テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
434
抹茶らて☕️
154
コニー イラコン開催&同盟募集
137
昼過ぎ。
珍しく、日本は自室の布団へ埋まっていた。
カーテンの隙間から春の日差しが差し込んでいる。机の上には、昨夜の書類がそのまま積まれていた。
「……っ、」
喉が痛い。
頭も重い。
日本は薄く目を開けて、天井を見つめた。
――ああ、やってしまった。
徹夜明けに少し休むつもりが、そのまま熱を出したらしい。
スマートフォンへ手を伸ばそうとした瞬間、部屋の扉が開く。
「起きたか」
低い声。
日本はぎくりと肩を揺らした。
「……兄さん」
日帝は湯気の立つ盆を持って立っていた。
お粥、湯呑み、濡れた布。妙に準備がいい。
「顔色が悪いと思えば。だから言った」
「すみません……」
「謝る暇があるなら寝ていろ」
いつもの硬い声だった。
けれど、日帝は自然な手付きで額へ触れる。
「熱は昨日より下がったな」
「昨日……?」
「覚えていないのか」
日帝は呆れたように息を吐いた。
「お前、朝方そのまま机で寝ていた」
日本は記憶を辿る。
確か、少しだけ休もうと思って――そこから先が曖昧だ。
「運ぶの、結構大変だったんだぞ」
「……え」
「お前、見た目より重い」
「兄さん、その言い方」
「事実だ」
日本は布団へ顔を埋めた。
熱のせいだけではなく、少し恥ずかしい。
日帝はそんな弟を横目に、お粥を机へ置く。
「食えるか」
「……少しなら」
「なら食え」
相変わらず命令みたいな口調。
けれど、日本が起き上がる前に背へ手を回した。
支えられ、日本は目を瞬く。
「兄さん」
「何だ」
「慣れてます?」
「何がだ」
「看病」
数秒、沈黙。
日帝は視線を逸らした。
「……昔、お前がよく熱を出していた」
「あ」
「季節の変わり目になると倒れる。癖みたいにな」
日本は小さく笑った。
そういえば、昔から兄は妙に手際が良かった気がする。
薬の場所も、水の温度も、全部把握していた。
「兄さん、あの頃からずっと過保護ですよね」
「放置すると悪化する奴が悪い」
「理不尽……」
「理不尽ではない」
日帝はお粥の匙を手に取る。
「ほら」
「……自分で食べられますよ?」
「熱で手元が狂っている」
「子供じゃないんですが」
「知っている」
淡々と言いながら、匙は引っ込めない。
日本は少し困った顔をして、それから観念したように口を開いた。
「……いただきます」
日帝は静かにお粥を運ぶ。
その顔はいつも通り無表情に近い。
けれど。
日本がちゃんと飲み込むたび、ほんの少しだけ目元の力が抜けるのを、日本は知っていた。
「兄さん」
「何だ」
「嬉しそう」
「気のせいだ」
「口元、緩んでますよ」
「寝言は寝て言え」
即答だった。
だが日帝は、次の匙を妙に丁寧に冷ましてから差し出した。
結局、日本はそのまま三日ほど仕事を止められた。
――正確には、“止められてしまった”。
「兄さん、もう熱下がってます」
「駄目だ」
「でも今日締切の資料が」
「私がやった」
「えっ」
日本は布団の上で固まった。
日帝は机の書類を整えながら、当然のように続ける。
「ついでにメールも返しておいた」
「兄さん!?」
「お前、熱がある時まで敬語の長文を打つから読みにくい」
「そこまで!?」
「効率が悪い」
淡々と返され、日本は頭を抱えた。
この兄、本当に容赦がない。
だが。
自分が倒れている間、仕事が綺麗に回っていた事実に、日本は何も言い返せなかった。
「……兄さん、寝てました?」
「少しは」
「絶対少しじゃないですよね」
「問題ない」
その言い方で、日本は確信する。
この人、自分が倒れている間ずっと働いていた。
昔からそうだ。
誰かを守る時だけ、自分を雑に扱う。
「兄さん」
「何だ」
「こっち来てください」
日帝は怪訝そうに眉を寄せた。
「何故だ」
「いいから」
数秒黙ったあと、日帝は渋々ベッド脇へ来る。
その瞬間、日本は布団の端を持ち上げた。
「寝てください」
「断る」
「即答」
「私は平気だ」
「それ、私が言った時怒るやつですよね」
「…………」
沈黙。
日本はじっと兄を見る。
日帝は視線を逸らした。
「……兄さん」
「……何だ」
「隈、出来てます」
ぼそりと落ちた声。
日帝は無言のまま眉間を押さえた。
「お前の看病をしていただけだ」
「仕事もしてましたよね」
「ついでだ」
「絶対ついでじゃない」
日本は少し笑う。
こういう所、本当に変わらない。
自分の事になると雑なのに、他人の事になると妙に細かい。
「兄さん」
「まだ何かあるのか」
「ありがとうございます」
「……礼を言われる事ではない」
「でも、嬉しかったので」
静かな沈黙が落ちた。
日帝は何か言おうとして、結局言葉を飲み込む。
その代わり。
「……少しだけだ」
「え?」
「横になるのは、少しだけだからな」
そう言って、日帝はベッドの端へ腰掛けた。
日本はふっと笑う。
「兄さん」
「何だ」
「そこじゃなくて、ちゃんと入ってください」
「狭い」
「昔、私が熱出した時、兄さんから抱え込んでましたよ」
「……覚えているのか」
「兄さん、結構過保護でしたから」
日帝は小さく舌打ちした。
だが最終的には、諦めたように布団へ入る。
日本は満足そうに目を細めた。
「ほら、あったかいでしょう」
「……お前、熱い」
「兄さんもです」
そう言うと、日本は少しだけ兄の肩へ寄りかかった。
日帝は最初こそ何か言いたげだったが、結局押し返さない。
しばらくして。
「……日本」
「はい?」
「次からは、倒れる前に休め」
低い声だった。
命令みたいな口調なのに、どこか疲れていて。
日本は小さく笑う。
「兄さんもですよ」
「私は――」
「“平気だ”は禁止です」
先回りされ、日帝は口を閉ざした。
数秒後。
「……生意気になったな」
「兄さんの弟ですから」
その返事に、日帝は小さく息を吐く。
けれどその口元は、少しだけ緩んでいた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!