この話は私が好きな作家さんのお話を朝菊に置き換えています。苦手なお方は回れ右でお願いします。誤字脱字はコメント等でお知らせください。
※██は菊の親友(女子)
高校生ifです。
美術室に飾られた一枚の絵を指差しながら██
が呟いた
「この人、どんな顔してるんだろうな」
それは七、八年ぐらい前の先輩が描いた『窓辺にたたずむ少年』という絵で、展覧会で賞を貰った作品だそうだ。すらっとした学生服姿で、窓から外を見ている。少し黄みがかった柔らかそうな髪。後ろを向いているので顔は全く分からないが、作者は付き合っていた同級生を描いたのだという。
私と██は、5年生の時に同じクラスになった。好きな漫画が同じだったことから意気投合した、親友同士だ。異性ではあるが、それでも██は気にせずに高校生になった今でも仲良くしてもらっている。だが██に私は敬語を使っている。この春に進学した高校では、クラスが分かれたけれど、「菊と一緒の部活にしたい」と██に言われたので一緒に美術部に入った。
██はさっぱりした気性の子だ。見た目も背が高くて、男の子っぽい。ファッションとかメイクとか、まるで興味がなさそうなところもある。中学とか高校とかに入ると急にオシャレになる人も結構いる。制服だから皆同じ格好。それでもみんな精一杯オシャレしている。
でもそんな事より、漫画を読んだり絵を描いたりする方が楽しいと言う██は、長い髪を無造作に頭の後ろで結んでいて、飾りげ無し。そんな所も、私と同じだった。私達は恋バナ話にも興味はなかった。クラスの男子なんて幼稚でうるさいだけだって言っていたけど、そういう人は少数派だからクラスでは1人でいることが多い。別にいじめられてるとかではないので気にはならない。だって、放課後になれば、美術部で、██と一緒にいられるのだから。
美術部は弱小で全部で十人。新一年は四人だけだった。ちょっと変わっている部員が多くて、マイペースというのか、みんな黙々と絵を描いたり、版画や彫刻に取り組んだりしている。他人のことにうるさく干渉してこない。その自由な雰囲気がいいのだ。
██の様子が少し変わったのは梅雨入りした頃のことだった。なんとなく物思いに沈んでいる感じ。「どうかしたんですか?」と聞くと、ただ首を横に振る。何でもないよ。と。だけど、何か思い悩んでるみたいだ。
██は美術部に来るとすぐに頭の後ろで結んでいた髪を解く。その様子を見ながら私は、あれ?と思った、なんだかすごく綺麗に眉の形を整えている。それに、██のまつ毛ってあんなにくるっと上を向いていたっけ。
戸棚のガラスに映った自分を見て、██はため息をついた。やっぱり気になって私はまた聞いた
「何か悩みでもあるんじゃないんですか?」
ほんの一瞬、不快そうに眉を寄せていたけれど、██はすぐに、まさかという風に笑った。
クロッキーブックに鉛筆を走らせる██をチラと見る。██は1年生部員の中で一番実力があるけど、私は悔しいとは思わない。先輩達から、██が褒められると自分のことみたいに嬉しい。何と言っても親友なのだから。
だけど、、、、、
「最近、██可愛くなったよね」
という先輩の言葉に、私は傷ついた、気付かないふりをしていたけれど、本当はわかっていたのだ。
██が髪を切った、結ばなくていい長さ、ふわっとした女の子らしい。
「思いきったんですね。でもどうしてですか?」
と聞くと、ポツリと言った。
「短い方が似合うって言われたから」
「だれにですか?」
答えは無い。ただ遠い目をして微笑む。
美術部員達は、自分のペースで書いて好きな時間に帰っていく。活動は6時までだけど、5時を過ぎるとパラパラと帰りだし、5時半には殆どが部室を出る。そろそろ帰ろうよと██に声をかけると、
「私、今日はもう少し描いて行く」
という返事。そんなことが増えてきた。
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安心してください。続きはあります