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翌日早朝、シェルドハーフェン東部で夜営し一夜を明かした領邦軍は意気揚々と出撃。太鼓の勇壮な音楽を奏でながら『ラドン平原』を南下していた。

先触れとして派遣した使者から無礼な振る舞いを受けたとの報告を受けた指揮官達は、別の意味で士気を高めていた。

「シェルドハーフェンよりはマシだと聞いていたが、所詮は平民の集まり。礼儀作法を知らないと見える」

「裏社会のゴミ共だ。駆除したとしても、問題はあるまい」

「最近は楽な仕事ばかりだったからな、ようやく刺激のある仕事が回ってきたよ」

「我々が近付くだけで全てを差し出すんだ。退屈しのぎにはちょうど良い」

きらびやかで様々な装飾が施された軍服を身に纏った将校達が、下衆な笑みを浮かべながら馬上で語り合う。

彼らは能力が低く不正ばかりして軍から追放された者達であるが、そこをガズウット男爵家に拾われて領邦軍の将校として働いていた。

主な任務は恫喝であり、ガズウット男爵家の威光を最大限に利用して、相手を屈服させるというを所業を繰り返していた。

そしてそれは兵士達にも共通しており、男爵家の権力を傘に好き勝手しており当然ながら満足な実戦経験すらなかった。

これらは貴族が強大な権力を保有する帝国では、基本的に貴族に逆らう者が居ないためである。

裏社会の人間でも貴族相手に揉め事を起こすような真似はせず、裏金などを利用してご機嫌伺いをする程だ。

それ故に、今からシャーリィが、『暁』が行おうとしていることは前代未聞であり、帝国社会に激震を走らせることとなる。

そんな事になるとは考えもしない領邦軍。将校達の言葉を聞きながら、立派な髭を生やし一際目立つ装飾品に彩られた軍服を纏う肥満体の男が口を開く。

「無礼な下民は躾ねばなるまいよ。非礼に対する罰として、町では乱取りを許す」

「「「おおおっ!!!」」」

周囲から歓声が上がる。乱取りとは、兵士による略奪その他の行為を容認することを意味していた。

その非道を命じたのは、ガズウット男爵家筆頭従士であり領邦軍を率いるニフラー。

男爵の命令完遂を最優先とし、そこに倫理観や論理的思考を挟まない近視的な人物である。

意気軒昂となった彼らだったが、突如飛来した矢がニフラーの傍に突き刺さり、空気が一変する。

「何事か!」

「筆頭従士!彼方を!」

「ぬぅ!エルフか!町に巣食う亜人めが!小賢しい!始末しろ!」

視線の先には騎乗したエルフ達が居て、弓を射掛けていた。だが距離が足らず領邦軍は無傷。代わりにマスケット銃の斉射を行うとエルフ達は一目散に逃げ始めた。

「駆け足だ!エルフは高値で売れる!戦利品とするぞ!追え!」

愉快な気分の時を邪魔されたニフラーは、戦利品が増えると嬉々として追撃を開始。

「追ってきたわね」

「予定通りよ、リナ。どうするの?」

「このまま北部陣地へ誘い込む!矢を浴びせながら後退!当てちゃ駄目よ!良く狙って外しなさい!」

「また無茶を言うわね」

リナの言葉にエルフ達は苦笑いしつつ、定期的に矢を放ちながら領邦軍を誘引していく。

当然領邦軍の中にも誘い込まれていると不安を感じるものは居たが。

「筆頭従士、誘引されているのでは?」

「亜人の浅知恵など恐れるな!多少の被害は出るかもしれんが、それだけだ!一気に町を制圧するのだ!」

その忠言がニフラーの耳に届くことはなかった。

一方『黄昏』北部陣地では。

「間もなく敵が来るぞ!用意急げ!」

「終わったら塹壕の前に整列だ!銃は塹壕の中に隠しておけ!早くしろ!」

マクベス達が号令を掛けて皆が慌ただしく行き交う中で、村娘スタイルに着替えたシャーリィは、同じ衣装を着せたエーリカを伴い野戦指揮所に入った。

「リナさん達は上手くやってくれている様子。そうしない内に敵が現れるでしょう」

「では、予定通りに」

「お願いします、セレスティン。エーリカ、貴女は私の傍に」

「はい、お嬢様」

「ラメルさん、敵大将は?」

急遽黄昏へ戻ったラメルも野戦指揮所に居た。

「ガズウット男爵家筆頭従士のニフラーだ。予想通り、連中実戦経験が無い。それに、『暁』の事を調べた形跡もない」

「舐められたものですね。貴族様は平民に関心すら寄せない様子」

「その慢心を叩き潰してあげるだけですよ、シスター」

シスターの言葉にシャーリィは気軽に返す。

「敵大将は筆頭従士ですか」

「恐れますか?エーリカ」

「まさか、私はお嬢様のために働くだけです」

「良い言葉を聞きました。事が済んだら貴女を私の筆頭従士にしましょう」

「はぇ!?」

さらりと言われた言葉にエーリカは驚愕する。

「レンゲン公爵家との関わりも持てましたし、何れはアーキハクト伯爵家を再興しなければいけません。セレスティン、問題は?」

「ございません」

「ちょっ!?私はただの仕立て屋の娘ですよ!?」

エーリカの訴えにセレスティンは彼女に視線を向ける。

「奥様はその様にお考えでした」

「ヴィーラ伯爵婦人様が!?」

「はい。エーリカ殿は剣に才気を見せており、なによりお嬢様方にとって心を許せる良き友人。従士としてお側に仕える、これに勝る人材は居りませぬ」

「だからお母様はエーリカにも厳しく稽古をつけたのですね」

「はい。そしてお嬢様自らが望まれるならば、最早否やはありますまい?今すぐに名乗らせるべきかと」

「では今すぐに任命します。エーリカ、今日から貴女は私の筆頭従士ですからね」

「えええっ!?」

急展開に頭が追い付かないエーリカ。そんな彼女を見てシャーリィも笑みを浮かべる。

「残念ながら、私もまだ公には名乗れませんからね。正式な任命はその時に。エーリカはこれまで通りに勤めを果たしてくれれば問題はありません」

「はっ、はい……努めます……」

話をしていると、水平線に軍勢が現れ始めた。彼らに追われるように、ゆっくりとエルフ達がこちらへ向かってくる様子も見えた。

「始まりますね。各自予定通りに動いてください。決して彼らを逃がさないように、出来るだけ引き付けます」

この日に備えて北部陣地は鉄条網を撤去し、塹壕の前に貧相な衣服と剣を持たせた兵士達を立たせた。

全ては領邦軍を欺くためであり、貧相な装備を見せることで間違っても彼らが逃げないようにするための策である。

権力を盾に好き勝手やってきた彼らは満足な調査すら行っていなかった。帝国の常識からすれば、貴族を相手に逆らうことは裏社会の人間でも避ける。

当然ではあったが、その常識が通用しない相手が居ることを、彼らは身をもって味わうことになる。

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