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<記憶の底で眠る、感情。>

2025-03-02


───記憶の底に、今もあるもの。

ただ忘れてしまっているだけの、記憶の欠片。



「ねぇ███。」

エメラルドグリーン色の髪をした██が話しかける。自身の庭で遊び回っている幼馴染に。

「…どうしたの?███、元気ないね?」

能天気と言ったら怒られるだろうか。その瞳は曇りなき眼で、███と呼ばれた██にはとても綺麗な瞳だと感じられた。

「…█達は、ずっと親友だよね?」

「うん。そうだよ?今更どうしたの?█たちはこれからもずーっと親友だよ?」

不安そうに聞くと、███はそれを払拭するかのように元気に答えた。年相応の無邪気さと、けれどそれと共存しないはずの色っぽさや、整った顔立ちが相まって、███にはまるで何処かの子役のように見えた。

「…そうだよね。…ごめん、変な質問して。」

申し訳なさそうにそう言うと、███は笑いながら言う。

「ううん、全然大丈夫。」

それよりも、と付けくわえて、███は███の手を引く。木陰と日向との境目は2人を照らす。

「ほら、███も遊ぼ!」

その灰色の瞳が綺麗に微笑む。可愛らしい、大人なら誰しもが愛しそうな。そんな笑みで。

「…でも、父様が駄目って…」

そんな███を突き放すように、███は下を向き、気まずそうに言う。

「え?███のパパが?…んー、それならしょうがないかぁ。…あ、そうだ。それって、遊ぶのが禁止されてるだけで、一緒にいるのは禁止されてないってことでしょ?」

「え…あ、うん」

「なら█もここに居る!一緒に本でも読も!」

これならきっと大丈夫だよ、と笑いながら███は口にした。

もはや屁理屈の域まで達しそうな理論を意気揚々と言う。何故そんなに自信満々で言うことが出来るのか、今の███には分からなかった。

███は木の傍に座り、███を待ってるかのように目を輝かせる。

「…いいよ。どれ読む?」

███に遠慮という言葉を教えるのは無理だと判断し、███も███の近くに腰掛ける。

ひんやりした木の幹に背中をつけ、何冊か本を手に取った。どれもこれも分厚いせいで、███1人の腕力で持つにはせいぜい2冊が限界だ。

「わ、沢山あるね!全部面白そう!」

中身は全て論文か小説なのだけど。███がそんなものを読むなど、到底想像がつかず少し顔を歪ませる。

「…ん?どうしたの?」

「…いや、なんでもない。それより、███はどれ読む?」

「えー、…全部面白そうだからなぁ…あ、これがいい!この朱色の!」

少し迷った後、その大きい朱色の本を指さした。

「…これ?」

███が戸惑いながらも手に取って███に渡すと、██の目は星のように輝く。

「そう!これ面白そう!!」

「あぁ、…うん、そうだといいね…」

中身は魔法研究についての論文なのだが。途中でリタイアする未来しか見えない。

「…へぇ、今はこんな魔法が…」

けれど予想に反し、意外にも███はすらすらと読み進めていった。30分くらいした後、███の方を見れば既に3分の1程度読み進めていた。

流石に早すぎるだろう。そう思い██に声を掛けてみれば、

「え?普通に読んでるだけだよ?」

と返される。何が普通だ、と心の中で冗談交じりに笑った。厚さが5センチ以上ある本の3分の1を30分で読むなんて、魔法でも使わない限り無理だろう。そこまで考えたあと、そういえば███はこう見えても上流階級である貴族の生まれで、魔法の英才教育も受けていた、という話を聞いたのを思い出した。それならば納得がいく。

小さい頃から本を読まされていたなら、こんな本などすぐに読み終わるだろう。

「…この本面白かったよ、ありがと!」

案の定、さっきから10分ほど経っただけなのに、もう読み終わったらしい。

「…うん、良かったね」

本を受け取り、また重たいそれを手に持つ。

まるで自分の感情みたいだなと思ったが、その思考もすぐに手放した。だって、ただの中級貴族である自分が、上級貴族サマの███にそんな思考を抱くなど、あってはならない事だから。

だから、全部押し殺していた。


殺したいぐらいの憎悪も。

恨みたいぐらいの才能も。

羨ましいぐらいの頭脳も。

嫌になるぐらいの愛らしさも。

気持ち悪いぐらいの優しさも。

憎みたいぐらいの魔法も。


全部全部、嫌いだったのに。

家柄という曖昧なもので縛り付けられて、段々と何も言えなくなっていった。


ずっと、嫌いだったよ。





第四章 : 拝啓、大嫌いな君へ fin.


NEXT : 第5章 START

ど の 寮 に も 属 さ な い [ 最 終 手 段 ] の 少 女 は _ 。

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