テラーノベル
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差し込む朝日に、滉斗はいつもより早く目を覚ました。
隣の部屋から微かに聞こえてくる、元貴の規則正しい寝息。かつての戦場では決して許されなかった「無防備な朝」が、今の彼にとっては何よりの宝物だ。
(……今日は、まだ寝てるふりをしておくか)
ふとした悪戯心が芽生えた。
普段の滉斗は、元貴がどれほど揺さぶっても、あるいは耳元で大声を張り上げても、岩のように眠り続けるのだが、必死になって自分を起こそうとする元貴の、困ったような、それでいて自分を必要としているあの表情を、もう少しだけ堪能したくなったのだ。
パタパタと、板間を駆ける軽い足音が聞こえてきた。
「ひろぱ、朝だよ。起きて。もうお日様があんなに高いよ」
元貴の声が響く。滉斗はわざとらしく、低い唸り声を一つ上げて、毛布を頭まで被り直す。
「もう……本当にひろぱは。ほら、今日は村の集会があるって言ったでしょ」
元貴がベッドの端に腰掛け、滉斗の肩を全力で揺さぶり始めた。小さな体で、一生懸命に力を込める感触。滉斗は必死に、口角が緩みそうになるのを堪える。
「……うーん……あと五分……」
「五分をもう三回言ったよ! ほら、起きて!」
元貴はついに、毛布を剥ぎ取ろうと四苦八苦し始めた。
しかし、鍛え抜かれた滉斗の体は重く、元貴がどれほど力を込めても、びくともしない。元貴はついに諦めたのか、揺さぶる手を止め、ふぅと短いため息をついた。
(そろそろ起きるか。あまり困らせるのも悪いしな)
滉斗が目を開けるタイミングを計っていた、その時。
枕元で、元貴が小さく屈み込む気配がした。そして、耳元に温かな吐息が触れ、消え入りそうなほど柔らかな囁きが届いた。
「……大好きだよ。……だから、早く起きて僕と笑ってよ、旦那様」
「…………ッ!」
次の瞬間、滉斗は弾かれたように起き上がった。
その顔は、かつての氷剣術で凍りついていた冷徹さなど微塵もなく、耳の先まで真っ赤に染まっている。
「あ、起きた! ……って、ひろぱ? 顔、真っ赤だよ? 熱でもあるの?」
無邪気に顔を覗き込んでくる元貴に対し、滉斗は視線を泳がせながら、片手で顔を覆う。
「……お前、今、なんて……」
「え? 『早く起きて』って言ったけど」
元貴は小悪魔のように首を傾げた。その瞳の奥には、滉斗が「狸寝入り」をしていたことを見抜いていたような、微かな悪戯っぽさが光っている。
「……卑怯だろ、それは」
「ふふ、起きてくれたから正解。さあ、冷めないうちに朝ごはん食べよ? 旦那様」
もう一度重ねられたその言葉に、最強の剣士はついに降参し、幸せな敗北感と共に、愛する人の後を追ってリビングへと向かうのだった。
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