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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第110話 〚帰り道を、少しだけ長くした理由〛
― 澪視点 ―
二人きりで帰るのは、
久しぶりな気がした。
並んで歩いているだけなのに、
時間がゆっくり流れる。
(……もう少し、
一緒にいたいな)
そんなこと、
今まで思ったことなかったのに。
「こっち通らない?」
私が言うと、
海翔は一瞬だけ驚いて、
すぐにうなずいた。
「いいよ」
それだけ。
寄り道。
特別な場所じゃない。
でも、
遠回り。
家に着く時間を、
少しだけ遅くする道。
階段に差しかかる。
上から見ると、
町並みが広がっていて、
アニメみたいな景色。
夕方の光が、
やわらかい。
私は、
ぼーっと景色を見て――
足元を見ていなかった。
踏み外す。
一瞬、
体が浮いた。
(――あ)
次の瞬間。
ぎゅっと、
手首を掴まれた。
強くない。
でも、
迷いがない。
「危ない」
海翔の声が、
すぐ近く。
私は、
転ばずに済んだ。
心臓が、
一気にうるさくなる。
助けてもらっただけなのに。
それだけなのに。
顔が、
熱い。
「……ありがとう」
小さく言う。
海翔は、
すぐに手を離して、
少し視線を逸らした。
「ちゃんと前、見て」
それだけ。
でも――
私は分かった。
海翔の耳も、
少し赤い。
階段を降りきるまで、
二人とも
あまり喋らなかった。
でも、
沈黙は
嫌じゃなかった。
少し離れた場所。
怜央たちが、
ひそひそ話している。
「今の、
普通にかっこよくない?」
「手首なのが
また……」
「声低かったし」
聞こえないように、
ちゃんと小声。
その横で、
りあが完全に別世界。
「え、待って待って
今の構図、
少女漫画の3巻後半……!」
目が、
キラキラしてる。
私は、
何も知らないまま。
ただ、
胸のドキドキが
収まらなくて。
帰り道を、
少しだけ長くした理由。
それは、
ちゃんと言葉にできない。
でも――
確かに、
心は前より
近づいていた。