テラーノベル
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第三話 顔のないドラマー
ライブ後、公式SNSにはすぐに映像が投稿された。
《スクラッチャーズ、当日参加のサポートドラマーと共演!》
動画には、K-Tがサングラスを掛けてステージへ登場する場面が映っている。
しかし、顔は見えない。
照明の逆光、サングラス、深くかぶった帽子。編集によって顔の輪郭にもぼかしが入っていた。
コメント欄には、さまざまな反応が寄せられていた。
《このドラマー誰?》
《前からいた人じゃない?》
《昔の動画にも同じドラムがある》
《でも、昔の動画にはドラマーが映ってない》
《顔に黒いもじゃもじゃが描かれてる人と同じ?》
メバルはコメントを読みながら、複雑な気持ちになった。
「みんな、Kさんの音は覚えてるのに、Kさん自身は覚えてないんだ」
「音は記録として残る」
アオノが言った。
「人物情報だけが欠落している」
「どうして?」
「不明」
「また不明かあ……」
マサカゲは過去の映像を並べていた。
古い練習動画、ライブ写真、短い宣伝映像。そのすべてに、K-Tの顔を隠す編集が施されている。
黒いもじゃもじゃ。
手書きの線。
不自然なスタンプ。
画面に映るたび、K-Tの顔は別の形に隠されていた。
「K-Tが自分で編集したのなら、顔が分からないのは当然だ」
マサカゲが言う。
「だが、なぜ他の情報まで消えている?」
アオノが映像の音声波形を確認した。
「K-Tが映る場面だけ、音声データの一部が欠落している。本人の声、足音、名前を呼ぶ声。すべてが消えている」
メバルはK-Tを見た。
「Kさん、前からこういうことあった?」
「俺は、顔を隠していた」
「それ以外は?」
「問題なかった」
「過去形なのが怖いよ」
カキが映像を見ていた。
「このもじゃもじゃ、毎回違うな」
「そこに気づくの?」
「顔を隠すなら、鉱石の絵にすればいいのに」
「まだ言うの?」
ミステーが動画を停止した。
「もじゃもじゃは、顔を消しているのではない」
「じゃあ何?」
「見る者の記憶を、顔の周辺から遠ざけている」
アオノがミステーの言葉を否定しようとした。
だが、映像データの一部に奇妙な数値が見つかった。
「映像処理に通常ではないパターンがある」
「K-Tが編集したんじゃないのか?」
マサカゲが尋ねる。
「本人の加工技術と一致する部分もある。しかし、その上から別の処理が加わっている」
メバルの表情が変わった。
「誰かが、Kさんの編集を利用して、Kさんを消した?」
「可能性はある」
その夜、六人はスタジオで検証を行った。
K-Tがドラムを叩き、メンバーが一人ずつ音を重ねる。
メバルのアコースティックギター。
カキのエレキギター。
マサカゲのベース。
ミステーのギター。
アオノのキーボード。
最後にK-Tのドラム。
しかし、何度演奏しても、他の五人の記憶は戻らなかった。
「ライブでは少し反応があったのに」
メバルが言う。
「観客の存在が必要なのかもしれない」
アオノが答えた。
「複数の人間が同時に音を認識することで、欠落した情報が共有される可能性がある」
「つまり、次のライブで演奏すれば、思い出す?」
「推測」
「原因は?」
「不明」
「そこだけ、毎回きれいに分からないね」
K-Tはドラムの前から立ち上がった。
「次のライブに出る」
「もちろん」
メバルが答えた。
「今度は最初から一緒に出ようよ」
マサカゲが首を振る。
「会場側はK-Tを正式メンバーとして認識していない。サポート扱いになる」
「それでもいい」
K-Tが言った。
「演奏できればいい」
メバルはその言葉を聞き、胸の奥が苦しくなった。
K-Tはずっと、自分が忘れられていることを知っている。
それでも、演奏することを選んでいる。
公式動画の最後に、また文字が浮かび上がった。
《顔を隠したのは誰か》
その下に、別の一文が追加された。
《忘れたのは誰か》
K-Takasaka
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#K-T
#スクラッチャーズ
#異世界転生
コメント
1件
第三話、読ませていただきました。K-Tの“忘れられ方”が、単なる隠蔽ではなく他者が意図的に存在を消している可能性に踏み込んで、ゾッとすると同時に切なくなりました。特に「演奏できればいい」と言い切るK-Tの台詞が胸に刺さります。ラストの《忘れたのは誰か》——問いかけの主が誰なのか、次の話が待ち遠しいです。