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イベントの帰り、少し遅い時間のエレベーター。誰もいない密室に、いふと初兎の二人きり。
無言で並んで立っていると、ふいにいふが、すっと初兎に顔を近づける。
「……な、なに?」
「いや、黙ってるからどうしたのかなって」
「……別に、何もないし」
そう言いながら、初兎は視線をそらす。
その仕草に、いふはふっと笑って――
突然、初兎の耳元に口を近づけた。
「……ほんとはさ、今すぐ抱きしめたくてたまんない」
「――っ!」
耳に直接、低く落ち着いた声が響いて、初兎の肩がぴくりと跳ねた。
「ま、まろちゃんっ……! いきなり耳元で……!」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど……びっくりするやろ、普通……!」
「でもさ、初兎が黙ってると、どうしても何かしたくなるんだよ。
静かな分、声で反応してほしくなる」
そう言って、いふはまたほんの少しだけ、初兎の耳に唇を近づける。
「……初兎の声、耳元で聞かせてよ。俺のこと、好きってさ。小さくでいいから」
「……ずるい」
初兎は小さくそう言って、頬を染めたまま、いふの胸元にこつんと額を預ける。
「……好き、だから黙ってたんだよ。顔、見られたらバレるから」
その一言に、いふの喉がかすかに鳴った。
「……そういうの、いちばん効くんだけど」
初兎の肩をそっと抱き寄せて、いふは微笑んだ。
「じゃあ、お返し。俺も、初兎のこと――世界で一番、好きだよ」
そしてもう一度、耳元で、少し低く、甘く。
「……俺の全部、お前だけのものだよ」
初兎の耳が、顔が、首筋までも赤く染まっていくのを、
いふはとても大事そうに見つめていた。