ピロンと通知音がしてスマホの画面を確認すると想定していた通りメンバーのえとからだった。
今出先から電車に乗ったようで最寄り到着時間が迎えに来てほしいという文言と一緒に書かれていたのでうりは自分が家を出る時間までタイマーをかけた。
「迎えきてくれてありがとう」
「おー、おつかれ」
「そっちもおつかれ」
帰ってきたえとを見ると学校の時の服装で、学生は大変だなとうりは思う。
歩いている間、会話がすごく弾むこともあるし、互いにネタが尽きてただ歩くこともある。
もはや日常がゆえだろう。
「ごめんうり、少し遠回りしてもいい?」
「え、あぁ、オレはええけど」
えとはいつも曲がる道とは反対側を指してそういう。
遠回りしたいなんて、時間も時間でどういうことだろうとドギマギしてしまう。
「珍しいやん」
「あぁ、ほらあとちょっとでイベントやん? 少し絞っておきたいなあって。最低限の自信は欲しいじゃん」
「なるほどね」
「朝は弱いし、日中は学校だから、夜くらいしか時間ないじゃん。だから、付き合ってくれると助かります」
「もー、そんなん言われたらもちろん付き合いますよ。なんならオレも絞りてえし」
この先大きめの公園あったよね。なんて言いながら、いつもより歩数を稼ぐために足を進める。
住宅街を抜けると、会話の通り公園があり街頭が点いていて明るかった。
「ブランコあるじゃん」
えとはベンチにリュックを下ろすとブランコに腰を下ろして漕ぎ始めた。
「わあっ、揺れるっ」
「そりゃ、ブランコやからな」
揺れるために乗るものだろうとうりはえとの発言にツッコミ、えとはそれそうと笑う。
「うりも乗ってみなよ」
えとの誘いに素直に応じてブランコに乗るとうりもうわあと声をあげた。
「確かに揺れるっ。揺れ方が子供んときと違うんやが」
「でしょー! あははっ」
「え、オレ早々に酔いそう」
「わかる」
うりは立ちなら行けるかと、立ち漕ぎをし始める。
「おおっ、えとさん立ちならそんなやぞ」
「まじ?」
ほんとだーとえともはしゃいだ声をあげる。
「夜中にさ、子供の声が聞こえるホラーとかあるやん」
「うん」
「オレらみたいなやつが遊んでるからなんじゃねえの」
「え、マジじゃん。そうじゃん」
「誰かをホラー体験させとるかもなあ」
「犯人うちらでーすみたいな」
声の音量には気をつけようと、少しズレた注意をすることにした。
そこの公園には滑り台もあったので順番に滑ったり、勢いをつけて逆走してみたり。子供の頃にやったら怒られてしまうことも大人だからとロクでもない免罪符を掲げてはしゃいだ。
「真夏の滑り台やばくなかった?」
「すげぇ熱かった。ショーパンとかで滑ると太ももとお尻の境目辺りがヤケドしたかなって」
「あー、女子はそれがあるよな」
「寒くなり始めの滑り台もやばいよ?」
「北海道のそれはやばそう」
はしゃいでいると少し暑くなって、ベンチに腰を下ろせば夜の空気は日中よりも冷たくてそれが心地よかった。
うりがスマホの歩数計を見るとあと少しで数字のキリが良さそうだった。
「えとさん、タッチ」
そういってうりは逃げていく。えとは急のことではぁ?と戸惑いの声を上げたが律儀に逃げたうりを追いかける。
「うり、はやっ」
「ちょっと体力ないんじゃないのー?」
「こっちは学校終わりなんですぅ」
「こっちは在宅ワーク途中なんですぅ」
「それはすまん」
「いや、それはいいん、だけどぉってぇ!」
「あー、くっそ!あと少しだったのに!」
「あぶねえあぶねえ」
いいところは行くものの捕まえきれないえとが不機嫌に口を尖らせ始めたので、うりはひらひらとえとの前に手を出す。
「変わる?変わるか?」
「悔しい!」
「いーんだよ?このままでも」
えとは本当に悔しそうにバチリと出されたうりの手のひらを叩いた。
「いってぇ!」
「はいっ!うりがオニ!」
うりが逃げるえとをタッチしたところで二人ともかなりくたびれてしまったのでドカリとベンチに腰を下ろした。
「やっばいすっごい疲れた」
「な。ここまでのつもりはなかったんだけど」
スマホの歩数計を見ればキリのいい数字どころではなく、健康的に歩いたと言えるくらいの数字になっていた。
「帰ぇるか」
「帰えろう」
えとは放置しっぱなしにしていたリュックを背負いようやく本当の帰路につく。
途中自販機を見つけてさすがに喉が渇いたのでうりは買おうと思った。
好んで飲んでいるビタミン系ドリンクを買おうと指をボタンに運んだところでえとが声を上げた。
「そこは麦茶だろ」
「あー、やっぱりぃ」
「飲み物でカロリー摂っちゃったらもったいなくね?」
「それはそうよなあ」
えとの指摘に納得してうりは麦茶を選んだ。軽い運動のあとのそれがやけに上手く感じる。
「ふふっ、CMみたい」
「いつでも案件待っとるわ」
「うちで麦茶の案件受けるの?ウケる」
「飲み物困らんくて良くね」
「確かに。飲み物代もバカにならんよね」
たまにふと計算してびっくりするよねと笑いながら歩いているとシェアハウスが見えてきた。
「ねえ、えとさん」
「んー」
「オレも歩きたいから帰ってくる時連絡してよ迎えがてら散歩するわ」
「おー、いいね。連絡するわ」
今日もありがとうとえとは女子寮にそのまま行くというので玄関ホールで別れた。
外の空気がいいのか、運動したゆえの血流の流れがいいのかは判断がつかないが途中でとめていた作業に戻るとやけに進みが良く、なおかつブルーライトを浴びたというのに寝つきも良くて人間動かなければいけないのだなあとうりは身に染みた。
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