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翌日の昼休み。祥雲庵。
久条亜里沙は、その玉座で静かに目を閉じていた。
そこに現れたのは白蓮会を代表して、報告に来た鳳麗奈だった。
ただ静かに久条の向かいに座ると、自ら、お茶を淹れ始めた。
「亜里沙ちゃん。頼まれてた件の報告よ」
二人きりの時、彼女は久条をそう呼ぶ。
鳳麗奈は久条と二人きりのときは、他のメンバーのような恭しい態度ではない。
初等部一年と二年の頃からの付き合い。
父親同士が親友で、姉妹同然に育った二人だった。
それから今年の四月、久条が自ら、白蓮会へと推薦した唯一のメンバー。
それが鳳麗奈だった。
「情報統制の壁が思いのほか、厚くて全容解明には至っていないわ」
「でも確かな情報源から、いくつかわかった」
久条は目を開けない。
ただ先を促すように、僅かに顎を上げた。
鳳麗奈は続ける。
「まず音無奏の父親は医者だったわ」
「それから彼は、過去に学園側から、何らかの『便宜』を受けている」
「その『便宜』こそが息子の奨学金入学よ」
久条はゆっくりと目を開いた。
その瞳には氷のような光が宿っている。
「その背景は?」
「不明。そこが一番、固く守られてる。引き続き調査するわ」
「そう。ご苦労様、麗奈」
鳳麗奈は立ち上がると、久条の肩にそっと手を置いた。
「あまり根を詰めすぎないでね、亜里沙ちゃん。あなたらしくない」
その言葉に久条の表情が、ほんの少しだけ緩んだ。
その表情を見守りながら、鳳麗奈は、胸の奥で静かに誓った。
(この人が俯く姿だけは、絶対に見たくないわ)
すると鳳麗奈はふと思い出したように、明るい声を出す。
それは白蓮会のメンバーとしての顔ではない。ただの幼馴染としての顔だった。
「そうだ来週のお休み、うちのパパと亜里沙ちゃんのお父様でラウンド行くって。私たちも一緒に来いって言ってたよ」
久条は少しだけ、呆れたように、しかしどこか楽しげにため息をついた。
「またキャディー代わり?」
「うん。でもああいう時間って、悪くないでしょ。小さい頃みたいに」
久条は、わずかに肩をすくめたが、唇の端に笑みが宿った。
「いや、来週は、私たちもプレイしましょうよ。しっかり指導してね、麗奈」
鳳麗奈はプロゴルファーの顔に戻り、不敵に笑った。
「いいわよ。私のコーチは超厳しいわよ、覚悟してね、お姉ちゃん」
「じゃあ、またね、亜里沙ちゃん」
鳳麗奈は軽く手を振ると、まるで自分の部屋を出るかのように、自然に祥雲庵を後にしていく。
一人になった茶室。久条は窓の外の庭園を見つめる。
(医者の父。学園からの便宜。それから奨学金)
(やはり何かある。あの男の出自には、私の知らない学園の闇がある)
彼女の口元に冷たい笑みが浮かぶ。
「面白いじゃない、音無奏」
「あなたのその仮面、私が必ず剥がしてあげるわ」
俺と女王の本当の戦いは、今、静かに始まった。
#恋愛
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