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リアムも親に愛されてなかったの?いや、でも母親には愛されている様子だった。その兄である叔父上にも慈しまれているようだ。それならば、僕のように寂しく辛い想いはしなかったのかな。
「この先、どうされますか?フィル様」
ラズールの声に顔を上げて、ラズールと目を合わせた。
そうだ。僕にはラズールがいた。全くの孤独ではなかったから、辛いばかりだった訳ではない。
僕の肩を支えるラズールの手をのけて、ゆっくりと立ち上がりゼノに聞く。
「どうするか考えるから、時間がほしい。ゼノ、国境にいる軍を、王城まで帰すことはできる?」
「クルト王子の命令があれば…」
「クルト王子に頼んだら、言ってくれると思う?」
「あの方は、大国の王子としての矜恃を持っています。こういう言い方は失礼ですが、王になられたばかりの女性の頼みは聞かないかと」
「そう…」
今度は苦悩の息を吐いて目を閉じた。
問題が山積みだ。率先してしたいことは、リアムを牢から出して治癒をすること。そしてバイロン軍を王都まで引かせること。クルト王子は、しばらく拘束していよう。今後のバイロン国との交渉で使えるはずだ。クルト王子は魔力が強いだろうから、厳重に結界を張って見張らなければ。後で僕が直接結界を張ろう。
とりあえずは、この窮屈なドレスを早く脱ぎたい。
「ラズール、僕のシャツとズボンは?」
「はい。持ってきてます」
「じゃあ着替える。この格好は疲れるから嫌だ」
「わかりました。ではゼノ殿は一旦外へ…」
「え?どうして?ここにいていいよ」
「しかし」
「僕は男だよ。ゼノもそれを知ってる」
「ラズール殿、俺は反対側を見てるから、その間に着替えを済ませればいい」
「…そうか」
納得いかない様子のラズールに、僕は首を傾ける。
痣のことを気にしてくれてるの?別に見られても平気なのに、ラズールが何を考えているのかわからないよ。
入口の方を向きながらゼノが口を開く。
「しかし残念です。そのお姿をリアム様にもお見せしたかった。お美しい姿にとても喜ばれたと思います。ああでも、誰も見てはならぬと言って、俺は天幕を追い出されそうだ」
ククッと肩を震わせてゼノが笑う。リアムがどう反応するかを想像して、可笑しかったのだろう。
背中のボタンをラズールに外してもらいながら、僕は下を見る。
こんな女装姿なのに、リアムは喜ぶ?昔からこの姿は好きじゃないけど、リアムが喜ぶのなら、たまにはいいのかな…。
「フィル様、手を」
「うん」
ラズールに言われて両手を前に出す。
スルリとドレスの袖が抜けて、上半身があらわになる。改めて蔦のような痣を見つめて、僕はあることに気づいた。
「…え?なにこれ…」
「なにか仰いましたか?」
「ううん」
慌てて首を振り、もう一度ソッと痣を見た。
蔦が伸びた先の所々に、まるで咲き始めの花の蕾のように、いくつかの赤い痣があったのだ。
ラズールが肩にかけてくれたシャツに袖を通して、急いでボタンを止める。ドレスを足元まで脱がせてもらい、ズボンを履き、上着を着てようやく落ち着いた。
でも僕の些細な変化にラズールは気づく。
「フィル様、どうかされましたか?」
僕はゆっくりと振り返る。
ラズールがドレスを丁寧に畳みながら、小さく首を傾けて僕を見つめている。
「…少し疲れただけ。休みたい。レナード、空いてる天幕ある?」
「ありますが一般兵が使う天幕なので粗末ですよ。どうぞこちらで休んでください」
「でも僕が使ったらレナードはどこで休むの?」
「トラビスの所に行きます。そちらでクルト王子を拘束しているのでしょう?俺も見張ります。ゼノ殿は空いてる天幕に案内しますよ」
「あ…」
そうだった。後で僕が結界を張りに行こうと思っていたのだった。
早速出て行こうとするレナードを、僕は慌てて引き止める。
「待って!やっぱりレナードはゼノとここにいて。僕がトラビスの所へ戻るよ。やることがあったんだ」
「よろしいのですか?」
レナードが心配そうに僕に聞く。
僕は頷いて、マントを貸してくれるように頼んだ。レナードのマントをはおりフードを被って銀髪を隠す。
「レナード、ゼノのことを頼んだよ。ゼノ、この先どうするかを決めて、また後で来るよ。それまで休んでて」
「承知致しました。どうぞ、クルト王子には油断されませんよう…」
「うん、気をつける」
頭を下げたゼノに軽く笑って、ラズールを連れて天幕を出た。
トラビスの天幕へと向かいながら、僕を守るようにして歩くラズールが疑問を口にする。
「なぜトラビスの天幕に?レナードの所で休まれたら良かったのではありませんか?かなり疲れているでしょう?顔色が優れませんよ」
「うん疲れた。ドレスは首と肩が痛くなるから」
「そんなにクルト王子のことが気になりますか?」
「うん…彼は王族だよ?きっと魔力も強いだろうし。だから僕が直接、天幕の周りに結界を張りたいんだ」
「代わりに俺がしますよ」
僕はラズールを見上げる。
心配の色を浮かべる目を見つめて、小さく首を振る。
「いいよ、僕がやる。僕は王らしいことをまだ何もできていない。少しでも役に立つことをやりたいんだ」
「わかりました。フィル様に任せます。ただレナードも言ってたように、クルト王子には注意してください」
「わかってる。でもおまえがいるから大丈夫だろ?」
「フィル様…」
僕がラズールの腕を掴んでそう言うと、珍しくラズールが照れた顔をした。