その日の夕方、二日ぶりに樹が家に帰ってきた。
「はあ、今日の当直ヤバかった。救急車何台来たかわかんない…」
お疲れ、とみんなが口々に言う。
「飯食ったら早く風呂入って寝な」
キッチンから北斗がそう声を掛けた。
今夜はサーモンのムニエル。料理人の腕の見せ所だ。
「うん…」
あっ、と樹は振り返った。「兄ちゃん、記事調べてくれた?」
ダイニングでパソコンを開いている優吾が顔を上げる。
「ああ、モデルさんの特集とかならあった。あとネットでも調べたんだけど、アフリカでそういう人たちが捕まえられてたっていうニュースだけだったな」
「そっか。外れたか」
少し残念そうにした。
「でも、そういう価値の高い人たちとされてるんなら、施設に入れられたって説も捨てがたい」
手がかりがあるしね、と慎太郎が言う。「リストバンドがどこのものかわかったらいいんだけど」
「そんな簡単に見つかるかなぁ」
ジェシーは嘆いた。
「…これが大我くんのためになるかはわかんないけど、大我くんの未来のためにも真相を突き止めないとね」
優吾はそううなずいた。
そして夕食がダイニングテーブルに並ぶ。6人で囲むのは久しぶりになった。
昨日の朝のことを覚えていた北斗は、料理にトマトを添えていた。
いただきますをした大我の箸は、まっしぐらにトマトのほうへ。幸せそうな表情で頬張る。
「…おいし」
覚えたての感情を、みんなに向ける。
「おおっ、そうか」
気づいた樹は嬉しそうに笑う。
「そう、昨日の朝ミニトマト出したらおいしそうに食べてくれるからさ」と優吾。
「そうなんだ。好きなんだね」
団らんの時間にも花が咲く。
「…北斗くんのご飯、おいしい」
言ったのは大我だった。みんなも、そして言われた本人も驚きを隠せない。
「ほんと? ありがとう。初めて呼んでもらえた…」
嬉々とした表情になる。「そうだ、今度レストランにも連れて行ってあげたいな」
「うん。おいしいのいっぱい食べな」
慎太郎が笑いかける。
「ってか朝飯は俺が作ってるんだけどな…。大我くん、朝ご飯はおいしい?」
しかし大我は静かに口角を上げる。それに苦笑した。
「そっか、フレンチシェフには敵わないか」
AHAHA、とジェシーは楽しそうな笑声を上げた。
もうすっかりこの家族となじみ、打ち解けていた。笑顔を見ることも多くなった。
その夜だった。大我が5人の前から姿を消したのは。
続く
コメント
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大我くんがなぜ姿を消したのか続きめっちゃ気になります!続き楽しみにしてます!!