけど、その日はすでに予定がつまっているから断るしかなかった。
旅行に誘ってもらえるなら初めから私の予定を伝えていれば良かったよ……
あっ!そうだ!その次の週は時間が取れる!
「セイく『バタンッ』ん…いっちゃった…」
side聖
「貸切り料金が前払いだったから無駄になってしまったな」
まぁ指輪は腐るものじゃないからいいけど。
「何が無駄になったんだ?」
「ん?ああ。ライルとマリンか」
俺が城の廊下を歩きながら独り言を呟いていたら、正面からこちらへとライルとマリンが歩いてきていた。
「報告か?」
「ああ。それで?無駄はなんだ?」
いや、お前に話しても……
「あなた。セーナに報告してきてくれる?私はセイさんに話があったのを忘れてたわ」
俺がライルに言い淀んでいると、何かを察したのか、マリンが話があると言ってきた。
確か俺には何も仕事がないから話なんてないはずだが……
あれ?俺って国王だよな?
何もないなんて……ないな。
「ありがとう。参考になったよ」
マリンに話を聞いてもらい、少し肩の荷がおりた。
「いえ。参考になればいいのですが」
ここは城の中のサロンの一つ。
マリンにはそこでプロポーズ大作戦の話を聞いてもらった。
そのマリンは話が終わるとライルの元へと向かった。
「うーん。話を聞いてもらっただけだけど、気持ちは大分楽になったな」
マリンの提案も聞いたが、流石に異世界と地球では文化も文明度も違うのであまり参考にはならなかった。
しかし第三者に話を聞いてもらえた俺は、それだけで気持ちが楽になっていた。
姉貴?あれは第三者ではなく、いつ何時も悪魔だ。
「ここで会うとなんだか気不味いから、地球に転移してホテルで寝ようかな」
何だか聖奈に会うのは気不味い。
二人のことをマリンに相談したからだろうか?
俺は月に願いマンションに行った後、さらに転移魔法を使いラスベガスまで行き、そこでホテルを取って酒を飲んだ。
会うと気不味いからとはいえ…やり過ぎたかな?
まだ日が高い異国の地だったが、俺の中では真夜中。
酒の力も借りて夢の世界へと旅立った。
「気不味いとはいえ、やり過ぎたな…」
ラスベガスに白夜なんてないよな?
やり過ぎてもいたが寝過ぎてもいた俺は、また日が昇っているラスベガスにあるホテルをチェックアウトして、日本へと戻ることにした。
「この酒瓶を片付けてもらうのは気が引けるな…」
酒瓶が散らばっているテーブルの上に、多めにチップを置いてホテルを後にした。
ラスベガスにある転移ポイント(ただの転移ポイントではなく、人知れず転移できる場所)に向かいながら独り言ちる。
「お金は支払ったけど、日本に戻ったらディ◯ニーパリに連絡していけなくなった旨を伝えなきゃな」
報連相は大切だ。
いや社会人の義務とも言える。
これまで相談はしてこなかったが、マリンと話して気が楽になった経験から、俺はより強く守っていこうと思った。
「はぁ…姉貴にまで聞いたのに…また振り出しか…」
待て待て。
指輪と言葉は用意できているんだ。
三歩進んで二歩下がったが、人生そんなものだと思い直して日本へと転移した。
マンションの寝室へと転移した俺は、ベッドに横になるが考えは纏まらない。
とりあえず水でも飲もうかと寝室を出ると……
「せ、聖奈?なんで?この時間なら会社じゃなかったのか?」
冬のこの時間帯では外はもう真っ暗だが、月の出はもう少し先なので、この時間に聖奈がマンションにいるとは思ってもいなかったから動揺を隠せなかった。
「聖くんを待っていたの」
うん…今は会いたくなかったかなぁ……
「そ、そうか。何か仕事でも出来たか?それとも帝国で動きでも?」
聖奈が俺に用があるのは、大体この二つだ。
もちろん俺の予想の範囲を逸脱した行動を取る時もあるが、異世界も会社も安定している今、その可能性は低いだろう。
「ううん。二人のことだよ」
二人のことって……くっ…ついに、フラれるのか…?
お、お金ならあるからっ!!
「二人って…ま、待ってくれ!俺に何か足りない所があったのなら頑張るからっ!」
足りない所が山ほどあり過ぎてわからないんだっ!!
お金はあるのだが、よく考えなくても聖奈も持ってた!意味無しっ!
「?聖くんに足りないのは自信くらいじゃないかな?」
「じ、自信か……さ、酒持ってこいっ!!」
これが…聖奈の望んだ俺なのか!?
「ぷっ…ふふふふふっ!ま、まって!!聖くんギャグセンス高くなり過ぎだよっ!ぶはっ!ふふふっ」
えっ…ち、違ったのか?
男(夫)が自信満々に女(妻)にいうことなんて、これくらいじゃないのかっ!?
どうやら俺の自信と聖奈の考える自信には、大きな隔たりがあるようだ。
「はい。あなた。どうぞ」
「えっ。あ。わりぃ…な。聖奈も飲めよ」
俺が酒を持ってこいと伝えたら、大笑いした後で聖奈は日本酒を出して注いでくれた。
何だかよくわからんことになったが、この場で自分だけ飲むのも変かなと思い、普段日本酒を飲まない聖奈にも勧めてみた。
何故だか、今なら一緒に飲んでくれそうな気がしたからだ。
「ありがとう」
聖奈はそういってお酒に口をつけると、すぐに離した。
「酔う前に話がしたいんだけど、いいかな?」
くっ…誤魔化せなかったか…いや、そんな気はなかったんだけどな。
「わかった。俺も男だ。今更ジタバタしない。さぁ。ドーンと言ってくれ」
これまでのことを考えたら、何を言われても仕方ない。
どんな罵詈雑言でも俺は受け入れる覚悟を決めた。
「?何か勘違いしてそうだけど、言うね?」
・
・
この間が怖いんですが?
・
・
「よく考えなくても、聖くんより大切な予定なんて、私には無いんだよね。
手段と目的を間違えていたよ。
ごめんなさい。
もう一度誘ってくれないかな?」
???
は…?誘う?誘うって?…旅行か?
「ちょ、ちょっと待ってくれ。あの旅行はあの日付じゃないと…『いいよ』…え?」
「どんな時間でも、私は貴方を優先するよ」
…それはそれで怖いが……
「じゃあ、来週の頭でもいいのか?」
「うん。お願い。もう一度同じように誘ってくれないかな?」
改めて言われると恥ずかしいのだが?
こほんっ。
「聖奈。次の月曜日から二日間、君の時間が欲しい。一緒に旅行に行って欲しいんだ。どうだ?」
あの時の俺はなんでこんな回りくどい言い回しをしたんだっ!!!
普通に誘えよっ!過去の俺!!
…プロポーズの言葉を考えすぎていたせいだな。
「はい!」
……何があの時と違ったんだ?
side聖奈
「セーナ。そういうことよ」
報告が終わったライルくんを先に帰らせてまで、マリンは話があると言ってきた。
こんなことは初めてだったから、何事かと思ったけど……
予想外過ぎだよ……
「ありがとう。教えてくれて。ごめんね?」
「いいのよ。私は貴方達のお陰で幸せになれたわ。次は貴女の番なのだから…手放しちゃダメよ?」
「うん。危うく間違えるところだったよ。気をつけて帰ってね」
私は間違いを正してくれた仲間を見送る。
ホントにミランちゃんを始め、仲間には助けられてばかりだよ。
でも…あの聖くんが・・・
私は急いでマンションへと戻ったんだけど、そこはもぬけの殻だった。
「聖くん…どこにいっちゃったの?」
私は会いたい気持ちが大きくなったせいで、なかなか寝付けないでいた。
「久しぶりにこんなに寝ちゃった…聖くんはまだ帰ってこないし…」
ゴロゴロしてても気が休まらない私は、マンションの大掃除をして、待ち人を待つことにした。
side聖
「仕事はいいのか?」
いや、来てくれるのは嬉しいよ?
でも、俺に聖奈の邪魔をするつもりは微塵もないんだ。
「どうでもいい。とは守るモノが大き過ぎて言えないけど、よく考えなくても聖くんの誘いを断る程のことじゃないから、気にしないで」
「そ、そうか。無理してないならいいんだ。行き先はパリなんだけど、それまでは聖奈の行きたい所に行こうと思うから何かリクエストがあれば教えてくれ」
頼むから旅行のせいで徹夜とかやめてくれよ?
そんなことをさせたら二度と誘えなくなるからな。
「ホントっ!?って言いたいところだけど、今回は聖くんにお任せするね!愛しの奥様のことを四六時中考えて決めてね?」
・・・・
「わかった。愛しているのは真実だから、今回は敢えて否定しないよ」
俺が素直にそう伝えると、聖奈は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
恥ずかしいなら言うなよな……
とんだドMな奥様だぜ……
普段は冗談を冗談で返す所を真面目に返してやったぜっ!!
ボケ殺しほど恥ずかしいモノはないからなっ!!