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──口内に伝わる湿った音が、耳の奥を衝くように響く。
これ以上されたら、キスだけでどうしようもなく感じてきちゃいそうで、「……もっ、や…」と、小さく声に出した。
「なぜ?」
彼のキスに魅了され、このままでは意識すらも奪われてしまいそうで、何か言わなければと頭を巡らせた。
「……あ、あのヒゲが、ヒゲが当たるから……っ!」
やや苦し紛れに、咄嗟にそう口にすると、
「ヒゲが?」と、彼が頬を手の平でさすった。
「ああ、寝ている間に少し伸びたか。チクチクしたのか?」
ここぞとばかりに、こくこくと頷いて返す。
「じゃあ、起きてヒゲを剃ろうか。君も、来ないか?」
さすがの大邸宅だけあって、寝室内にレストルーム付きのプライベートバスがしつらえられていて、彼に連れられるまま洗面台の広い鏡の前に並んで立った。
鏡越しに彼の顔を見つめていると、本当はその少しだけ伸びた髭も、寝起きでまだセットのされていない髪型も、男性的な色気が漂っていて魅惑的なのだけれどと感じる。
何より私に気持ちを伝えてくれた時から髭を伸ばさなくなっていた彼の顔に、僅かでも髭が生えているのを久々に目にすると、その容貌もセクシャルでやっぱり素敵だなと思わせた。
「シェービングクリームは見たことがあるかい?」
と、彼が棚に置かれたチューブを手に取った。
「ないです」と、ふるふると首を左右に振る。
「こうやって使うんだ」
陶製の小ぶりのカップに、シェービングクリームを入れると、
「これは、シェービングブラシだ」
言いながら、毛先がこんもりと丸まったハケに水を含ませて、カップの中身を手際良く泡立てた。