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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第93話 〚選ばなかった未来〛(澪視点)
予知は、静かに訪れた。
前触れもなく、視界の端が歪んで、心臓が一拍だけ早く打つ。
——また、見える。
廊下の先。
誰かが立ち止まり、誰かが言葉を投げて、空気が冷える未来。
前なら、迷わずそこへ向かっていたはずだった。
でも今日は、足が動かなかった。
(……違う)
頭じゃない。
理屈でも、怖さでもない。
胸の奥が、はっきりとそう言った。
予知の中の私は、正しく動いていた。
間違えないように、傷つかないように、
誰かの期待通りに。
でも、そこに“私”はいなかった。
——それを選んだら、また戻れなくなる。
廊下の窓から差す光が、床に伸びている。
今の時間は、今しかない。
未来じゃなくて、ここにある。
澪は、小さく息を吸った。
心臓が、少しだけ痛んだ。
拒否するみたいに、きゅっと縮まって、
それでも、前よりはっきりしていた。
(行かない)
初めてだった。
見えた未来を、無視したのは。
怖かった。
何かが起きるかもしれない。
誰かが傷つくかもしれない。
それでも——
それを“自分の責任として選ぶ”と、決めた。
教室の扉を開けると、
いつもの声、いつもの机、いつもの景色。
何も変わっていない。
それなのに、世界が少しだけ違って見えた。
澪は席に座って、手をぎゅっと握る。
震えているのが分かった。
(大丈夫……)
誰かに言われた言葉じゃない。
自分で、自分に言った。
予知は、力だった。
でも今は、それよりも——
「選ばなかった」ことが、
澪を支えていた。
未来を追わない。
過去にも戻らない。
今ここで、
自分の心臓が選んだ方へ。
澪は、静かに前を向いた。
——これは、逃げじゃない。
初めての、自分の選択だった。