新しい2人

スタジアムが決まって、忙しい毎日。今までの仕事もあるし、渡辺は控え室で、うとうとしていた。誰かが上着を掛けてくれる。渡辺は完全に寝てしまった。時間はもうあまりない。そっと揺り動かす手。落ち着いた低い声。

「あぁ、めめだ」、渡辺はゆっくり浮上して来る。

渡辺ーめめ？

目黒ー起きた？もう時間だよ。

渡辺ー待っててくれたの？

目黒ー話もあって。

渡辺ー皆んなは？

目黒ー今、スタジオに行った。

渡辺ーで？話って？

目黒ーしょっぴーが好きかも。

渡辺ー1番の仲良しだと思うけど？

目黒ー恋愛は考えられない？

渡辺は飛び起きた。上着を抱きしめたまま椅子に座り直す。

今、こいつは何と言った？

渡辺ーチビで華奢だけど、俺は男だけど？

目黒ー当たり前じゃない。そんなの知ってる。

渡辺ーじゃあ、聞くけど、その「好き」は何だ？

目黒ー恋愛対象としての「好き」。

渡辺ーうわ〜やめろ、ばか。

目黒ー真剣なんだけど。

渡辺ー余計怖いわ。

目黒ー考えてみてくれない？

渡辺ー考えるも何も、女の子とする恋愛だろう？俺はお前の1番の仲良しでいい。

目黒ー時間だから、行こうか。

渡辺ーなかったことには？

目黒ーならない。もう、しょっぴーを、ただの友達には思えない。

渡辺ーめめ〜。

目黒ー行くよ？

渡辺ー参ったなぁ。

嫌悪感は湧いて来ない。渡辺は困惑しているだけだ。でも、家に帰って考えると、「おかしい」「変に思われる」「めめは子供が確か好きだろう」「2人に未来はあるのか」などなど色々考える。

渡辺ーめめ、どうしたんだよ？

それでも、日常は変わらない。渡辺は目黒とラウールといるし、笑って話をする。あの日がなかったように。目黒は、渡辺はなかったことにしたいのか？と思う。

目黒ーしょっぴー、今夜話せない？

渡辺ーいいけど。

目黒ー晩ご飯作るから。

渡辺ー生姜焼きな。

目黒ーふふふ、分かった。

渡辺は、平常心を装って話すのが大変だった。自分を「好き」と言ってる相手の家に1人で行く。

でも、今更、行かないとも言えない。ラウールを誘っても行けない。

ドキドキするけど、何で「気持ち悪い」とか「嫌いだ」とか言えないんだろう？

目黒の家。

目黒ー来てくれないかと思った。

渡辺ー生姜焼き食べたい。

目黒ー茶碗蒸しも作った。

渡辺ーお前、何でも出来るなぁ。

目黒ーサラダ、ちゃんと食べてね。

渡辺ー話は食べてからな。

目黒ーん。

渡辺ーいただきます。

目黒ーどうぞ。

「好き」の話はしないけど、スタジアムや、仕事の話はする。

楽しく喋って食事して。やっぱり渡辺には、本気に受け止めてもらってないのだろうか？

渡辺ーめめ、後片付けはいつも通り、俺がする。コーヒー淹れてくれ。

目黒ーん。

目黒は、渡辺の様子を見ていた。普段と変わらない。期待していいんだろうか？いや、そんな都合よく行くはずない。渡辺は、無理して普段通りを演じてるだけかもしれない。目黒は、告白したことは後悔しない。半年前からこの気持ちはあった。日を重ねてどんどん大きくなっていく。

渡辺ーめめ〜終わった。

目黒ーありがと。コーヒー淹れてるよ？

渡辺ー言っていいぞ。

目黒ー本気なんだ。

渡辺ー何で俺？

目黒ーずっと前から一緒にいたし、時には怖かったり、時には可愛かったり、色んなところも見てきて、波長が合うし、落ち着くし。いつの間にか、友達を超えていた。

渡辺ーいつから？

目黒ー半年くらい前から。

渡辺ー・・俺はお前のこと、そういう意味で見たことないから、いまいち分からないけど、嫌いじゃない。でも、「好き」かって聞かれたら、友達として好きとしか言えない。

目黒ー嫌な気持ちにならないの？ 男に好きだって言われて。

渡辺ー他の男なら嫌だろうと思う。けど、めめはそんな風に思わない。だけど、友達。

目黒ーこれから先は？

渡辺ー好きになるかもしれん。どうしても嫌いにはなれない。大事な友達だから。

目黒ーしょっぴー、好き。

渡辺ーん。

目黒は「好き」な人になったけど。渡辺は目黒は友達と言い切る。本心か分からない。

友達以上になってくれたら嬉しい。