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昼休みが終わった。
先輩と過ごす時間は、楽しすぎてあっと言う間だ。
気づけばもう授業が始まっていた。
……サボりたいな。
いや、ダメだ。
先輩や周囲にだらしないところを見せるわけにはいかない。俺は先輩の恋人として振舞わなければならないのだから。
――放課後――
「……やっと終わった」
頭から煙が出そうだ。まともに授業を受けるというのは、こんなに集中力を使うんだな。頭痛を感じていると、スマホに連絡が入った。先輩からだ。
柚先輩:一緒に帰ろ
先輩から誘ってくれる……だと。
愁:もちろんです! 昇降口で待ち合わせしましょう
柚先輩:オッケー。待ってるね
よし、これで先輩と一緒に帰れる。まさか誘ってくれるとは思わなかったけど。
荷物をまとめ、俺は教室を後にした。
階段を降り昇降口を目指す。
小走りで向かうと、そこには――え。
「和泉先輩、俺と帰りましょうよ」
「…………」
先輩、誰かにからまれてるじゃないか。あの余裕のある顔……確か、資産家の息子だっけ。名前は『牧田』だったかな。
野郎、俺より先に先輩と合流するとは。
引き剥がしてやろうとすると、牧田は信じられない行動に出た。
「なんでこっち見てくれないんですか、和泉先輩! まさか、あのヒョロヒョロの秋永ってヤツと本当に付き合っているんですか!? あんなゴミと関わらない方がいいですよ。人間のクズっすよ、あれは」
俺に対し暴言を吐きまくって、あろうことか先輩を壁ドンしていた。
「…………」
先輩は涙目で今にも泣きだしそうだ。
牧田、てめぇは殺す!
俺は、牧田の肩を強く掴んだ。
「やめろ」
「……ぐっ!? なんだ、誰だ!! ……って、秋永じゃねえか! 離せ!」
「牧田、お前こそ先輩に何してんだ」
「お前には関係ないことだ。雑魚はすっこんでろ!」
拳が飛んでくるが、遅くてアクビが出るほどショボかった。って、まてパンチがショボすぎるだろ!!
こんなの小学生でも避けれるってーの。
俺は余裕で回避して、回避しまくった。
「おいおい、牧田……お前ケンカしたことないだろ。俺もだけどな」
「う、うるせえ!!!」
「おっと、あぶねえ」
怒りのパンチ(弱)が飛んでくるが、俺はうまくかわした。その時、牧田はバランスを崩してコンクリートの壁に激突。自爆した。
「……ぶはぁぁッ!!!」
骨が砕けるような鈍い音がしたけど……大丈夫だろうか。牧田は地面に倒れて伸びてしまった。アホだこいつ。
「先輩、牧田は勝手に気絶しました。帰りましょう」
「……う、うん。大丈夫かな」
「自業自得です。放っておきましょ」
「そ、そうだね……」
直ぐに靴へ履き替え、昇降口を出た。
「先輩、ケガはないです?」
「大丈夫。ていうか、愁くんって格闘家みたいだった。かっこよかった」
「いやいや、あれは牧田のパンチがショボすぎただけです」
「かわして何とかしちゃうなんて凄いよ」
「まぁ、冒険者ギルドでよく親父と剣士ごっことかしていましたからね」
あの修行(?)おかげで避けるのだけは得意だった。回避力はあるのかもな、俺。
「へえ、そんなことしていたんだ。面白いね、愁くん」
「そう言われると恥ずかしいっすね……」
「ううん。これでも理解しているつもり。わたしだって冒険者ギルドでコスしてるし」
「あ、そっか。そうだ、先輩のコスプレ見せてくださいよ」
「う~ん、準備に時間が掛かるから今度ね」
確かに、あの規模を準備するとなると一時間以上は掛かるだろうしな。土日限定なのもうなずける。
「分かりました。約束ですよ」
「楽しみにしておいて」
またひとつ楽しみが増えた。
土日が待ち遠しいな。
「これからどうします?」
「うーん、恋人のふりは続けたいから……ゲームセンターとかどう?」
「い、いいですよ。デートのド定番ですからね」
「じゃ、じゃあ、手を繋いでくれる?」
先輩から手を差し伸べられ、俺は胸を撃ち抜かれた気分になった。そんな風にモジモジしながらとか……可愛すぎてたまらない。
もちろん、俺は先輩の手を握った。