テラーノベル
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(☕️視点)
「もしもし、カイリュウ、?」
「…おん、ラン、?どうしてん?」
数日に渡る東京でのオーディションが終わり、俺は今、ホテルの一室にいる。
スーツケースを広げながら荷物を整理していると、ランから電話が掛かってきた。
少しだけ久しぶりに聞いたその声に、なんだか照れくさいような、変な気持ちになりながら、スピーカーにしたスマホをベッドに置いて、片付けを再開する。
「オーディション、どうやった?」
「まぁ100点中200点やな」
「ははっ、そっか。さすがやん。」
「そろそろ自分の才能が怖ろしいわ。」
「ふふっ、まじでそういうとこ尊敬してる。笑」
サラっと素直にそんな事を言ってのけるランに、それはこっちのセリフやねん、なんて密かに思いながらも、ふふっ、とつられて笑った。
「……で、なん?なんか話でもあったん?」
「え?…なんで?」
「話あるから電話したんとちゃうん?」
「……無いとダメやった?」
「えっ、?…や、ダメちゃうけど…っ、」
何となくランの声が小さくなった気がして、荷物から目を離して、スマホに視線を向けた。
「……カイリュウも電話してきたやん。」
「え、?」
「こないだ、俺が東京で仕事やったとき、電話してきたやろ?」
「っ…あれは、ちょっと店の仕様変わったん、教えたろって思っただけやんけ…っ、」
「……そんなん、出勤した時でよかったやん。」
「……っ、え、ええやろ別に。お前真面目やし、先に言うた方がええかなって、気遣っただけや、」
「その割にめっちゃ長電話やったやん?」
「いやっ、それはお前も話長いねん、俺のせいだけちゃうやろ…っ、」
「……なーんだ。寂しいんやと思ってた。」
「っ、は、?/」
畳み掛けるようなランの生意気さに、詰めたばかりの服をまた取り出したり、自分でも分かりやすく動揺していて1人で恥ずかしくなる。
「……あ、いや?…ねぇ、あるよ、話。」
「はぁ、?なんやねんっ、はよ言えや…っ、」
「……かいりゅう、早く帰ってきて。」
「っ、ぅん、?」
いきなり切実な声で”早く帰ってきて”なんて言われて、なんだか甘えているようなその言葉に思わず動揺して、閉めようとしたスーツケースに手を挟んでしまった。
「い”っ、だぁ…っ、!」
「え?!カイリュウ、?!どうした?!」
「っ、、なんでもな…っ、」
なんやねん、ランのやつ、いきなり何言い出すねん…っ、
いや、俺も別に、こんな動揺せんでええやろ…
そら、店の負担考えたら、俺がおらへんのはでかいしな。
「え、大丈夫なん、?」
「大丈夫やって、、なんやねん、急に…っ、」
「や、、うん…まぁ、帰ってきたらわかると思う……」
「は、?おい、何の話やねん、?」
「うん……とりあえず、早く帰ってきてよ、、」
何か店であったんか…?
そう予感しながらも、少しだけランをからかってやろうと口角を上げた。
「……お前、そんなん言うて、ほんまは俺がおらんで寂しいんとちゃうん?」
「え、?」
「お前こそほんまは、寂しくて電話したんやろ?子供やからな〜、ランは。」
仕返しのようにランを煽ると、少しだけ電話口が静かになる。
……あかん、ちょっと言い過ぎたかもしらへん。
「……ラン?ごめ…、」
「うん。寂しいよ。」
「……え、?」
「やけん、早く帰ってきてよ。」
「っ、、」
「……カイリュウー、?」
「……心配せんでも、明日帰るわ…っ、」
「…そっか。じゃあ、待っとうよ、」
「っ、おん、…もう切るな、?」
「うん。ばいばい、明日ね。」
電話を切って、スマホを軽くベッドに放り投げると、無意識に顔を手で覆った。
「……っ、あっつぅ、、」
クーラーが効いているはずなのに、じっとり額に汗をかいていて、手に触れている頬がやたらと熱かった。
***
「………なんやねん、あれ…っ、」
「……やけん、言ったやん……」
久しぶりに店に来ると、目の前にはなんだか甘ったるい空気が漂っていた。
「セイちゃんっ、ねぇ見て〜?これ、友達のカメラマンに撮ってもらってん!ナオかわいっ?」
「え、?どれ、っ、かわい…っ!え、かわいすぎひん、?なぁこれ俺に送ってや?」
「えぇ〜?♡も〜しょうがないなぁ〜?♡」
「……てかかわいいけど、何こんなん撮らしてんねん?ほいほい撮らしたらあかんやろ、ナオちゃん。」
「あっ、やきもち?も〜、セイちゃん、ほんまに嫉妬深いねんから〜♡」
「ナオちゃん可愛いねんから、そら心配なるやろ。」
「んふふ♡も〜、せーちゃん、だーいすきっ♡」
何やらナオヤがセイトにスマホを見せながら、ゼロ距離でふにゃふにゃと甘えた声を出している。
セイトもセイトで、何回可愛い言うねんとツッコミたくなるほど、ナオヤの事をベタベタに甘やかしている。
ランと並んでその光景を眺めながら、2人の事を聞こえないようにボソボソと話す。
「……これか、お前が言うてたん、、」
「……これ、1人で耐えとったん、まじで褒めてくれん?」
「………おん。お前すごいわ。偉いで、ラン。笑」
これは、まぁ、キツかったやろな。笑
……そりゃあ、俺に電話もしたなるわ。
頑張りを称えるように、ポンポンと頭を叩いてやると、なんだか嬉しそうに口角を上げるラン。
ふはっ、ほんまに子供みたいやな、ランは。
……いや、子供いうか、犬やな、犬。大型犬。毛がフワッフワのやつ。
ランを見ながらそんな事を考えていると、ほんまに犬みたいに思えてきて、1人でふっと思わず笑ってしまった。
***
(🦅視点)
ナオヤへの付き纏い男の件があってから、1人で心配していたのも束の間、次にセイトさんに会った時には、すでに2人はこの状態で。
……聞くのも野暮か、なんて、2人に何があったかは、まだ何も知らないままでいる。
まぁ、見とったら分かるし、…付き合っとるの。笑
「……これか、お前が言うてたん、、」
やっとこの状況を理解してくれたカイリュウが、横で苦笑いをしている。
なんとなく冗談混じりに、ここに1人にされていたことを”褒めて”なんて甘えてみると、笑いながらもカイリュウの手が俺の頭に触れてくる。
そのままポンポンと撫でるように叩かれ、本当に褒めてくれるようなその仕草に、思わず嬉しくなってしまった。
「……ふはっ。」
「え…っ、なん、?」
「んーん。なんでもあらへん。」
ふいにカイリュウが俺の顔を見て、小さく笑った。
なんだかニヤニヤしているのが気になったけど、また視線をナオヤ達の方に向けたカイリュウを見て、つられるように視線をやった。
「……まぁ、でも、良かったやんけ。」
「え、?」
「あいつら、上手くいったいうことやろ?……ナオヤももう、心配いらへんな。」
そう言いながらナオヤを眺めるカイリュウは、ふっ、と優しい笑みを浮かべて、なんだか嬉しそうな表情をしていた。
……静かに2人を祝福しているような、そんな眼差し。
カイリュウはきっと、ずっとそうやって、ナオヤを見守ってきたんやな。
そんな事を考えながら、ナオヤを見つめる優しいその目に、なんだか胸が熱くなっていた。
ーーーーーーーーーーー
(🍓視点)
『リュウキ:たっくんおはよー』
『リュウキ:昨日はありがとう。今日もよろしくね』
朝起きて、ベッドの上でごろつきながらスマホを確認すると、リュウキからラインが来ていた。
「早起きやな…」
やっぱり若いな、なんて年齢差を少し感じつつも、返事を打つ。
『おはよ。ちゃんと帰れた?』
『リュウキ:うん。当たり前やろ。笑』
「ふっ、、はや。笑」
相変わらず返信の早いリュウキに、1人で小さく吹き出した。
ずっとスマホいじってんのかよ、まぁ大学生なんてそんなもんか。
……それとも、俺だから、なんて。
『今なにしてんの?』
ふと気になって、いつもはあまり返さないラインを、すぐに送ってしまった。
身支度を済ませてスマホを見ると、返事はまだ来ていない。
リュウキがこんなに返信遅いなんて、珍しいな。
『寝た?』
「っ……いやだるいだろこんなの、」
送信してしまった2文字を秒で後悔し、取り消そうとした瞬間に画面が更新された。
『リュウキ:ごめん!電話しとった』
『リュウキ:え、既読やん』
『リュウキ:もしかして待っとった?』
ポン、ポン、と急に更新されていく画面に焦り、ラインを閉じようとすると数秒遅れてまた画面が動いた。
『リュウキ:やばい、嬉しい』
「っ、…なんだよ、それ…っ、」
リュウキのストレートすぎるその言葉に、恥ずかしいような、…でも嬉しいような、そんなこそばゆい気持ちになって、思わず笑みがこぼれる。
リュウキからの好意は、戸惑いもあるけど、…正直なところ、嬉しく思っている自分がいて。
でもそれと同時に、リュウキの事を時々、眩しく感じてしまう。
なんで、こんなに素直に、気持ちをぶつけられるんだろう。
嬉しいと思う反面、どこか、羨ましく感じていた。
こんな風に、真っ直ぐ、気持ちを伝えられたらいいのに。
もう、そんな距離にも、いないけど。
……俺は、いつまで、この気持ちを抱えて生きていくんだろうか。
そんな事を考えていると、胸が苦しくなって、少しだけ縋るように、リュウキからのラインを眺めていた。
***
(🐿視点)
「……ねぇ、こんな朝から電話しないで?」
電話口から、トムのうんざりしたような声が聞こえてくる。
朝起きて、たっくんにおはようとラインを送ってから、トムに昨日の事、今日またたっくんと会えることになった事をラインで話した。
トムから返事が来てすぐに電話をかけると、想像通りのこの反応。
「ええやん、起きとったんやろ?」
「いや、起きてたけどさ…てか、リュウキ起きるの早いね」
「……そう?」
「……あ、先輩と会うの楽しみすぎて、早起きしちゃったんやろ?かわい〜。笑」
「は?おい黙れや」
正直図星で、思わずそれを隠すようにトムに暴言を吐いてしまった。
……まぁ、俺がこういう性格なんは、よく分かっとうと思うけど。
「で、なに?」
「いや、今日さ、たっくんと会うやん、?」
「うん。で?」
「……何すればいいと思う?」
「はぁっ?」
「誘ったんはええんやけど、ノープラン。やばい、」
「はぁ?!も〜、バカじゃん!」
「まじお願い、一緒に考えて。」
「も〜、知らないよそんなの!」
はぁ、とトムの溜め息が聞こえ、さすがに自分でも馬鹿やな、なんて思う。
「ゲーセンでも行けば?」
「前行った」
「じゃあ買い物」
「それはデートすぎて緊張する。」
「……家行ったのに何言ってんの?」
「いや、それはたっくんが誘ってくれたけん…」
「何がどう違うの…笑」
「もうちょいなんか丁度いいの無いと?」
「も〜、人任せすぎるって…あ、」
「ん?なん?」
何かを思いついたようなトムの声に耳を傾け、その後に聞こえてきた言葉に、それや!と思わずでかい声を発すると、いつものようにうるさいと怒られてしまった。
……
「え?海、?」
「うん。今日、海行かん?」
トムとの電話を終え、たっくんに電話すると、早速さっきトムに提案された場所へ誘ってみる。
「いーよ?」
「じゃあ決定ね!」
「…泳ぐの?」
「え?泳ぐやろ当たり前に。笑」
「ふふっ。だろうね。笑」
「……ねぇ、たっくん。」
「ん、?」
「さっき、俺のライン、待っとった?」
「……リュウキが返事遅いの、珍しかったから。」
「電話しとったけん。」
「……うん。」
「……心配した、?」
「……したよ。」
「っ、…やばい、ばり嬉しい。」
「……もうそれラインで聞いたし…っ、」
「あ、照れとうと?」
「……やっぱ海行かん。」
「は?!ねぇそれは違うやろ!ごめんって!!」
「ふふっ、嘘だよ、焦りすぎ。笑」
ふいに見せられたたっくんの可愛い一面と、電話口から聞こえる笑い声に、愛おしさで胸がきゅっと締め付けられる。
「…たっくん、」
「……今度はなに、?笑」
「っ、………また後でね、?」
「え、?…あ、もうそんな時間か。…うん。また後でね、」
“早く会いたい”と言い出せなくて、また後でね、という言葉に変えて、電話を切った。
***
「うわ〜、人、多っ、、!」
「夏休みだし、そりゃ多いっしょ…笑」
たっくんと合流して海に着くと、まだ早い時間なのにすでに海岸は多くの人で溢れ返っていた。
砂浜を歩いていると、賑わっているその中で、一際よく通る声が耳に入ってくる。
「海の家いかがっすか〜!」
「……あ。笑」
「ん?なに、リュウキ」
「たっくん、ちょっと、こっち!」
「えっ?なにっ?」
見覚えのあるその姿に、思わずテンションが上がって、たっくんの腕を引っ張って近づいていく。
「カイリュウ!」
「ん?…お〜!リュウキやんけ!久しぶりやのー」
声を掛けると、俺の顔を見て、嬉しそうに反応してくれるカイリュウ。
「なんしよーと?声かけ?」
「おん、こんな人おるのに全然客来うへんねん。…あ、ちょうどええやん。リュウキ、お前来い。笑」
「え?おいなんでや。笑」
「ええやんけ、どうせ暇やろ……
カイリュウが言いかけた言葉を急に止め、俺の後ろにいたたっくんに気が付くと、再び俺に視線を戻し、耳元に顔を近づけてくる。
「……なんやねん、デートか、?笑」
「っ、、え、?!/」
そう小さく耳打ちして、にやにやと俺を見てくるカイリュウ。
「よかったなぁ、リュウキ〜。笑」
「ちがっ、、おいっ、カイリュウ…っ、!/」
「…リュウキ?」
「あっ、たっくん、.…ほら、カイリュウ。前に会ったの覚えとう?海の家の、、」
「……あ〜。リュウキがナンパした人だ。」
「おん、正解。笑」
「はっ、?!いや、たっくん、まじで違うけん!」
「違わへんで。俺仕事中やったのに飲もう言うてしつこかってんこいつ。笑」
「おいカイリュウ!!」
「へぇ〜、、?」
「おいたっくん!まじで違うから!」
「ふははっ。2人で遊び来たん?海入んの?」
「うん、入る!」
「ほんなら尚更来い。うちで着替えたらええやん」
「え?あ、そっか。じゃー行く!」
そのままカイリュウに連れられて、3人で海の家へと向かった。
***
「ラン〜〜」
「ん〜?」
店内に入ると、カイリュウがすぐにラン兄を呼んだ。
パタパタと向こうからラン兄がやってきて、俺達を見るとパッと嬉しそうな顔をしてくれた。
「あっ、たっくんとリュウキやん、いらっしゃい!」
「ラン兄やっほー。」
「ラン、久しぶり。」
「2人で来たん?」
「うん、カイリュウに捕まった。笑」
「あははっ、そうやったん。笑」
そう言いながら俺達を眺めて、なんだかニヤニヤし始めるラン兄。
「……え、ラン兄、なん?」
「いや、?……え、これって、突っ込んでええやつ、?笑」
「ええやろ。どっからどう見てもデートやんけ。笑」
「はぁっ、?ちょ、なん言いようと…っ、/」
横からカイリュウがズバッと言い切って、思わずたっくんの顔を見てしまう。
ん、?と首を傾げながら、少し口角を上げて俺を見るたっくん。
あ〜〜、もう。
その反応はずるいやろ、!
「っ、/たっくん、早く着替えよ!!」
「えっ、ちょ、リュウキ、引っ張んなって…っ、」
「ふははっ。はいはい、更衣室な。あっちやで。笑」
恥ずかしくて、すぐにカイリュウが指さした方へとたっくんを引っ張って、逃げるように更衣室に向かった。
***
「あっつー!!」
着替えを終えて砂浜に出ると、じりじりとした日差しが、無防備に晒された肌を照りつける。
「今日は海で正解やな…」
そう言いながら、たっくんが何気なく羽織っていた薄手のパーカーを脱いだ瞬間、思わず釘付けになってしまった。
細いのに、程よく鍛えられた綺麗な身体つきに、しっかりと割れている腹筋。
まじでなんなんこの人、身体までかっこええんかよ。ガチでずるすぎるって、、
「……なに?笑」
「えっ、?あ、、いや、?/あ、暑いけん早く入ろ…っ、!!」
俺の視線に気付いたのかどうなのか、たっくんに笑われて、誤魔化すように足早に海に向かった。
「やばっ、!めっちゃ気持ちー!!」
海に入ると、丁度いい冷たさが身体に染み渡り、テンションも口角も上がっていく。
「夏やー!!」
「ふはっ。笑」
「なん、?」
「別に?楽しそうやなーって。笑」
俺のテンションに笑うたっくんに、悪戯心が湧いて、少しずつ近づいていく。
「……たっくん。」
「ん?…っ、おい、ちょ…っ、?!」
返事が聞こえた瞬間に、バシャッ!!と勢いよく水をかけると、一気にずぶ濡れになるたっくん。
「うわっ、!!おいバカ、!」
「うはははっ!!ぼーっとしとるけん!笑」
「お前…っ、覚えとけよ。笑」
一瞬で全身濡れたことで吹っ切れたのか、たっくんがそのままずんずんと海に入っていく。
「たっくんってさ、泳げると?」
「泳げるよ。笑」
「どんくらい?」
「どんくらい…?えぇ〜…泳いでみないとわかんない。」
「じゃあどっちが早いか競走しようや!」
「ぶっ、小学生やん。笑」
「あ、自信ないん?笑」
「あるし。」
「あるんや(笑)え、じゃあ負けたら?」
「んー、リュウキの言うこと聞く。」
「……まじ?」
「できる範囲のやつな?笑」
「ガチで絶対勝つ」
「ふふっ。じゃあよーいどんして。」
「おっけー。じゃああそこの岩場までね!よーい、どんっ、!」
勝負事、それもたっくんが言うこと聞いてくれるなんて、と本気で挑むも、あと一歩届かずでたっくんが先に岩場に手をつけた。
「っ、は?!たっくん早くない?!」
「だから言ったろ。笑」
肩で息をしながら近付くと、勝ち誇ったように笑うたっくん。
「あ〜、も〜!悔しい〜!……てかちょい休憩、、」
「ははっ、めっちゃ疲れてんじゃん。笑」
当たり前やん、……こんなチャンス、滅多にないんやけん。
本気を出しすぎた反動で力が抜けて、その場でぷかぷかと浮かびながら、ぼーっと空を眺めた。
「たっくん見て、空めっちゃ綺麗。」
「そのまま流されんなよ。笑」
「流されんって!……あ、ねぇ、俺浮き輪借りてくる。ちょっと待ってて」
「うん、わかった」
砂浜に上がって、海の家に向かうと、カウンターにいたラン兄に声を掛けた。
「ラン兄〜」
「おーリュウキ、どした?」
「浮き輪貸して〜」
「ええよ。浮き輪ね、ちょい待って。」
そう言うと奥から浮き輪を持ってきて、空気を入れながらラン兄が話を振ってくる。
「……ご飯、どうやったん?」
「え、?」
「前ここで話してくれたやん。たっくん、誘ったんやろ?」
「っ…うん、…ご飯っていうか、…家行った。」
「はっ?!え?!い、家?!」
「うん。笑」
浮き輪から俺に視線を上げて、目を丸くして驚くラン兄に、ちょっとだけ誇らしげに返事をしてしまった。
「え……、もしかして、もう付き合っとう?」
「やったらこんな緊張しとらんけん…」
「あははっ!かわいーな。笑」
「おい可愛い言うな、!」
少し俺をからかいながらも、話を続けるラン兄。
「でも、そんなん秒読みとちゃうん?」
「そう、なんかなぁ……、」
空気を入れるラン兄の手元を眺めながら、そう曖昧な返事をしつつも、そうやったらいいな、なんて前向きに思い直す。
「…まぁ、そうなれるように頑張るだけやけん。」
「お、相変わらずかっこええやん?」
「まあね?笑」
ふふふっ、と2人で笑った後、ラン兄がパンパンに膨れ上がったピンクの浮き輪を俺に差し出した。
「はいっ、でーきた。1番可愛いやつ。笑」
「は?!おいなんでや!!」
「今これしかないもん。」
「絶対嘘やろ!笑」
「じゃあいらんの?ほれ、たっくん待っとんやろ。笑」
「も〜!最悪!!笑」
俺の嘆きに、はははっ!と楽しそうに笑うラン兄。
仕方なく浮き輪を受け取り、戻ろうと背を向けると呼び止められた。
「あ、リュウキ。」
「ん?」
「……頑張れよ、?」
「っ、……おす。/」
にっ、と口角を上げて、そう言ってくれたラン兄に、照れ臭くなりながらも返事をして、再び背を向けた。
2.3歩進んだところで、少し気合いを入れたくなって、またラン兄の元へと戻っていく。
「……ラン兄、」
「ん?」
「背中叩いて…っ」
「ふっ。ええよ?」
ラン兄がくるっと俺の身体を回し、バシッと背中を叩いた。
「はい。いってらっしゃい?」
「ありがと、」
ニコッと笑顔を向けて、手を振ってくれるラン兄に手を振り返すと、たっくんが待っている海辺へと向かった。
***
「おかえり、」
「ただいま」
俺の顔を見ておかえりと言った後、視線がすぐに浮き輪へと向かうたっくん。
「え、なんか可愛いの持ってる。笑」
「これしか無いとかラン兄が言うけん…」
「あいつ、絶対ウソ。笑」
「よね?!も〜!まじでなんなん…っ、」
「ふふっ。ランっぽいな。笑」
ぶつくさ文句をいいながらも、浮き輪を使って海にぷかぷかと浮かんでみる。
「うわぁ〜ダサいけどめっちゃ楽〜!」
「ぶふっ、似合ってるよ、、っ笑」
「おい笑うなや!!/」
「いやっ、まじだって。めっちゃかわいい。笑」
「〜っ、/さいあく、、っ、」
楽しそうに笑いながら、俺をからかうたっくん。
恥ずかしかったけど、たっくんが笑ってくれるなら、まぁいいやなんて思えてしまう。
「…てかやばい、さっきの結構体力使った。」
「え?競走?」
「うん」
「全力出しすぎだろ。笑」
「だって勝ちたかったもん」
「なんで、?」
「え…っ、? ……なんでっ、て、」
「……リュウキ。」
「っ、、え…っ、、」
たっくんがふいに浮き輪へ腕を乗せて、距離が一気に縮まった。
ちゃぷん、と水が揺れて、たっくんの顔がまっすぐに俺に向けられる。
濡れた前髪の隙間から見つめてくるたっくんの目に、心臓がうるさいくらい鳴り始めた。
「…っ、え、な、なに…っ、/」
「……ふふっ。笑」
戸惑って固まっている俺を見て、にやっと意地悪く笑う。
「油断しすぎ。笑」
「っ、え?ちょっ、たっく…?!…うわっ、!!!?」
叫ぶ間もなく、たっくんがグイッと浮き輪の片側を力任せに押し込んだ。
視界がぐるりと回転して、そのまま頭から海へと投げ出される。
「うわっ!!ぶっ、、!げほっ、おいゴラっ、!!笑」
「あははっ、!!ぶっ、ふふっ、はは…っ!!笑」
慌てて水面に顔を出して、髪をかき上げながら笑い混じりに怒鳴ると、たっくんが声を出して笑い始めた。
楽しそうに、無邪気に笑うその姿に、胸がきゅんと高鳴って、じわりと心が熱くなっていく。
「っ、、たっくん…っ、」
「く、ふふ…っ、覚えとけって言ったろ?笑」
悔しいはずなのに、子供みたいにそう言うたっくんが可愛くて、そんな事はもうどうでもよかった。
いつも大人で余裕があって、かっこいいのに、たまにこういう一面を見せてきて、また、惹き込まれていく。
もっと、いろんなたっくんを、独り占めできたらいいのに。
「……やっぱりさっきの、勝ちたかった」
「ん、?なに…っ、?」
「なんでもない…っ、」
“リュウキの言うこと聞く”
……あの約束、勝ち取りたかったな。
そんな事を密かに考えながら、ひっくり返された浮き輪に手を掛けた。
***
午前中の賑わいとはがらりと雰囲気が変わって、夕方になると海岸は人が減り、オレンジ色の夕焼けに包まれている。
着替えを終えると、海岸に並んで腰を下ろした。
「…遊んだね〜」
「…遊んだな〜」
「んはっ、なに?笑」
「ふふ。なんだよ、?笑」
俺の言葉を同じ声のトーンで返してきたたっくんに、思わず2人でくすくす笑う。
「……疲れたね〜」
「……疲れたな〜」
「もうええって。笑」
「今のはリュウキが悪いやろ。笑」
小さなやり取りでも楽しくて、 つい調子に乗って同じノリを繰り返した。
少しずつ辺りが暗くなっていくのを感じながらも、まだたっくんと一緒にいたくて、ぽつりぽつりと会話を続ける。
「夕方の海ってさぁ、めっちゃ綺麗よね」
「うん。綺麗だね、」
「でもちょっと寂しくない?」
「ん〜、……そうかもね、」
この時間が終わるのが寂しい、
そういう意味も含めて、たっくんを見て言葉を放った。
俺のその言葉に、たっくんは海を見つめながら、少し遅れて返事をした。
見つめる方向が違うことに、少し返事が遅れたことに、自分勝手に切なくなりながら、たっくんの視線を追うように海に目をやった。
「……たっくん、休みの日、俺にくれてありがとう。」
「…ううん、?ありがとね、誘ってくれて。」
「……楽しかったなぁー、、?」
再びたっくんを見て、言葉を誘うようにそう言うと、視線と意図に気付いたのか、たっくんが俺を見てふふっと笑い出す。
「なに。笑」
「なにが、?笑」
「ふふっ。……楽しかったよ、俺も。」
「っ、、うん。よかった…っ、」
言わせたくせに、恥ずかしくなって海を眺めた。
少し間が空いて、心地良い波音が耳に入ってくる。
そろそろ、……帰ろっか、って、言われちゃうかな。
寂しい、
帰りたくない。
「…帰りたくないな」
「えっ、?」
「……って、思った?」
「っ、、なにそれ、……ずるいやんか、、」
一瞬、期待してしまった。
たっくんのずるい言い方に、思わず拗ねた声を出してしまう。
「なんでずるいの?」
「いや…っ、だって……、」
「ずるくないだろ。俺も思ったし。」
「……っ、、え…、?」
「……そのくらい、楽しかったよ。ありがとね、?リュウキ。」
「っ、、/うん…っ、」
海じゃなくて、ちゃんと俺を見て、そう言ってくれたことに、胸がぎゅっと締め付けられて、苦しくなるくらいに、嬉しかった。
「たっくん、」
「ん?」
「……俺、また、誘うから。また一緒に、楽しいことしようね?」
「…っ、ふふ。うん。ありがとね、」
たっくんの手が頭に触れて、優しく撫でられる。
ずっとこのままでおれたらいいのに、なんて思いながらも、たっくんの手が離れた瞬間に、小さく言葉を発した。
「……ばいばい、?」
自分でも、感情が出過ぎてると気付けるくらいに、名残惜しく出したその言葉を聞いたたっくんが、ふっ、と小さく微笑んだ後、口を開いた。
「……またね?」
「……っ、/…うん、…またね、っ、」
少し考えて、またね、と返してくれたたっくんのことが、やっぱり、どうしようもなく好きだと思った。
***
(🍓視点)
リュウキを見送った後、楽しかったという余韻が、胸の中に広がっていく。
リュウキと会うと、いつも自分じゃないみたいに、はしゃいでいる瞬間がある。
喜んだり、怒ったり、口が悪いかと思えば、可愛い笑顔を見せて、純粋な気持ちをぶつけてくれる。
そんなリュウキの、素直で明るい眩しさに、
俺はきっと、少しずつ、惹かれている。
……そう、思えたから。
今なら、覚悟が、できるかもしれない。
スマホを取り出して、止まったままになっているトーク画面を開いた。
『やっぱりあの話、もう一度考えて欲しい』
すでに何度も目にしたその一文を、数秒眺めた後、文字を打った。
『その話は断ったはずだよ』
ずっと返せないでいた返事を送信した手が、少しだけ、震えていた。
コメント
9件

やばーーい!!! 🐰💖も幸せそうで嬉しいし、 久々の🍓🐿️でキャパオーバー 次のカップルは🦅☕️って予想したけど、いや🍓🐿️もあるなって自分と葛藤してます笑 🍓の最後ところは先生からなのかなと予想しています♪ 次が楽しみすぎます✨
タクリュキ来ちゃー🫶 海デートは最高すぎる🥹リューキと無邪気に遊んでるたっくんが最高🥰 たまに見せる子供っぽいとこがまたええよなぁ🥰

更新ありがとうございます!! せいなおはとにかく尊い💞💞 カイランはランくんが急に甘えるのは反則級です💘💘 タクリュキは安定だぁぁぁぁ リュウキの無邪気さに、一緒になってバカしてるたっくんが可愛すぎます😍😍 たっくんの最後のシーンは次に進展がありそうで楽しみです😭😭 次回も楽しみにしてます!!