テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
397
#オリジナル
めんだこ
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夜は、やけに澄んでいた。
遠くで風が鳴る。
草が擦れる音が、静かに耳に残る。
戦いのあととは思えないほど、世界は穏やかだった。
「……明日、だね」
リュシアが、ぽつりと呟く。
焚き火の火が、小さく揺れる。
「ああ」
ノクスが短く答える。
その視線は、遠くを見ていた。
「逃げるって選択肢は?」
リュシアが冗談めかして言う。
「ないな」
ノクスは即答する。
「だろうね」
小さく笑う。
その笑いは、少しだけ震えていた。
少し離れた場所。
フィリアは、ひとりで空を見上げていた。
「……起きてるか」
後ろから声。
アルトだった。
「うん」
振り返らずに答える。
「眠れない」
「……俺もだ」
アルトは隣に立つ。
しばらく、何も言わない。
ただ同じ空を見る。
「……ねえ」
フィリアが口を開く。
「もし、負けたらどうなるのかな」
静かな問い。
怖さを隠さない声。
アルトは少しだけ考えて。
「……終わる」
正直に言う。
フィリアは、目を細める。
「そっか」
少しだけ息を吐く。
「じゃあ、負けられないね」
その言葉に、もう迷いはなかった。
アルトは横目でフィリアを見る。
「怖いか」
「うん」
即答。
でも。
「でも、行くよ」
その瞳は、強かった。
アルトは、小さく頷く。
「……ああ」
そして、少しだけ間を置いて。
「歌うか」
フィリアが、少しだけ驚いた顔をする。
「今?」
「ああ」
アルトは空を見上げる。
「こういうときに歌うためのものだろ」
フィリアは、ふっと笑う。
「……うん」
小さく頷く。
そして。
ふたりで、歌う。
あの歌を。
最初は、少しだけぎこちなく。
でも、すぐに重なる。
その声に気づいて、リュシアが顔を上げる。
「……なにそれ」
ノクスも視線を向ける。
「歌ってる」
リュシアが、少しだけ笑う。
「こんなときに?」
「こんなときだからだろ」
ノクスが言う。
やがて。
リュシアも、小さく口ずさむ。
ノクスは歌わない。
でも、そこにいる。
火が揺れる。
夜が、静かに流れる。
それは、きっと。
最後の“日常”だった。
歌が終わる。
誰も、すぐには言葉を出さない。
フィリアが、小さく息を吐く。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせるように。
アルトは、それを聞いて。
「大丈夫だ」
と答える。
根拠なんてない。
でも、その言葉は嘘じゃなかった。
守ると決めたから。
夜は、やがて明ける。
戦いの朝が、来る。